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柴犬の名は、シバコウ。またの名を、ジョセフィーヌ  作者: 木村文彦


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 シバコウは大ちゃんにサプライズパーティをしたいと思い、プレゼントの一つとして、神知学園を用意しました。

 ただ単にケーキを持ってパーティを開くだけでは面白くないと感じたシバコウは、銃口に花束が出るような仕組みをせっせと大神殿の中で作っていきます。

 途中、青梶殿に銃が見つかってしまい、怒られてしまいました。

 また、ある日。絆を結んでいたきなこちゃんに、「このサプライズパーティが上手くいけば、魔王城に戻るからのう」と、シバコウは約束をしています。

 交換条件として、きなこちゃんには重大な仕事を任せました。

 本物の銃を利用して、大ちゃんを最初は脅かしつつも、最後には一緒に祝ってもらおうと考えたのです。

 その役回りに否定的だったきなこちゃんが、ある日、急に乗り気になり、シバコウは驚きます。こっそり淳ちゃんに事情を探らせると、どうやら大ちゃんがきなこちゃんと密談したようでした。

「どうして日記なのに、ストーリー形式での進行なのさ?」

 思わず、突っ込んでしまう。

 教室の後ろでは、ドチグマとリエルによる大食い競争が始まっていた。

 審判は、レオのようだ。

 青梶との口喧嘩を制したシバコウは大量の食べ物を口の中に詰め込んだようで、頬をこれでもか、と膨らましている。

 その状態のまま僕の元に帰ってくると、シバコウはゴクリと食べ物を飲み込み、一気に頬を縮小させていった。

「それは後に、代々、読み継がれていくべきものじゃからのう。魔王と統一神の新たなる一歩目じゃよ」

 シバコウが、日記の音読を開始する。

「大ちゃんによる一度目のピンチは、神知学園が完成間近という時期に起こりました」

 サプライズパーティの準備が整いました。

 きなこちゃんが神知学園に登場します。

 シバコウにとって、それは少し、時期尚早だと感じましたが、きなこちゃんが決行する気満々だったので、実行するしかありません。

 作戦は単純明快。きなこちゃんが銃を撃つだけです。

 さあ、いよいよ決行の時です。

 銃声を、一発。

 大ちゃん。その場で倒れてしまいます。

 慌てたシバコウが大ちゃんに大量の水をぶっかけます。

 なんとか意識を回復させることに成功しました。でも、大ちゃん。

 目を覚ますと、記憶が何もありません。

 慌ててシバコウが大ちゃんの胸に手を当ててみると、心臓が一つ、機能停止になっています。 すぐに、大ちゃん。また、目を閉じてしまいます。

 その時です。シバコウは名案を思いつきました。

 迅速に動き出します。

 まず悪魔に指示を出します。神知学園のグラウンドまで、大ちゃんを運び、寝かしておきます。多くの神様にも協力を募りました。入学式のような演出を加えていきます。

 しばらくして大ちゃんが目を覚ましました。

 自らが死んだ事実を、シバコウに確かめてきます。

「そこから大ちゃんによる二度目の暮らしが神知学園で始まるんじゃよ」

「その場ですぐにサプライズパーティをやりたい、とかは考えなかったの?」

「うむ。大ちゃんの記憶が完全に戻れば、そう考えたかもしれんのう。じゃが、桜井先生の授業だけでは、なかなか過去を思い出すことは厳しいようじゃった」

 ――そこでシバコウは神知学園の中で、恐怖感の演出を誇張しようと決めました。

「それがあの銃であり、卒業の形式だったの?」

「うむ。ご名答じゃ。環境に違和感を抱かせ、黒幕がいると思わせた方が、大ちゃんの記憶がすんなり戻りやすいと考えたんじゃよ」

 新しい料理ばかりに視線が飛んでいくシバコウに「一緒に取りに行こうよ」と僕は提案した。一緒に並んで、仲良く、歩く。

 食べ物を取りにいくと、シバコウはリエルに絡まれ、ドチグマに巻き付かれ、茜に頬を引っ張られていた。僕はその光景を見て、心が温かくなるのを感じつつ、一人で自席に戻った。

 またシバコウの日記に、視線を落とす。


 大ちゃんは目ざとく、きなこちゃんの机の中に入っていた銃の存在に気づきます。

 卒業生との関連性を見出し、あの盟友、シバコウにさえも疑いの目を向けていきました。

「いや、盟友って」

 独りごちながらも、僕はどこか嬉しくなる。

 シバコウの日記はどこまでもシバコウらしく、読んでいて楽しい。

 悪者を演じてくれていた絆のきなこちゃんが慌てて、神知学園に戻ってきました。

 シバコウが神知学園の生活を謳歌しすぎたせいで、大ちゃんの寿命がまた終わりを迎えようとしていたからです。

 この頃、大ちゃんは「眠たい」と、よく周りに訴えかけるようになっていました。

 大ちゃんの命の終わりが近づいています。

 ですが、シバコウ。

 もっと学園生活を楽しみたいあまり、なかなか動きません。

 そのため独断で、きなこちゃんはサプライズパーティを実行しようと、感情階段を用いて大ちゃんの眼前に、急遽、現れたのです。

 最後の演出は、決まっていました。

 二度目だったので、より演出を派手にしようと企てています。

 きなこちゃんが本物の銃を撃ち、大ちゃんの仲間が続々と、消えていきます。

 緊張感を増幅させてからの、シバコウです。

 シバコウの銃口からは花束が出てきて、実は、全員が周りに隠れている。大成功。

 その舞台装置の役割は、感情階段が機能してくれるはずです。

 さて、いよいよ本番です。

 全員がいなくなるタイミングまでは完ぺきでした。

 ですが、大ちゃん。

 きなこちゃんによる渾身の演技中に目を瞑ったかと思うと、その場で、倒れてしまいます。

「大ちゃん。二度目のピンチじゃのう」

 戻ってきたシバコウが急に喚き、僕はぎょっとする。

 またシバコウが日記の音読を、再開している。

「水をぶっかけ、しばらく様子を見て、またシバコウは大ちゃんを神知学園のグラウンドに寝かせました。やり直しです」

 すぐにシバコウは、また入学式の用意をするよう、周りに指示を出します。

「ただ今度は、大ちゃん。なんと全部の記憶を甦らせよったんじゃ!」

 周りは、大慌てです。

 初めての神知学園ではない大ちゃんに行動を怪しまれないよう、シバコウたちは同じような行動を取るのに、必死でした。

「じゃあ最初から、僕に記憶が戻っていたことは分かっていたんだね?」

「うむ。まあ厳密には、リエル殿が教えてくれたんじゃがのう」

 リエルとドチグマの大食い競争は、リエルが勝利していた。

 狸が、右こぶしを天に突き上げている。シバコウも机にあった骨付きチキンを手で掴み、リエルを真似るようにして、天に食物を見せていた。

「それにしても今回は突然、サプライズパーティを実行しようと思ったんだね?」

「色々ともう限界じゃったんじゃよ」

 多くの食べ物や飲み物が、誰かの胃袋に収まり、減っていく。

 かと、思えば、また大量に机の上に出現している。

 その中には、さつまいもチップスの袋もある。

 シバコウが継続的に念で、豪勢な食べ物を取り寄せている。

「ジョセフィーヌ。本当に疲れたよ」

 ぐったりとしたきなこが食べ物を片手に、シバコウに歩み寄っていった。

 シバコウの肩に、白い顔を乗せている。

「ありがとう、きなこちゃん。きなこちゃんはずっとビューティフルじゃ」

「その言葉、好きだなあ」

 きなことシバコウがぐいと顔を近くに寄せ合い、互いに目尻を下げていた。

「とにかく復活した大ちゃんに今度こそ、と、サプライズパーティの場である神知学園にご招待したんじゃよ! やっと作戦、大成功じゃ!」

「こんなめちゃくちゃな計画、よく途中で破綻しなかったね?」

「それはあれじゃよ。どれもこれも完全にリエル殿のおかげじゃ」

 大参謀。

 なるほどと、僕は思った。

 シバコウがくれた日記には、神知学園の裏側が事細かく書かれていた。ただ筆跡が異なる部分もあり、そこはおそらく、リエルが書いたものだろうとは、すぐに分かった。

「大ちゃんの記憶を授業で取り戻してあげるんじゃ!」

 僕に向けたサプライズパーティの計画は行き当たりばったりそのもので、とくに二度目の神知学園に入ってからは本当に滅茶苦茶だった。

「銃の存在が大ちゃんに露呈したのならば、学園をよりスリルなものにするんじゃ!」

 その中に、「気絶」と書かれた項目があった。

 どうやら神知学園に来てからの僕は長時間気絶するようにして眠ることがあるらしく、僕の目が覚めた瞬間から「次の日」として、学園の生活が新たな一日として、リセットされていたようだった。

「大ちゃんさん。本当に大変でしたよ」

 リエルは流れるような動きで、シバコウの頭を少し、小突いた。

 慌てて、きなこがシバコウから、さっと離れている。

「シバコウの作戦に私が参加しようとしたら、計画がばれちゃうからって弾かれちゃったんだよ」

 リエルを肩で運んできた茜は、頬を膨らませている。

 隣ではシバコウも茜の真似をするようにして、頬を膨らませている。

「じゃあ茜は、僕のことを嫌いになったわけじゃないんだね?」

「え、嫌いじゃないよ?」

 お喋りな茜が失言しないように、ずっと裏では僕に話しかけないようにと、周りから止められていただけらしい。どこか、僕は安堵する。

「そうだ。よく青梶やドチグマはシバコウを手伝ってあげようと思ったね?」

「銃の点は不服だがな。まあ、柴犬は関係ない。あいつのためだよ」

 青梶は、端の方で凜と立ち、一切、食事に手をつけずに空を眺めるレオを指差していた。

 大神殿に攻め入る悪魔の中に、よくレオはいた。

「レオは、この柴犬に色々とこき使われていてな。不便だと思ったんだよ」

「それでサプライズパーティに協力を?」僕はアジの刺身に手を伸ばす。

「ああ。銃の件がはっきりしてからだけどな」

「じゃあドチグマも同じような理由で、シバコウを手伝ってたの?」

「おっ、食っちまうぞ?」

「隙ありじゃ、騎乗の術!」

 シバコウがドチグマの背中に飛び乗っていく。

 ドチグマはしゅっと、息を漏らした。

 どうやらドチグマはシバコウのことをただ単に好きなだけだっただけのようだ。

 この計画で一番、大変だったのは、シバコウのご近所さん、として召集されたツンツン頭の淳ちゃんと黒縁メガネの一平だったのだろう。

 日記によると、神知学園の建設が主な仕事だったからだ。

「淳ちゃんや一平もお疲れ様じゃ!」

 ドチグマの背に乗ったまま、シバコウが軽口を叩くようにして、労っている。

「おう」と軽く応じた淳ちゃんの目には隈があった。一平も、頷いている。

「それで桜井先生は、本当に魔王だったんですよね?」

「もちろん、そうだが」

「だったら、シバコウのサプライズパーティや神知学園に関して思うことは?」

「完成度が低い。あらゆる場面で、行き当たりばったりだったからな」

 ドチグマの背から飛び降りたシバコウはきなこの元に駆け寄り、リエルを呼び寄せた。

 すぐにシバコウは茜の肩に乗った。そこにドチグマと青梶が近寄っていく。

 一平がレオや淳ちゃんに声を掛け、彼らもシバコウに引き寄せられていった。

 シバコウの周りは、いつも賑やかだ。

「おい、それよりもシバコウ。早く、見世物をしろ。そのために今まで特訓を頑張ってきたんだろ?」

 桜井先生の一声で、シバコウはすぐに宙を舞う。

 ドロップキックだ。



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