第33話
ルッシの大聖堂。ミカの大聖堂と同様にステンドグラスの窓とたくさんの長イスが並ぶ礼拝堂の一角にマーガレットたちの姿はあった。
大聖堂の入り口にいたシスターに御者が声をかけ、その後にここまで案内されて今はルッシの大聖堂側の担当者が来るのを待っているといった状況だ。
「いやはやお待たせしました」
担当者だと思われる牧師服を着た細身の男性が奥の方から姿を現す。それを視界に納めたマーガレットたちは立ち上がってあいさつをする。
「いえいえ。わざわざありがとうございます」
「早速ですが、こちらへお願いします」
その後、牧師の男性……ダニエルの案内でマーガレットたちは礼拝堂から少し離れた場所にある個室へと案内される。
「一応、例の本の調査については極秘案件だと聞いておりますので、シスターを始めとした大聖堂の関係者にはミカの大聖堂で五つの大陸の大聖堂に関わりがあることを示す文書が出てきたので、それに関する文献調査を行う人間が派遣されてくるという形で話をしてあります。なのでそのような形で対応していただけるとありがたいです」
「はい。わかりました。ありがとうございます。それでは調査の進め方ですけれど……」
そこからマーガレットはミカの大聖堂で聖書が見つかった一連の流れと、現在の進捗状況について話をする。ダニエルはそれを聞き取り、真剣な表情で返答をする。
「なるほど。聖書は大聖堂のどこかに隠されるような形で置いてある可能性が高いということですね。通りでこれまで情報がないわけだ」
「……すでに独自に調査を?」
マーガレットが尋ねるとダニエルは小さくうなづく。
「はい。私一人でではありますが、これまでに大聖堂で強力な魔力を持ったマジックアイテムが見つかった経歴があるかどうか調べてみたんですが、それらしき情報は全くと言っていいほどなくて、一人で困っていたところだったんですよ」
「なるほど。ご協力ありがとうございます」
幸いなことにルッシの大聖堂は調査に関しては前向きに協力してくれる立場のようだ。ただし、表向きは文献調査で強力なマジックアイテムを探しているということに関しては隠さなければならないが……
「さてと、それでは本題の『文献調査』についてですけれど……」
なので、マーガレットも念には念を入れて相手に合わせて今回の調査を『文献調査』と呼びながら、どういった形で聖書を探すのかという点について話をしていった。
*
大聖堂の奥にある回廊。ミカの大聖堂と似たような構造になっているその場所をマーガレットは慎重に魔力探知を行いながら歩いていた。
「うーん。なかなか見つからないですね……」
「そうね。でも、今できる事ってこれぐらいしかないから……」
ダニエルともよく話し合ったのだが、聖書の調査の特殊性を考えるとシスターたちにも協力をしてもらって大々的に探すということもできない。なので、マーガレットは地道にヒントを求めて魔力を探っているというわけだ。
一応、マーガレットたちがミカで聖書を受け取るまでの間にミカの聖書を発見したアルヴィンたちがほかの聖書の発見に貢献できるような兆候はないのかと調査してくれたのだが、ミカの大聖堂の中をいくら探っても聖書の場所のヒントになるような事柄が書いてある場所はなく、本当にただ壁掃除をしていたシスターが偶然発見したという記録のみが残っている状態だ。
「……大聖堂を全体的に見てみて魔力の反応がなかったらどうしますか?」
「そうね……さすがに『文献調査』で回廊の壁を片っ端からたたいていくわけにはいかないし、ミカの大聖堂でも適当に叩いただけで道が開くっていうわけじゃなさそうだったから、その場合は何か他の方法を考えた方がいいかもしれないわね」
そこまで会話をした段階でマーガレットたちはこっちへ向かってくるシスターを視界に納め、会話を中断して会釈をする。それにしても、いくら責任者であるダニエルが許可してるとはいえ、こうして大聖堂の中をひたすら歩きまわっていて怪しまれたりはしないのだろうか?
そんなことを考えながらマーガレットたちは地道に回廊を歩いて行った。
*
ルッシの大聖堂の調査を始めた一日目の夜。マーガレットは宿でベッドにぐったりと倒れこむ。
「はぁひたすら魔力探知をしながら歩き回るのはさすがに疲れるわね……」
ただでさえ広い大聖堂だ。シスターたちに真の目的を知られないようにしながら、ひたすら大聖堂の中を調査し続けるというのはかなりの体力を使う行為だと言っても過言ではないだろう。
「それにしても、もう少し何か手掛かりがあるといいんですけれどね……」
マーガレットの言葉に対して、アイは日記帳に今日のことを記録しながら返答する。
「ねぇアイ。あなたって大聖堂ができる前ぐらいには生まれてるでしょ? 何か知らない?」
これ以上、手掛かりなしで探り続けるのは大変すぎる。そう感じたマーガレットはアイに聞いてみるが、彼女は一旦日記を書く手を止め、考えるそぶりを見せてから回答する。
「……残念ながら特には……そもそも、ミカの聖書の話の真偽すらわからないぐらいですので……」
「はぁ確かに手掛かりがわかるぐらいだったら、とっくの昔に全部見つかってるかもしれないわね……」
ミカの聖書に書いてあることが本当で、なおかつエルフがその存在を知っていたらエルフのうちだれかがそれを集めようとしていてもおかしくはない。となると、ルッシの聖書は本当に存在しているなら、相当見つかりにくいように保管されているのだろう。こうなると、聖書を発見するにはかなりの時間がかかるかもしれない。
マーガレットはそこまで考えて深くため息をついた。




