第24話
島の子どもたちとの交流を終えたあと、マーガレットたちは港の近くにある市場を訪れていた。事前に聞いていた通り、市場には生活雑貨からお土産までたくさんの商品が売られており、同じ船に乗船しているとみられる国外から来ている人や地元の人たちで活気に満ち溢れている。
「いやはや、なかなか大きな市場ですね」
そういった光景を見ながら、アイが話しかけてくる。
「そうね。思っていたよりも人が多いわね」
マーガレットは彼女との会話に応じながらあたりをぐるりと見まわす。市場の中でも特に大陸間航路の乗船客は上客なのか、通りを歩いているだけでもかなりの頻度で声をかけられる。
マーガレットはそれを適当にいなしながらも、地元の人たちが訪れいるような店に視線を送る。このララ共和国では島国という環境上、魚介類を食べることが多いようで実際に店頭にはたくさんの魚や貝類が売られている。そういった状況を見ながら、マーガレットは市場の一角にある定食屋に目をつける。
「今日の昼はあそこで食べましょうか」
マーガレットはアイに声をかけてからその店の方へと向かった。
*
店に入り、メニューを見るとこの国では魚を生で食べる文化があるらしく、『この商品は生魚です』という国外から来た人向けの注意書きが書かれた『刺身』なる料理が書かれている。
これまで魚といえば煮たり、焼いたりした加熱されたモノばかりを食べていたマーガレットからすると、かなり変わったものがあるなという印象を持つ。その刺身なる料理がどのような料理なのかという点について興味を持ちつつも、失敗したらいやだななどと考えてマーガレットは焼魚定食を選ぶ。アイも刺身の説明が書かれている部分を少々見ながら悩んでいたようだが、少し経ってからマーガレットと同じく焼魚定食を選んだ。そこまで決まると、マーガレットは店員に声をかけて焼魚定食を二つ注文する。
しかし、周りを見ると刺身なる料理を注文している人が多く、少し失敗したかもしれないとも思えてくる。
そんな中、アイが小さな声で話しかけてくる。
「生のお魚ってたまに体調を崩すことがあるそうなので、食べるとしたらちゃんと医療が受けられる大陸に渡ってからの方がいいんですけどね」
などと、マーガレットの判断は間違っていないと補足するような言葉をかける。
「なるほど。そういうものなのね」
マーガレットはアイからのアドバイスを素直に受け止め、そう答えた。
*
昼食をとった後、マーガレットたちは船へと戻る。それから約一日の時を経て船はララ港から出港する。
マーガレットは港から手を振る人たちの姿を船のデッキから眺めながら笑みを浮かべる。
「こんなにいろいろとあるのなら、ほかの寄港地でもいったん降りればよかったかもしれないわね」
そんなマーガレットのつぶやきに横で手を振っているアイが反応する。
「それはそれでいちいち大変だと思いますよ。北部連邦の国によっている間ならともかく、東部連邦の国の人たちからしたら私たちは珍しい存在だと思いますので」
「そういうモノかしら?」
アイの指摘に疑問を呈すマーガレットに対して、アイは自信満々といった雰囲気で回答する。
「そういうモノなのです。まぁ私は北の大陸から出たことがないのであくまで聞いた話からの推測ですけすけど」
そういった会話をしている間にも船はララ港からどんどんと離れていき、気が付けばデッキから見える風景は遠くに見える島影と海面へと変わっていく。
「さっき、私たちの存在が珍しく見えるって言っていたけれど、それはどういうことかしら?」
「ほとんどそのままの意味ですよ。さっきのララ共和国に定住する魔法使いがいなかったように、北部連邦以外では魔法使いというのは珍しい存在なのです。ですから、下手に降りていたらそのたびに子供たちの前で魔法を披露することになっていたかもしれないですよ」
「なるほど」
確かに北部連邦は変化を嫌うエルフの影響で比較的魔法が生活の中に残っていると言われている。その一方でそれ以外の国はそういったことはないので、確かに魔法使いの数は減少傾向なのかもしれない。ともなれば、今しているようないかにも魔女ですと言わんばかりの格好は変に目立ってしまうような気もするのだが、マーガレットにはマーガレットなりのこだわりがあるのでそのあたりを変えるつもりは今のところ考えていない。
「まぁこの格好をしていてあまりにも困ることが多かったら、行く先々の風土に合わせた格好をしてもいいのかもしれないわね」
「……うーん。私としては困るとか困らないとかそういう話以前にその国々の気候に合わせた格好というのも大切だと思いますけどね。その恰好のまま、南の大陸の砂漠というところに迷い込んだら暑すぎてやってられないと思いますよ」
「そのあたりは魔法で何とかするわ。それが魔女っていうモノでしょう?」
そう言いながらマーガレットは小さく笑みを浮かべた。




