第2話
教室に入ると、アリス教授はアイの向かい側に腰掛け、お互いに自己紹介を済ませたのちに本題へと入る。
「これがナギサ遺跡で見つかったマジックアイテムか」
机の上に置かれた白くて丸い小石をアリス教授は興味深く見つめる。
「はい。魔力を探知したものの、現物がこれだったので探すのに苦労しました」
マーガレットが最初ナギサ遺跡を訪れたとき、入り口で魔力探知を行った結果、微量ながらも魔力を検知できた。そのため、ナギサ遺跡の中に未発見のマジックアイテムないし魔導書があると判断し、遺跡の調査を行ったというのが今回の流れだ。そうして、何日にもわたって遺跡の中を探し回り、やっと見つけたのがこの小さな小石である。
「ふむ。なるほどな。まぁこの程度のモノなら数日程度で解析できるさ。その前にお前の弟子……アイ君だったか? と少し話をしてもいいか?」
アリス教授の提案がどういった意図で行われているのかという点についてあまり深く考えずにマーガレットは返事をする。
「はいどうぞ。私は同席していてもいいですか?」
「構わんよ。何かやましいことがあるわけでもないからな。アイ君もそれでいいかな?」
アリス教授がアイのほうへと視線を向ける。
「はい。よろしくお願いします」
アイが笑顔で答えると、アリス教授はそのまま質問を始める。
「エルフである君が人間であるマーガレットに興味を持ち弟子になったかのような話を聞いている。それは本心からか?」
いきなり核心を突くような質問にアイは笑顔を崩さずに答える。
「はい。その通りです。私はマーガレット様に一目ぼれして弟子入りを志願したんです」
それを受けてアリス教授は次々と質問をぶつける。
「そうか。人間とエルフではそもそも寿命が全くと言っていいほど変わって来るがそれは考えているのか?」
「はい。それはやむを得ないものだと考えています。最も、いつか別れが来ても、私の日記帳にはマーガレット様のことがしっかりと記録されているので、それを見て振り返ることができると考えています」
「ふむ……では、マーガレットのことについて下調べはしたのか?」
「はい。ある程度は」
そのような会話が繰り広げられる中でマーガレットは会話に参加するわけでもなく、アイが答えた下調べについて思考を巡らせる。行く先々で彼女が先回りをしていたことを考えると、少なくともマーガレットの行動パターンについてはある程度把握していたのだろう。現に当人も『エルフの情報収集能力を舐めないでほしい』と言っていたぐらいだ。下手をしたらある程度どころか入念な下調べが行われていた可能性も考えられる。
実際問題、マーガレットの横で繰り広げられている会話ではアリス教授がどの程度下調べをしたのかと質問し、それに対して少々答えをはぐらかしているアイという構図が展開されている。
「……ところで、アイ君はマーガレットのどういったところに対して一目ぼれしたんだ?」
下調べの話に続いて、アリス教授が再び核心に踏み込むような質問をする。アイは少しだけ視線を天井に送った後に答えを返す。
「……えっと、単純に容姿です。見た目が私の好みでして……あぁ恋愛的な意味ではないですよ。なんというか、その……私が理想としている魔法使いって感じがするんですよ」
だんだんと返答が厳しくなってきたのか、アイの返答も歯切れが悪くなり、最初に浮かべていた笑顔もなくなり、どことなく追い詰められているかのような表情を浮かべている。
「そうか。いろいろと質問攻めにして悪かったな。マジックアイテムの解析にはさっきも言った通り少し日数がかかる。せっかくだから終わるまでの間、マーガレットと一緒に街の散策でもしているといい」
その質問でアリス教授は何かの結論に至ったのか、アイに対する質問攻めが終わる。
「ただし、その前にマーガレットと二人で話がしたい。アイ君は廊下で待っていてもらってもいいかい?」
「あっはい。わかりました……それでは失礼します」
アリス教授から部屋を出ていくように言われながらも、どこか安堵の表情を浮かべているアイはそのまま部屋を出ていく。
彼女が部屋から出ていくのを確認すると、アリス教授はさっそくと言わんばかりにマーガレットに声をかける。
「おい。やっぱりあのエルフ怪しいぞ」
その言葉に対して、マーガレットは小さくため息をついてから答える。
「まぁそうでしょうね……そもそも、エルフが他種族に興味を持つ時点で少々不自然だと思っていましたし……でも、勝手にあとをつけられるかよりは目に見える範囲で行動してもらった方が好都合じゃないですか?」
マーガレットの返答にアリス教授は少しだけ考えこんでから答えを出す。
「……確かに言う通りかもしれないが、くれぐれもボロを出すんじゃないぞ」
「わかってますよ。私は魔導書とマジックアイテムの収集が趣味の魔女マーガレット。それ以上でもそれ以下でもありません。それ以上の情報は彼女に渡すつもりはありませんよ」
アリス教授は深くため息をつく。
「まぁそれを信じてやる。とりあえずマジックアイテムの解析のほうはやっておくからさっきも言った通り、彼女と一緒にこの町の散策でもしているといい。ただし、アイ君が事前に行っている『下調べ』がどの程度のモノか探りを入れてもいいかもしれないな」
アリス教授の言葉にマーガレットは首をかしげる。
「……と言いますと?」
「相手がすべてを知ったうえで近づいてきているという可能性も考えた方がいいということだ。とにかく、この話はここで終わりだ。私はこのマジックアイテムの解析の準備をする」
「まぁそうですよね……わかりました。できる範囲でやってみます」
そこでマーガレットとアリス教授の会話は終わり、マーガレットは廊下で待っているアイのもとへと向かっていく。
「……まったく。本当に厄介なことになりそうだな」
そんなマーガレットの背中にアリス教授はそのような言葉を投げかけた。




