第27話
セイアの町がある東部連邦セイア共和国とシャルシャの町がある東部連邦シャル共和国の国境付近の峠道。
十台ほどの馬車で構成されている商隊は盗賊が出るとされる地点の付近まで到達し、マーガレットたちは隊列の中央付近でマーガレットが前方、アイが後方といった役割わけで監視を始めていた。
「今のところは盗賊らしい気配はないわね……」
「そうですね。何もないのが一番いいんですけれど……」
お互いに周りを見回しながらそのような会話をしていると、隊列で一番先頭を切っていた馬車が動きを止める。どうやら何か問題が起こったようだ。
「ちょっと様子を見てくるわ。引き続き後方をお願い」
アイにそう伝えて、マーガレットは隊列の前方へと向かう。隊列の前方に到達すると、予想通り問題が発生しているようで盗賊とみられる集団が道をふさいでいた。
「おい! ここを通りたければ金品を差し出せ!」
盗賊の頭と思われる人物が威勢よく商人を脅す。その光景を視界に納めたマーガレットは盗賊たちの方へと手を伸ばす。
「……拘束魔法」
普段だったら、わざわざどの魔法を使っているのかなどといったことは口には出さないのだが、周りにいる商人たちが状況を理解できるようにわざとどういった魔法を使っているのか説明がてら言葉として発している形だ。
マーガレットの言葉とほぼ同時に剣をもって暴れようとしていた盗賊たちは動きを止め、その状況から必死に逃れようともがき始める。
「何が起こってやがる!」
「頭! まったく動けないですぜ!」
「くっどういうことだ!」
そのようなことを叫んでいる盗賊も、それを前にしている商人たちもいまいち状況を理解していないようだが、マーガレットとしては早く先に進みたいので、それっぽくなるようにあえてカバンから小さな杖を出して盗賊たちに向ける。
「……私はここにいる商隊の護衛を依頼されている魔女のマーガレットです。私としてはこれ以上の手荒な真似はしたくないので、拘束魔法が解けたら帰ってもらいますか?」
あくまでも余裕そうに、なおかつ相手に恐怖を与えるようにマーガレットは立ち振る舞う。
「それでは私が手を叩いたらあなたたちを拘束している魔法は解けるので、とっとと立ち去ってください」
そう言って、マーガレットは手を前に差し出し、パンと手を鳴らす。それと同時に盗賊たちの拘束魔法を解き放った。正直な話、このまま盗賊を捕まえたまま衛兵に差し出しても良かったのだが、今回の依頼にはそこまでのことは含まれていないという点と拘束した盗賊たちを乗せておく場所がないということ、もっと言えばある程度脅しておけば、今後こういったことをする可能性は減るだろうと考えて
こういった判断に至った形だ。
案の定、魔法にまともに触れていないと思われる盗賊たちは何が起きたのか理解しきらないままバラバラに分かれて逃げていく。その様子をしっかりと視界に納めたマーガレットは戦闘の馬車を操る御者に声をかける。
「とりあえずはこれで問題解決ですかね。行きましょうか」
「はっはい」
どうやら、マーガレットの脅しは馬車の御者にもしっかりと伝わってしまったらしい。少々動揺した様子を見せる。そこに関してはあえて触れずにマーガレットはアイの元へと戻っていく。
「これで問題が解決すればいいんですけれどね……」
マーガレットはこの先のことを懸念しながら再び馬車に乗り込んだ。
*
馬車に乗ること約十分。
「盗賊だ。盗賊が出たぞ!」
隊列の後方の方から聞こえてきた声で再び隊列は動きが止まる。
「……後ろの方ですから私の出番ですね」
そう言って、アイは馬車から勢い良く降りて後方へと向かう。マーガレットは前方を注視しつつも、アイのことが気になって少しだけ視線を後ろに向ける。
ドンという大きな音がしたのはちょうどそんなタイミングだった。何事かと思いよく見てみると、性懲りもなく襲い掛かってきた盗賊はアイが右手をひょいと動かすだけで崖にめり込んでいた。その様子をみる限り、どうやらマーガレットの対応は生緩かったらしい。
「マーガレット様が慈悲深く見逃してくれたの襲ってくるのでこうなるんですよ」
そんな事を言いながらアイは盗賊たちを倒していく。その様子をみる限りマーガレットが思っている以上にアイは強いようだ。
そうして、十分もしないうちに盗賊たちは討伐され、アイは笑顔でマーガレットの元へと帰ってくる。
「さてと、行きましょうか」
アイがそう言うと、護衛対象である商人たちも少々アイのことを恐れながらも馬車を走らせ始また。
*
その後、盗賊たちが商隊を襲うことはなく、馬車は無事に東部連邦シャル共和国のシャルシャに到達する。
マーガレットは当初の約束よりも少し多めに報奨金を受け取り、商人たちに別れをすませてから駅へと向かう。
「いやー盗賊が魔法を使えなかったので助かりましたね」
「まぁそうね。それにしても、あなたって強いのね」
「そうですか? まぁあれくらいの力がないと魔物とはやりあえないですからね」
そのような会話をしながら歩いていくと、いつの間にかシャルシャ駅に到着する。
「さてと、どのあたりまで行けるかしら」
そんなことをつぶやきながら、マーガレットは駅舎へと入っていった。




