第32話
南部のルッシ共和国の聖都ルッシへ向かう夜行列車の中。マーガレットたちはチノを出発した後、東部連邦の中部にある都市で一回乗り換えをし、この列車に乗り込んでいた。
「さて、ようやくルッシね……」
ベッドに座り、車窓を眺めながらマーガレットがつぶやく。ナギサを出発してからすでに半年以上。ようやく二つ目の聖書があるルッシの町が見えてきた。
「そうですね。だいぶスムーズに事が進んでいるんじゃないですか?」
そんなマーガレットに対して、二段ベッドの上段でくつろいでいるアイが返事をする。
「そうかしら? 私としてはすでに『半年も経っている』という感覚なのだけど……」
そうは言いながらも、チノでの執筆やら喫茶店でのバイトやらの作戦が上手くいっているので確かにスムーズに事は進んでいるのかもしれない。しかし、半年というのはマーガレットからすればすでに聖書集めに時間がかかっていると感じざるを得ない。一方でエルフであるアイの時間間隔から行けば半年などあっという間のはずでかなり早く物事が進んでいると考えているのは自然なことなのだろう。
「さてと……そろそろ降りる準備をしないと。とりあえず、ルッシに着いたらまずは大聖堂の調査について担当者と話をするところから始めないといけないわね……」
ミカの大聖堂で聖書を受け取ったとき、メイヌース共和国の担当者は極秘裏に聖書がある各国の大聖堂の関係者にこういった調査を行っているという連絡をしてもらっている。最も、北部連邦からほかの国への連絡は基本的に手紙なので、返事が返って来るのを待っていたらかなりの時間を無駄にしてしまうからという理由で返答が返ってくる前に出発してしまっているので、現地に着くまで聖書集めに協力をしてもらえるのかわからないという状況にはなってしまっているのだが……
「そうですね。話がうまくいっているといいのですけれど」
そのあたりについてはやはりアイも心配しているらしく、何なら彼女は各国の返事が出そろうまでミカに滞在した方がいいのではないかという提案もしてきたぐらいだ。しかしながら、マーガレットとすればなるべく早く聖書集めの旅をしたかったという理由で見切り発車に近しい状態でミカの町を出てしまい、手紙の方にも『聖書集めの担当者は手紙を出した時点で出発している』という一文を添えてもらった次第だ。
「大丈夫ですよ。ダメならダメで交渉すればいいんですから」
マーガレットが返事を聞く前に出発したという理由としてはもう一つ理由があって、仮に手紙が返ってくるまで待っていてだめだと言われると、そこから交渉するのために何度も手紙のやり取りをすることとなりかなりの時間を消費してしまうことになる。だったら、担当者が行くということを伝えてもらって、ダメならダメで現地で交渉した方が早く事が進むだろうと考えての行動だ。最も、路銀だとか移動時間だとかの関係で、この時点でかなりの時間を使っており、仮に相手がかたくなに調査を拒否した場合はこれまでの時間が丸々無駄になってしまうという欠点はあるのだが……
そこまで考えるころには列車がルッシに到着するという旨のアナウンスが流れ始め、車窓にはミカの町と同様に町の中心部の丘の上に立つルッシの大聖堂が見えてくる。
マーガレットたちはそれを横目に荷物をまとめ、降りる準備をし始めた。
*
ルッシ駅からルッシの大聖堂までをつなぐ大通り。町の中心となっていて、観光客向けの宿や店が並ぶ通りをマーガレットたちはバスで移動していた。
大聖堂が丘の上にあるという点や目抜き通りに観光客向けの施設が並ぶという風景はミカの町と共通しているが、ルッシの町は大聖堂の周囲に広がる町に関してはある程度手入れをしているらしく、道は綺麗な石畳となっていて、そこを何本かの路線バスが行き来をし、鉄道とは違う形の公共交通として機能している。街中の風景もチノほどではないにしろ、伝統的な石造りの建築ではあるものの最近作り直されたとみられる建物が目立ち、どことなく新しい街という印象すら受けてしまう。
そんな中でバスに乗ること約十分。マーガレットたちは大聖堂がある丘のふもとにあるバス停でバスを降りる。
町中をバスを始めとした自動車が行きかう町ではあるのだが、大聖堂のある丘に関しては自動車の侵入を規制しているそうで、ここからは馬車で登っていくこととなる。
マーガレットたちはバス停から大聖堂がある丘の道の入り口となっている場所まで行くと、大制度の関係者向けの馬車が待機しており、マーガレットは身分証とメイヌース共和国が発行した調査依頼申込書を御者に提示する。
すると、御者はこの場で待機するようにという旨のことを言った後に隣にある建物へと入って行く。それから少しすると、御者は建物から出てきてマーガレットたちに声をかける。
「確認が取れました。どうぞ、乗ってください」
その言葉を聞いたマーガレットたちは馬車に乗り込み、それを確認した御者が馬車を走らせ始める。
「さてと……どういう話になっていますかね……」
とりあえず、門前払いをされなくてよかったと安心しつつも、マーガレットはちょっとした不安を胸に丘の上で存在感を放つ大聖堂へと視線を送った。
お読みいただきありがとうございます。
ここからは二つ目の聖書についての話が始まる予定です。また、本日この話と同時投稿という形でアリス教授とマリーを主軸にした外伝を投稿しました。そちらもお読みいただけると幸いです。
この先もお読みいただけると幸いです。よろしくお願いします。




