第34話
ルッシの大聖堂の調査を始めて一週間。マーガレットたちはいまだに手掛かりをつかめないまま大聖堂の中をさまよい歩いていた。
「うーん。困ったわね……これは例の本がここにはないのか、はたまた巧妙に隠されすぎているのか……」
今、カバンの中にあるミカの聖書はかなり強力な魔力を放っている。なので、どこかに隠されていれば少なからず魔力を感じることぐらいはできるかもしれないと考えていたのだが、どうやらそう言ったことはないのかもしれない。それに文献調査と言いながらひたすらに大聖堂の中を歩き回っているというのもそろそろ不自然になってくる頃あいだ。そう考えると、そろそろここでの調査はあきらめた方がいいのかもしれない。
そう考えながら、大聖堂の上の階層。大聖堂の象徴ともいえる時計台の下あたりに差し掛かったその時である。わずかではあるが、マジックアイテム特有の魔力を感じ取ることができた。
「あった」
「感知できたんですか?」
「えぇわずかだけれど……」
最初のうちは聖書は地下にあるものだと考えこんで、地上階ばかり探していたのだがその考え方は間違っていたのかもしれない。
マーガレットは時計台のちょうど真下だと思われる地点で上を見上げる。
「アイ。ダニエルさんに時計台の中に『モノ』があるかもしれないって伝えてきてもらえる?」
「はい。わかりました」
マーガレットの要請にアイは笑顔で答えて、小走りで立ち去っていく。問題はこの先だ。時計台の下で魔力を感じたということは、聖書は時計台の中にある可能性が高い。そうなると、次は聖書がある部屋までの道をどうやって開くのかということになって来る。
そう考えながら、マーガレットは試しに周囲の壁を触ってみる。おそらく、ミカの大聖堂と同じような仕組みになっているのなら、近くの壁に何かしらの形で痕跡があるだろうと考えての行動だ。最も、アルヴィンはミカの大聖堂においてはそういったものは感じ取れなかったと言っているぐらいなので、そのあたりの可能性については望み薄ではあるのだが……
そうしている間にアイとダニエルがやってきて、マーガレットは改めて時計台の方から何かしらの魔力を感じ取ることができたということをダニエルに報告する。それを聞いたダニエルは少々驚いたような雰囲気で口を開いた。
「……なるほど。時計台ですか……ここの時計台は内側には入れないものだと思っていたので、外側の手入れしかしていないんですよ」
「外側からの手入れとは?」
「主なところは時計の調整ですね。あとは壁の補修とか……ただ、そういったことをするときには足場を組むので何か仕掛けられているとしたらこの周囲かもしれませんね」
「なるほど。やはり、このあたりに何かがあると……」
そのやり取りを経てマーガレットは少し安心する。もしも、外側に補修工事をするための通路があるなどという話になったら、そこも全部調べないといけなくなるからだ。となると、隠し通路の発見には途方もない時間がかかってしまうことになる。
「さて、どうしたものかしら……」
とはいえ、手掛かりがほとんどないことには変わりない。ここからどうやって事を進めればいいのだろうか? そう考えながら壁を構成している石を一つ一つ丁寧に触っていくと、一つだけ触り心地の違う石があることに気が付く。
「ここに印をつけてもいいですか?」
「えぇ。あとから消せるものであれば……」
「ありがとうございます」
ダニエルに確認をとってからマーガレットは魔法でその石に印をつける。その後、マーガレットとアイ、ダニエルで手分けをして一つ一つ丁寧に周囲の石を触り周りとは違う触り心地の石を探していく。すると、ミカの大聖堂と同じような配置で触り心地の違う石があることが判明した。
「……なるほど。となると……」
マーガレットはミカの大聖堂で教えてもらった手順をもとに印をつけた石を触っていく。すると、ゴゴゴという音と共に背後の壁が動き始めた。
「……仕組みそのものはミカの大聖堂と同じだったというわけですね……」
そのようなことをつぶやきながら、マーガレットは現れた通路の向こうにある階段へと向かっていき、アイとダニエルはそれについていく形で階段へと向かっていった。
*
ルッシの大聖堂の時計台の中。魔法で明かりをつけながら螺旋階段ををしばらく上っていくと、ようやく時計台の最上部に達したのか、ミカの大聖堂にあったそれと同様の図書室のような空間へと到達する。
その広間を見回してみると、その中心部にミカの聖書と同様に大きな本が置かれているのが確認できる。
「あれが……」
ダニエルがつぶやくとマーガレットは小さくうなづいてから返答をする。
「はい。あれが『ルッシの聖書』かと思います」
その会話の後、マーガレットは慎重に聖書へと近づいていく。一応、ミカの大聖堂では広間自体には仕掛けはなかったという話だったが、ここは通路がシンプルだった分、何かが仕掛けられている可能性が否定できないからだ。
しかし、そうやって警戒はしたものの、本に近づいたところで何かしらの仕掛けがあるということはなく、マーガレットはあっさりと聖書の前に到達する。
『この本は、神の導きを受け、願いをかなえることができる者にのみ開かれる』
台座にはミカの聖書が置いてあった場所と同じ文章が書かれている。マーガレットは中身を確認しようと、ルッシの聖書へと手を伸ばした。




