幕間5-1
ギルドの受付嬢を担っているセナは悩んでいた。
商隊の護衛任務という通常なら衛兵が担うような仕事を断った二人の魔法使いに押し付けてしまってもよかったのかと。彼女たちは特に問題も内容に引き受けてくれたが、その結果として彼女たちに危害が加わるようなことがあったらどうしようかと深く考えていたのだ。
最初にこのギルドに来たときは魔法使いという肩書を持つ彼女たちはちょっとした異端児扱いであったが、一か月も滞在していると少なからず親近感もわいてくるし、魔法使いという存在がどのようなことでも解決できてしまうような気がしてきて、今回の依頼を回してしまったという具合だ。
最も、依頼を回してほしいというのは商隊からのたっての希望であり、依頼を受領したのはマーガレットであるのでセナに何かしらの責任があるというわけではないのだが、それでもどうしても気になってしまう。
そう考えていると、ギルドに設置されている電話のベルが鳴る。
電話をとると、その相手は商隊の責任者で、その内容は途中で盗賊に襲われたものの無事にシャルシャに到着したとの報告だった。詳しく聞いてみると、マーガレットたちは盗賊をいとも簡単に対峙してしまったのだという。
その報告を聞いて、セナはほっと胸をなでおろす。どうやら、自分の心配は杞憂に終わってくれたようだ。
しかし、本当の問題はこの先だった。
マーガレットたちが旅立った次の日以降も、それを知らない人たちからマーガレットに頼む前提の依頼が多数届いたのだ。
それら一つ一つは大したことのない依頼なのだが、何せ冒険者ギルドに入りびたり、積極的に依頼をこなしてくれる人などそうそういない。なのでセナは依頼が来るたびにマーガレットたちはもういないということを伝え、もしかしたら受領してくれる人がいないかもしれないということを伝えていく。その話を聞いて初めて、マーガレットたちが旅立ったことを知る人も多く、人々はそれを寂しがるようなことを言って立ち去っていく。
こうした状況を踏まえると、マーガレットとアイという二人の魔法使いの存在は、ギルドでの細かい依頼を通してたった一か月でかなり町の人たちに溶け込んでいたのかもしれない。
「今日も依頼の受領人数は0人か……」
たくさんの依頼が貼られるものの、受領されることのない依頼たちを見てセナは小さくため息をつく。
この町にギルドの受付嬢として配属されてからマーガレットたちが来るまでの間、『ギルドに依頼したところで何も成果を得られない』だとか、『いつになったら依頼が受領されるのか』などと言われ、一度ギルドに来た依頼が取り下げられるということも珍しくはなく、この調子ではいずれマーガレットたちが来る前の状態に戻るってしまうだろう。
ギルドの入り口が開かれたのはちょうどそんな時だ。
「こんにちは。冒険者ギルドです。ご依頼の掲示ですか?」
セナは考えることをパッとやめて気持ちを仕事モードに切り替える。ギルドに入ってきたのは街の若者たちで普段であれば、何かしらの依頼をするイメージのない人たちだった。
「あぁいや、マーガレットさんたちが旅立って依頼がたまっているって聞いたから自分たちのできる範囲で依頼を受けてみようかなと思いまして……」
入ってきた若者たちの言葉にセナは驚きながらも、なるべく平常心を保ちながら返答をする。
「ありがとうございます。それでは最初に冒険者の登録をお願いします」
その若者たちは今まで依頼を受領したことのない人たちだったので、依頼を受領する条件となっている冒険者の登録の手続きをする。
登録を済ませた若者たちはそれぞれ簡単な依頼を受領していき、ギルドを出ていく。どうやら、マーガレットたちのおかげでギルドの依頼を受領してくれる人がなく、依頼も減っていくという悪循環は断ち切られそうだ。そういった意味で意味ではマーガレットたちの存在意義というのは大きなモノだったのかもしれない。
「これから忙しくなるといいですけれどね」
セナは遠くへ向けて旅立っていったマーガレットたちに思いを馳せながら小さく笑みを浮かべた。




