第14話
メアリ駅の近くにある集落の一角。アイの自宅兼事務所の応接室。
応接セットが置いてある中でマーガレットは椅子に座り、アイは床に膝をついてそのまま地面にこすりつけるようにして頭を下げる。
「マーガレット様。すみませんでした」
「別に謝罪はいいわよ。それよりも、あなたが私に近づいてきた本当の経緯を聞きたいのだけど」
アイはゆっくりと頭を上げる。
「あのーですね。探偵には守秘義務というのがありまして……」
「つまり、仕事で接触してきたということなのね」
アイの体がビクリと動く。おそらく、図星なのだろう。そもそも、説明をしてほしいというマーガレットの言葉に対して守秘義務があるから答えられないという時点で仕事で近づいてたということはほぼ確定だと言える。
「それはその……」
自ら墓穴を掘ってしまったことに気が付いたのか、アイは必死に言い訳を探している様子を見せる。
「……仕事として私と接していた。ということでいいの?」
「それはっそれは最初こそはそうでしたが、今はそうでもないのです。それだけは信じてください。そもそも、この依頼を受けた時点で探偵は廃業するつもりでしたし……」
まったくもって話が見えてこない。アイが何を隠しているのか、依頼人はだれで、どういった内容の依頼なのか……仮に依頼人がルイス家の当主である父親だとすると、彼女の発言は少々不自然に思えるし、このような片田舎にある探偵事務所に依頼をするというのは考えづらい。一番引っかかるのは『依頼を受けた時点で探偵廃業するつもり』という部分だ。一体全体どういう依頼だったら探偵を廃業するという結論が出るのだろうか? 真っ先に思い浮かぶのは依頼達成時の報奨金が多いからだということだが、エルフの寿命の長さと彼女の年齢を考えると一生働かずに暮らせるほどの報奨金となるとかなりの額を用意しなければならなくなる。といったことは目の前にいる当人から聞き出すのが早いだろう。
「とにかく。私にどんな人物のどういった内容の指示で近づいてきたのか教えてくれないのなら、私は今後一人で旅をするわ」
「それは困るのです。それだけは勘弁してほしいのです」
それにしても気になるのは、こういった状況になってもなおアイがマーガレットについてこようとしていることだ。いったいどんな依頼を受けたらこのような事態になるのだろうか?
ここまでの応酬が相当効いているのかアイがだんだん涙目になってくる。そこから少しの間沈黙を挟み、アイが口を開く。
「……わかりました。どうせ探偵も廃業するつもりでしたし、信用も何もないので私のわかる範囲で話をさせてもらうのです……」
そう言って、アイは事の次第について話し始めた。
*
今回の件について依頼が来たのはマーガレットとアイが直接接触するより半年ほど前。きっかけは一通の手紙だった。
その手紙は匿名で、マーガレットの写真とアイのもとに来る仕事の依頼金としては多額な小切手とマーガレットの様子を記録してほしいという日記帳、日記帳の使い方についての説明書が添えられていた。
添付されていた依頼書の内容は至極単純で『この写真の人に寄り添ってほしい』とだけ書かれており、あとはマーガレットの経歴などが簡単に書かれているというものだった。
最初こそ、何かのいたずらではないかと疑ったアイであったが、検証した結果小切手は本物で、写真に写っている魔女のマーガレットなる人物も実在していることが判明した。結果として、アイは半年近くに及ぶ調査の末にマーガレットの写真を隠し撮りし、それをもとに雑誌を捏造して、マーガレットに弟子入りするという手を選んだのだ。
*
アイが一通り話し終えた後、マーガレットはしばらくの間、沈黙を保っていた。
「あのーマーガレット様?」
「あぁごめんなさい。あなたの話について考えていたの」
「すみません。あまりにも突拍子のない話ですもんね……」
すっかりと黙ってしまったマーガレットを前にしてアイはどうしていいのかわからないのか、少々困惑したような表情を浮かべている。しかし、先ほどの話の内容が本当かどうかという点は一旦置いておくとして、マーガレットとしては確認したいことが一つあった。
「ねぇアイ」
「はい」
「最初は仕事だからってやっていたんだと思うけれど、今はどうなの?」
そう。マーガレットが気になったのはアイの現在の気持ちだ。マーガレットから見る限り、アイは自分のことを慕ってくれているように見えた。それが仕事をこなすための演技なのか、はたまた仕事で近づいたものの本当に慕ってくれるようになってくれたのかというあたりが気になっての質問だ。
「最初は、最初の半年の調査では確かに仕事としてやってきました。でも、マーガレット様に一目ぼれというところは少々無理やりですが、私自身がマーガレット様に弟子としてついていきたいと思っているのは本当です。せめてそこだけは信じてください」
「そう。だったら、これからも態度でそれを示してくれればいいわ。一応言っておくけれど、無理やりじゃなくて自然にね」
マーガレットの言葉でアイの表情がパッと明るくなる。
「それって」
「今回のことは許してあげる。正直、助手が欲しいのは確かだし、あなたの話が本当ならルイス家がらみの話ではなさそうだから」
そう言いながらマーガレットはポケットから小さくて四角いキューブ型のマジックアイテムを取り出す。
「これはね。相手が嘘をついていたらそれを教えてくれるマジックアイテムよ。これが反応しなかったからあなたの話、信じてあげるわ」
「ありがとうございます!」
アイは笑顔を浮かべて立ち上がる。
「アイ。これからもよろしくね」
「はい。わかりました」
二人はそのような会話を交わした後、しっかりと握手を交わした。




