第20話
マーガレットとマリーが再会したその日の夜。マーガレットは一通の手紙をしたためていた。
その送り相手はアリス教授で、内容としては自らの妹を助手として雇ってくれないかというモノだ。マーガレットとしては父親は嫌っていても妹であるマリーに対しては嫌悪感をいただいていなかったので、自分のできる範囲で助けようと考えての行動だ。最も、しっかりと旅立ちのあいさつをした後なのに北部連邦にとどまっているというのは少々恥ずかしいことかもしれないが、あまり頼れる人がいないのでやむを得ない。
「ねぇアリス教授ってどんな人なの?」
手紙を書いている横からマリーが声をかける。
「まぁそうですね。先生は時間にはルーズな方ですけれど、それ以外はしっかりとしていますよ」
そのような会話を交わしながら、マーガレットは手紙を書き進めて行った。
*
翌朝。マーガレットはマリーにアリス教授への手紙を渡し、一緒に駅へと向かう。
「魔法使いかぁ。まさかお姉さまがちゃんと魔女をやってるなんてね」
「私にとっては自慢の師匠なのです」
マリーの言葉にアイが自慢げに返答する。
「ふふっいいお弟子さんね」
そう言ってマリーがアイの頭をなでる。
「……私はそこまで子供じゃないのです」
「そうね。エルフだからきっと私よりもずっと年上なのかもしれないわね」
そのような会話を交わしていると、人の往来が徐々に多くなり、ついにノース駅に到着する。マーガレットはノース駅の窓口でフランまでの片道切符を購入してマリーに手渡す。
「それじゃあ、先生のところでうまくやっていけるよう願っているわ」
「ありがとうお姉さま。この借りはいつか返すわ」
「その必要はないわよ。これはあなたのことを考えずに一人で出て行った謝罪の気持ちとでも考えてくれればいいわ」
「そう。だったら、ありがたくいただいちゃうわよ」
その会話の後、マリーは切符を受け取ってフラン行の列車が出発するホームへと向かっていく。その背中を見送った後、マーガレットとアイは東部へ向かう列車が出発するホームへ向けて歩いて行く。
「マーガレット様。これでよかったのですか?」
アイの質問にマーガレットは小さく笑みを浮かべて答える。
「えぇ。私の旅に同行させるわけにはいかないし、先生のことだからあの子のことは何とかしてくれると思うわ。だから、大丈夫。どちらにせよ、先生には近くで活動してくれる助手が必要になるでしょうしね」
「……そうですね。マーガレット様がそういうのなら、大丈夫なのでしょうね」
アリス教授なら何とかしてくれるだろうと考えるマーガレットに対して、アイはどこか心配そうな顔つきだ。もしかしたら、『令嬢マーガレット』と『魔女マーガレット』が同一人物だと知る人が増えたことに対して不安を抱いているのかもしれない。もしも、『令嬢マーガレット』と『魔女マーガレット』が同一人物だということが広く知られてしまうとメアリ王国で新たな身分証を作った意味がなくなってしまうからだ。だが、マリーにはアリス教授を紹介する条件としてこのことに関しては言及しないことを約束させたし、かなり昔の記憶ではあるが約束は守る子なのでそのあたりについては信じて大丈夫だろう。それに念には念を入れてマリーには今回ラファに向かっていることも、その後ナギサから東部連邦の方へと旅立とうとしていることも伝えていない。なので、万が一のことがあってもマーガレットの行方を追うのは単純ではないはずだ。
そう考えているうちに目の前に東部方面へ向かう列車がやってくる。
「さて、行きましょうか」
「はい」
マーガレットとアイはそのような会話を交わした後、列車に乗り込み東へと向かった。
*
マーガレットたちは途中で二回の乗り換えを経てようやく北部連邦の東部にあるラファ共和国の国境となっている山岳地帯に到達していた。ラファ共和国は国土のほとんどを山岳地帯が占めていて、首都であるラファは周りを囲まれた盆地にあるのだという。聞いた話によると、ラファ共和国の山岳地帯の中には観光名所として有名な場所がいくつかあり、年中たくさんの観光客が訪れる国だとのことだ。
そうしたラファの町に住んでいる今回の依頼者……アスタ博士は北部連邦の東部において魔導書の研究家として名が知れている。そうしたアスタ博士からの依頼ということもあり、今回運んでいる魔導書もまた貴重なモノなのだろう。それに有数の魔導書の研究家であるアスタ博士と直接話をできる機会などそうそうない。となれば、今回の依頼はマーガレットの前に現れるべくして現れたともいえるのかもしれない。
「ところでマーガレット様。今回の依頼者は魔導書の研究家として有名なアスタ博士だとのことでしたけれど、どういった分野の研究をされている方なのですか?」
車窓を眺めながら物思いにふけるマーガレットに対してアイが質問をする。
「うーんそうね。私も直接会ったことないから聞いた話だけど、生活に使える魔法の専門家だとかなんとか……」
「なるほど。そういう魔導書も結構ありますからね」
「そう。そういうことになるわね」
二人がそう言って会話を交わしていく中、列車は長い汽笛を鳴らし、トンネルへと入って行った。




