第21話
ラファの町の中心部にほど近い駅から歩いて約十分。マーガレットたちは事前に指定されていた家の前に到着した。
「えっと、依頼書に書いてある住所だとここが研究所っていうことになってるけど……」
家の前で考え込んでいても仕方がない。マーガレットはその家の扉をノックする。すると、少ししてから扉が開かれ家主の女性が姿を現す。
「おっと見かけない顔だね。どういった用件かな?」
肩ほどまで伸ばした黒髪に白い肌、背はマーガレットよりも少し高いぐらい、白い白衣に身を包み、赤色の眼鏡をかけたその人物は笑顔でマーガレットたちを出迎える。
「えっと、ナギサで冒険者ギルドの依頼を受けてきたんですけれど……」
「おおっそれはまた遠路はるばる来てもらって申し訳ないね。私が魔導書研究家のアスタだ。さっそく中で話をしようじゃないか」
そう言って、アスタ博士はマーガレットたちを家の中に迎え入れる。
「ありがとうございます。それではお邪魔します」
「お邪魔しますのです」
マーガレットとアイはそれぞれそう言ってからアスタ博士の家……いや、研究所に足を踏み入れる。
「いやぁ本当だったら家屋とは別で研究所を持ちたいところなんだか、なかなかそうはいかなくてね。ここは私の自宅兼研究所といった感じになっているんだよ」
「そうなんですね」
話好きなのか、アスタ博士は明るい笑顔を浮かべながらマーガレットたちの対応をする。
「それにしても人間とエルフの組み合わせか。珍しいパーティーだね」
「あぁいえ。私たち冒険者じゃなくて、魔女と弟子という関係なんですよ」
「ほう。それでも十分珍しい。エルフが人間と一緒に行動することなんてそうそう聞かないからね」
「はい。そうでしょうね……あぁそう言えば名乗っていませんでしたね。私がマーガレットで一緒にいるのがアイです」
「マーガレット君にアイ君だね。ちゃんと覚えておくよ」
そのようにして長々と会話を交わしているうちにマーガレットたちは廊下を通ってアスタ博士の研究室へと到達する。
「さて、さっそく運んできてもらったものを見せてもらおうか」
アスタ博士は目をキラキラと輝かせながらこちらを見ている。そのアスタ博士の前にマーガレットは今回の依頼で持ち運ぶことになっていた魔導書を差し出した。
「おーこれかぁ。ようやく実物を拝むことができたよ」
「えぇと……聞いても問題ない範囲で良いんですけれど、それはどういった魔法が書かれている魔導書なんですか?」
「あぁこれか? これは部屋をきれいに掃除するという地味に便利な魔法でね。こういった便利な魔法があると助かるんだよ」
届けた魔導書の効果が地味すぎてマーガレットはずっこけそうになる。確かに便利かもしれないが、高いお金を払ってまで欲しいものなのだろうか? いろいろと疑問は浮かび上がるが、ちゃんと依頼金は受け取れそうな雰囲気だし、依頼した本人も満足しているから問題はないのだろう。最も、アスタ博士は生活に役立つ魔法を研究しているという事前情報があったので、そこを考慮すれば彼女からすれば大切な魔導書なのだろう。
「あぁすまない。気がせいてしまってな。適当に腰掛けてもらって構わないよ」
「はい。お言葉に甘えさせてもらいます」
アスタ博士に促されるような形でマーガレットとアイは近くにあったイスに腰掛ける。その後、アスタ博士は受け取った魔導書を本棚の近くにある机に置いてからマーガレットたちの近くに座る。
「そうだそうだ。肝心の報奨金をまだ渡していなかったね……」
そう言って彼女が手をパンと叩くと、マーガレットの目の前に袋が現れる。突然のことに驚きながらもマーガレットはそれを受け止め、中身を確認する。
「はい。報奨金の方も大丈夫そうですね。ありがとうございます」
「いやいや。私の用事でこんなところまで来させてしまったんだ。報奨金を渡すぐらいじゃ足りないぐらいだよ。とはいっても、私は君たちを丁重にもてなすぐらいしかできることはないがね」
そう言いながらアスタ博士は笑みを浮かべる。
「いえいえ。こうしてアスタ博士に会えただけでも光栄ですよ。せっかくですからいろいろ話を聞いてもいいですか?」
マーガレットの質問にアスタ博士は笑顔を崩さないまま返答する。
「あぁもちろんさ。マーガレット君だけじゃなく、アイ君もどんどんと質問してもいいからね。何なら今夜はうちに泊まっていくかい?」
「あぁいえ。そこまでしてしまうと迷惑だと思いますので……」
さすがに泊まるとなるといろいろと迷惑をかけてしまうだろうと考え、マーガレットはその提案を断ろうとするが、アスタ博士はお構いなしだと言わんばかりに立ち上がり、マーガレットとアイの肩をもって抱き寄せる。
「迷惑なんてことはないさ。魔法使い同士お泊り会と行こうではないか」
「えっと、そうですか……では、お言葉に甘えさせていただきます……」
正直な話、カバンの奥底にはミカの聖書が隠されているため、あまり知らない人の家には泊まりたくないのだが、いくら断ったところでこの人はマーガレットたちを家に泊めようと交渉を続けるだろう。それにこれは東部で有名な魔導書の研究家とじっくりと話すチャンスでもあるともいえる。そう考えて、マーガレットはアスタ博士の提案を受け入れる。
「そうかそうか。それでは、私は準備をするからいったん失礼するよ。念のために言っておくが魔導書には勝手に触らないようにね」
それだけ言ってアスタ博士は部屋から出ていく。
「……マーガレット様。大丈夫なんですか?」
さすがに心配になったのか、今まで黙っていたアイが小さな声でマーガレットに声をかける。
「まぁこればかりは仕方がないですね。一晩分宿泊費が浮いた上に有名な先生の話を聞けるというように考えておいた方がいいかもしれません」
「……仕方ないと言いながら、実はこの状況楽しんでません?」
「そうですか? 私としてはそう言うつもりはありませんでしたけれど」
二人の間でそう言った会話がなされている間に何かしらの準備が終わったらしく、アスタ博士が研究室に戻ってくる。そこから、マーガレットはアスタ博士と共に魔導書の収集や使い方について議論をし始めた。




