幕間6-1
フラン魔法大学校の旧校舎。アリスは頬杖をついて窓の外を眺めていた。
頭の中にあるのは今頃聖書を集めてるために奮闘しているであろう弟子のことと、その弟子が置いていった助手のことだ。
当然ながら、北の大陸からほかの大陸へ向かったであろうマーガレットからは連絡はない。そもそも、聖書の任務は極秘のモノだし、仮にそうではなかったとしても大陸間を超えてマメに連絡を取ろうとするとどうしても費用が掛かるので、仕方がないだろう。
現状、マーガレットの聖書集めがどの程度の進捗なのか気になるところだが、むしろ今問題になっているのはそれよりも後者の方。マリーのことだ。
マリーは気立てもよく、なおかつテキパキと働いてくれるので助手としてはかなり優秀な部類に入る。ただ、その働きぶりを見てなんだか不審だと思ってしまうのはアリスの悪い癖なのだろうか?
「アリス教授。失礼します」
そんなことを考えているアリスの背後からマリーが声をかける。
「あぁマリーか。どうかしたのか?」
マリーの声に反応するような形で振り返ると、彼女はとある国から解析を依頼されているマジックアイテムを抱えるようにして持って立っていた。
「こちらの解析の準備の話をしたいのですが……」
「そういうことか。それじゃあ……」
アリスが軽く指示を出すと、マリーは準備室の方へと去っていく。その後ろ姿を見て、アリスは深くため息をつく。
マーガレットはとんでもない爆弾を置いて行ってくれたものだ。マーガレットは深く考えずにアリスのもとへと送り込んだのだろうが、幼いころにアリスに拾われこの道に入ったマーガレットとある程度の年齢まで貴族社会に身を置いていたマリーとではいろいろと前提が異なってくる。
今のところ、アリスが出す指示に対してマリーが何か文句を言ったり、上手にこなせなかったりということが全くと言っていいほどないのだ。指示を出したときに理解できていなかったときは、ちゃんとそれを正直に言って確認をしてくれるし、マーガレットだったらぶつくさ文句を言いそうな作業でも彼女は素直に指示を受け入れてやってくれる。そういったところを見て、マーガレットはどうしても違和感を抱いてしまうのだ。
その違和感からたどり着く答えと言えばひどく単純で、もしかしたらマリーがマーガレットの行方を追うための刺客ではないのだろうかという結論だ。もしも、ルイス家が何かしらの方法でマーガレットの行方を察知し、それに合わせてマーガレットが同情せざるを得ないような状況を演出して姉妹が再会する。嫌っていた父親ならともかく、そうでもない妹相手だったらマーガレットでもそこまで警戒することはないだろう。
そう考えていくと、パズルのピースが一つずつ埋まっていくような気がするのは気のせいだろうか? 念のためマリーに知られないようにルイス家の動向について調べてみたのだが、確かにルイス家にかつてのような権威や勢いはない。ただし、いくら何でも貴族の家に産まれた令嬢が家の没落を理由として路頭にさまよった挙句、食い逃げをするというのはいくらなんでも落ちぶれすぎではないだろうか?
そこまで考えて、アリスは首を横に振る。
「まったく。こうも悪い方悪い方に考えてしまうのは悪い癖だな」
そうつぶやいてからアリスはゆっくりと席を立つ。マリーに指示を出すだけ出しておいて、アリス自身はまだ準備が出来ていないからだ。
「さてと、気持ちを切り替えて行かないとな」
とりあえず、うまくいっていればマーガレットはすでに北の大陸ではないほかの場所にいるはずだ。なので、自分がうっかり口を滑らさない限りはマーガレットがどこにいるか。さらに言えば、何を目的としてどこへ向かっているのかという点をマリーが知ることはできない。だからこそ、自分の中でこう言った疑いが晴れたとしても、マーガレットは極秘調査をしてもらっているから動向を教えることはできないという点はしっかりと守るべきで、そうすることこそがマーガレットとアリス、あるいはマリーとアリス、もっと言えばマーガレットとマリーの信頼関係というモノにつながっていくのだろう。
アリスはそこまで考えたのちに思考を切り替えて、事前に来ていたマジックアイテムの解析の依頼書を確認して必要な準備をする。
その後、アリスはマリーが器具の準備をしているであろう隣の準備室へと向かった。




