第18話
ナギサから北部連邦最大のターミナル駅であるノースに向かうに向かう列車の中。マーガレットは窓枠に肘をついて車窓を眺めていた。現在向かっているノース駅は北部連邦の首都であるノースの町中にあり、そこから各方面に線路が伸びているという形になっている。ただし、ノースからラファまでは少々距離があり、その間を直通する列車はないため一回から二回程度の乗り換えは必要となるのだが……
「……本を集める前から大きな寄り道ですね……」
「そうね。でも、これから旅をしていくうえであまりほかの人は頼れないから、こういうことだらけになるんじゃないかしら?」
マーガレットの向かい側に座っているアイは小さくため息をつく。
「まぁそうかもしれませんけれど、あそこまでやっておいて北部連邦から出れないとは思わなかったのです……」
「あら、あなた正体を明かしてから結構いうようになったわね」
マーガレットは満足げな笑みを浮かべながらアイとの会話に応じる。そうやって、二人が会話を交わす中、車掌が次の駅に到着する旨を伝えはじめ、列車は途中駅に停まるために速度を落とし始めた。
*
ナギサを出発して数時間。マーガレットたちは無事に北部連邦の首都ノースに到着した。ノースの町は北部連邦が出来てから作られた比較的新しい街でそんな町の中心部にある北部連邦議会場を中心に放射線状に石畳の道が伸び、いくつかの環状線がそれらをつないでいるとった構造になっている。街並みの方はレンガ造りの建物が並び、東西南北に区分けされたそれぞれの区画は政府機関や貴族の屋敷が集まっている北の区画やノースと他の都市を結ぶ交通機関や外部から来た人たちに向けた宿が集中している南の区画、住宅が密集している東の区画、商業施設が多く並ぶ西の区画といったようにそれぞれ役割に応じてしっかりと区分けされている。
そんなノースの町の南側にあるノース駅に降り立ったマーガレットとアイはさっそく今夜の宿探しを始めていた。ノースから東に向かう列車は本数が少なく、ノース駅の駅員に聞いたところ、明日の午前中まで東方面へ向かう長距離列車はないとのことだったからだ。
北部連邦の各地からの列車が到着するノース駅や近隣都市からの乗合馬車が到着するターミナルとなっているノース馬車駅のほか、旅人向けの宿や商店が並び、多くの人が往来する通りを歩く中でマーガレットとアイはお互いを見失わないように手をつなぎながら前へ前へと進んでいく。
「それにしてもすごい人ですね……」
「えぇ。でも、駅からもう少し離れれば人は少なくなるから大丈夫よ」
その人の多さに驚くアイに対して、マーガレットは余裕を持った笑みを浮かべて返事をする。その答えは前にこの町に住んでいた時の経験からくるものだ。マーガレットはラファの町までは行ったことはないものの、ノースにはルイス家の屋敷がある上に、何度か『魔女マーガレット』として訪れたことがある。なので、この町においてはどこら辺が人が多くて、どこら辺が人が少ないのかというのをある程度把握している。もっとも、前に来てから少し期間が開いているので状況が変わっている可能性も否定はできないが……
そうやって、雑踏の中を歩くこと約十分。鉄道駅や馬車駅からの人が減り、だんだんと普通に歩けるようになってきた。
「はぁ押しつぶされるかと思ったのです」
「そうね。あの辺りはいつでも人がいっぱいいるから、迷ったりしないように気を付けないといけないわね」
小さくため息をつくアイに対して、マーガレットは笑みを浮かべながら会話に応じる。そんな中でマーガレットは前方から走ってくる二つの人影を視界に納める。
「泥棒だ! 捕まえてくれ!」
二つの人影のうち一つ。後ろの方を走っている男性が声を張り上げる。それに応じて、マーガレットは前方を走っている少女を拘束魔法で足止めして捕まえる。その間に後ろを走っていた男性が追い付いて、こちらをにらみつけている少女の手をつかんだ。
「やっと捕まえたぞこの泥棒め!」
男性は肩で息をしながらそう言い放つ。それに対して、捕まった少女の方はマーガレットを静かににらむだけでそれ以上の行動をとる気配はない。
「一応お伺いしますけれど、この子が何を盗んだんですか?」
そう言った状況の中、マーガレットは男性の方に声をかける。
「んっ? あぁこいつはうちの店の商品を盗む常習犯なんだよ。今回はパンを盗みやがったんだ」
「なるほど。それで? そのパンの代金はいくらですか?」
マーガレットが質問すると、店主は少し空を仰いでから答える。
「そうだな。銀貨1枚分ぐらいだな」
「そうですか。それではこれをお支払いしますので、この場では私がいったんこの子を引き取ってもいいですか?」
そう言いながらマーガレットが銀貨を取り出すと、店主の男性は少々迷ったような様子を見せてからそれを受け取る。
「あっあぁまぁ代金がもらえるなら文句はない。ただ、次同じことをしたら容赦しないからな」
それだけ言うと、男性はその場を立ち去っていく。その姿が遠くへと離れて行ったのを確認すると、マーガレットはいまだに拘束魔法で動けないでいる少女の方へと視線を移す。
ボロボロのシャツとズボンを身に着けたその少女の髪は少しくすんだ水色で、ぼさぼさとしており、腰の近くまで伸びている。目の色はすんだ青色、身長はマーガレットよりも少し低いぐらいといった特徴を持つその少女はマーガレットのことをにらみ続ける。
そんな少女を見て、マーガレットは深くため息をつく。
「まったく。何がどうなってこんな面倒なことになってるのよ……」
そうつぶやくマーガレットに対して、横からアイが声をかける。
「あのーまさかだとは思いますが……お知り合いだったりしますか?」
「そうね。知っていると言えば知っている人ね。それも、ただの知り合い以上の関係の人よ」
マーガレットは少女の手をしっかりとつかんでから、拘束魔法を解除し、そのままその少女を引っ張るような形で人気の少ない路地の方へと歩いて行った。




