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それからしばらくしてシバコウは神知学園を卒業していった。魔王城に戻っていった。
無事、神知学園を最後に卒業した僕も、今、大神殿の二階にいる。
統一神として、シバコウと共創した神知学園を今後、どうするべきか。
熟考している。ふと、仏頂面の女性がぐい、と顔を近づけてくる。
「また馬鹿者が下で騒いでいるぞ」
「いつものように桜井先生が叱っておいてくれませんか?」
近くにいた堕天使は、魔王の願い事を分厚い書類にまとめて、大神殿に持参していた。
馬鹿者とは、一階でリエルと遊んでいるシバコウのことだ。
「それが統一神の望みなら、容赦なくやるが?」
「はい、頼みます」
統一神は、魔王との共存を望んだ。それを魔王が快諾したため、地位が統合された。
統一神である僕は天使だけでなく、堕天使である桜井先生からも仕えられるようになった。
ただ、桜井先生はいつまで経っても、僕にとっては先生のような存在だった。
桜井先生が忽然と消えたかと思うと、一階から、シバコウの叫び声が聞こえた。
束の間、大神殿全体が静かになった。
刹那、僕の方に近づいてくる足音が聞こえた。ドンドン、と扉が叩かれ、「入っていいよ」と言っていないのに、シバコウが部屋に乱入してくる。
「大ちゃん、ずるいぞい」
神の世界は、多忙だった。
神様評議会と呼ばれる集まりで、下の世界から神になるべき者を選定する。
また同時進行で、次の統一神を選定する必要があった。
いくら足掻いても、僕の寿命は終わりが見えている。
選択が迫られている。
眠たいと感じる時間が、長くなってきている。
「ずるくなんてないよ。ねえ、シバコウ?」
「なんじゃい、大ちゃん」
いつも物事を決めきれず、次の統一神の件についても、僕は事前に青梶へと相談していた。露骨に嫌そうな表情をした青梶には「それは大が決めろよ。統一神だろ?」と一蹴されている。
「シバコウとリエルに、次の統一神を任せたいんだよ」
既に、茜には承諾済の件ではあった。
「嬉しいけど、悲しいよね」と言った茜の表情が印象的で、彼女の肩に乗ったリエルは瞑目したまま、何の反応も示していない。
「嫌じゃ」シバコウがかぶりを振る。
「どうしてさ?」
「ワシは大ちゃんとだから、統一神のペアを組んだんじゃ。いくらリエル殿に恩があると言っても断るぞい。リエル殿には、茜殿がいるじゃろう?」
「そこをなんとか」
「嫌じゃ」
「やろうよ」
「嫌じゃ」
ぎゃあぎゃあ、と、僕とシバコウは徐々に口論になっていく。
しばらく揉め、手を取っ組み合い、最終的にはシバコウは扉を蹴破るようにして、「なるようにしか、ならんのじゃ。それじゃあの」と去っていく。
瞼が、重たい。
この日を境に、シバコウは大神殿にまったく姿を見せなくなった。
「ねえ、統一神。ジョセフィーヌを知らないかな?」
きなこが大神殿にやって来ていた。
その挙動不審な様子から、きなこがいつもの状態ではない、とは、すぐに分かった。
「シバコウなら、魔王城にいるんじゃないかな?」
「それが、いないの。レオに頼んで、城の中を徹底的に探してもらったけど。どこにもいないみたいで」
ドンドンと扉が叩かれ、今度は青梶とドチグマが入ってくる。
「大。次の神様候補の名簿だ」
ざっと、僕はリストを流し読みする。唖然とする。
黙って、きなこにもリストを見せていた。
目を大きく開いた白いウサギは、口元を隠しながら、慎ましく笑う。
「なんともジョセフィーヌらしい選択だね」
現時点で下の世界にいる者しか、神様候補の対象にはならない。
そのリストの中に、なぜかシバコウの名が入っている。
「これって、きなことの絆は大丈夫なの?」
「さあ、どうだろう。前例がないもの。困ったよ」
口元を隠し続けながら、きなこは目を細くする。
「ねえ。魔王って、どんなことをすればいいと思うかなあ?」
満面の笑みを見せたきなこに、僕はああ、と思った。
きなこに魔王の座を譲るために、下の世界に敢えて、シバコウは飛び降りたのだ。
「神の世界と仲良くしてくれるなら、それでこっちは十分だよ」
僕はそれだけ答えた。
絆同士で、何を話し合い、どうやって今のような状況になったのか。
尋ねることは、野暮だと思い、僕は「おめでとう」とだけ、続ける。
その日以降、大神殿の中ではシバコウの話題で持ちきりになった。
「どうやって命が尽きる前に、下の世界に戻ったのかな?」
誰にともなく、僕は尋ねてみる。
「分からねえ。前例がないからな。どうする、あの柴犬を連行するか?」
「青梶、それは止めとこうか。強硬的すぎるよ」
場を落ち着かせ、僕は次の一案を、待つ。
「おっ食っちまうぞ?」と言ったドチグマの案を皮切りに、青梶は「今度こそ、柴犬を引っ捕らえる」と宣言し、「それは止めとこうよ」と茜が宥めている。
「シバコウさんは、本当に神になりたいんでしょうかね?」
ぼそりと発したリエルに対し、「それはないんじゃないかな。もう飽きたと思うし」と僕は答えた。
思ったよりも声が出ずに、リエルに「すみませんが、もう一度、意見をお願いできますか」と実直丁寧に、聞き直される。
瞼が、重たい。




