第26話
セイアの町の冒険者ギルド。マーガレットは今日もまた、掲示板を前にして悩んでいた。
「なかなか割のいい依頼はないですね……」
そういったことをつぶやいているマーガレットの背後から声がかかる。
「あぁマーガレットさん。ちょうどいいところに」
マーガレットが振り向くと、ギルドの受付嬢をやっている人が笑顔で立っていた。
「こんにちは。私に何かご用件でしょうか?」
「はい。ぜひともマーガレットさんに受領していただきたい依頼が来ておりまして……詳しい話をしたいので応接室まで来ていただいてもいいですか?」
その言葉を聞いた後、マーガレットはアイに目配せをする。わざわざ自分を指定してくるぐらいだ。何か事情があるのだろう。アイがうなづくのを確認すると、マーガレットは受付嬢の方へと視線を移し返答する。
「はい。私にできる事であれば」
「わかりました。では、こちらへどうぞ」
その会話の後、マーガレットたちは受付嬢の案内でギルドの奥にある応接室へと向かった。
*
ギルドの奥にある応接室。そこにある机の上に置かれた依頼書を見てマーガレットはつぶやく。
「……商隊の護衛任務ですか」
「はい。なかなかこういう依頼って受けてくれる人が少ないんですよ……一応、条件はそこに書いてある通りですが、ここセイアから南東にあるシャルシャまでの護衛任務で、片道のみの受領も可能、報酬金もこの手の依頼にしては少し多めに設定されています。シャルシャはこのあたりでは大きな町で鉄道も通っているので南を目指して旅をしたいマーガレットさんにはぴったりな依頼かなと思いまして」
一通りの説明を受けながらマーガレットは依頼書に視線を落とす。確かに先ほど聞いた通りの内容が依頼書には書かれている。
「……今回は護衛任務だということですが、セイアからシャルシャに向かう間に何かあるという認識で良いですか?」
マーガレットが質問をすると、受付嬢は真剣な表情を浮かべてうなづく。
「はい。最近、セイアからシャルシャに向かう途中にある峠道で盗賊が頻繁に出没するそうでして……セイアには大きな港はあるものの鉄道は来ていませんし、特にシャルシャ方面は大型の自動車が通れるような道は通っていないんですよ。なので、いくつかの馬車で隊列を組んで峠を越えていくんですが、そこを狙って襲ってくる盗賊が後を絶たないらしく……多くの商会ではいったんセイアから南に下ってからシャルシャを目指すというのが主流になりつつあるのですが、今回はどうしても最短ルートとなる峠道を通らなければならないそうでして……ただ、この町には盗賊に襲われたときに対応できそうな人がそう相違ないので、マーガレットさんなら適任かなと思いこうしてお話しさせていただいている次第です」
「なるほど……そういうことですか」
一応、マーガレットは護身のためもかねて戦闘になったときに使える魔法もいくつか使える。なので、この依頼を受けること自体は問題ないだろう。ただ、ここで問題になって来るのはアイがどの程度そういった状況に対応できて、なおかつさらわれる危険がないかという点だ。アイはどこの地域においても珍しいエルフである。ともなれば、フランでの闇オークション騒動の時のように敵にさらわれる可能性がないとも言い切れない。まぁ最も、フランの時はアイがわざと捕まっているので、実際にそういう局面に接したとき、彼女がどの程度の力を発揮できるかという点については未知数ではあるのだが……
「……どうしますか?」
そういった相談もかねて、マーガレットは横で話を聞いているアイに声をかける。
「うーん。そうですね……私は一人でも自分の身を守れますし、マーガレット様も戦闘に使える魔法はいくつかあると思うので、問題はないんじゃないですか?」
彼女から返ってきた答えはある意味で期待通りのモノだった。アイは魔物が街の外を闊歩する産業革命前から生きているエルフだ。実際に盗賊と戦闘になった場合、もしかしたらマーガレットよりもアイの方が役立つかもしれない。
「……わかりました。その依頼受けましょう」
マーガレットがそう言うと、受付嬢は頭を下げる。
「ありがとうございます。それでは商隊の責任者の方を読んでくるので少々お待ちください」
そう言って、受付嬢は席を立ち再び頭を下げてから部屋を出ていく。
「商隊の護衛任務ですか……まるで昔の冒険者ギルドに戻ったかのようですね……」
「そうかもしれないわね。むしろ、この方が本来の形というべきかもしれないわね。まぁできれば戦闘は避けたいけれどね」
「そうですね。私もできればそういう衝突は避けたいところですから」
そのような会話の後、マーガレットは再び依頼書に視線を落として考える。鉄道がある町までの片道の護衛任務。なおかつ、それなりに払われる報奨金……こういった状況を考えると、セイアからシャルシャに向かう道というのはそれなりに危険をはらんでいそうだ。正直なところ船を降りた後、手元に路銀が十分あったらそういった前知識もなく危険な峠を通っていたのかもしれない。そう考えると、セイアの町でこまごまと路銀を稼いでいたのは正解だったのかもしれない。
マーガレットはそこまで考えて小さく息をつく。
「平和に終わるのが一番いいんだけどね……」
できれば商隊と一緒に行動するだけで終わりたいところだが、そうは簡単にいかないだろう。そこまで考えたあたりで応接室に商隊の責任者を名乗る男性と受付嬢が入ってきて、マーガレットたちは改めて商隊の責任者からセイアからシャルシャまでのルートと、今回の依頼の肝になる盗賊が現れる峠がどのあたりかということについて説明を受け始めた。




