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僕はゆっくりと、目を開ける。
「おめでとう、大ちゃん!」
シバコウの持つ銃口からは銃弾でなく、色とりどりの花が四方八方、飛び出ていた。
その場にいる全員が、満面の笑みを浮かべている。
「これは、どういうこと?」
僕はきなこの銃によって、シバコウから命を奪い取られることを覚悟していた。
僕の想いを汲み取り、すぐにでも下の世界に行けるよう、シバコウが自ら、命を奪ってくるものだと考えていた。
全然、違った。
「この銃はのう。ずっと大ちゃんを祝うためだけに、取っておいた逸品じゃよ。途中で青梶殿に見つかって怒られちゃったがのう。サプライズパーティじゃ! ワシも大ちゃんみたいに、ずっと日記をつけていたんじゃよ。ほれ。その日記をプレゼントしようかのう」
大文殊様はドチグマの背に乗って、空中を散歩していた。
その際、僕にゆっくりと頭を下げてくる。
「この魔王は、非常に厄介だったんだ。統一神のためにサプライズパーティをしないと、外交が破綻したとみなすんじゃ、などと喚き騒いだからね。新時代だよ」
ようやく僕は銃のことがすべて理解できていた。
完全なるシバコウの悪戯だった。
「シバコウさんは大ちゃんさんと統一神のペアを組み始めた当初から、サプライズパーティをしようと企てていました。ですが、神知学園での生活が始まる直前に、大ちゃんさんは一度目の命を失ってしまったんです。後に、息を吹き返したものの、大ちゃんさんは記憶を失っていました。ここで、話がややこしくなります」
リエルに説明を懇願すると、蜜柑の皮を剥く手を止めてまで、全員に聞こえるが、それでいて穏やかな声量で、狸は語ってくれる。
「大ちゃんの記憶を、神知学園の中だけで復活させるんじゃ!」
突然、大声で叫んだシバコウは僕から逃げるようにして、どこからともなく大量に現れた料理を掴みに走り去っていく。
「その通りです。ただ単に記憶を思い出させるのは楽しくないと、シバコウさんは考え、念の概念をひた隠しにして、記憶を失っている大ちゃんさんには教えないようにしました。学園であれば不気味な要素も必須じゃ、などと言って、さもシバコウさんが念を扱えるような素振りを見せたのです」
リエルは辺りを見渡している。
何度、聞いても、念は特殊な能力だった。
元々、念の能力を持っていたシバコウが十全に扱えること自体は当たり前の話であり、僕が念を持っている事実を当然、魔王も元魔王も把握していた。
そのためシバコウはいつでも、どこでもさつまいもチップスの袋を量産できていた。
「入学式の日にチョコを、わざわざ僕の目の前で取り出したのはそういうこと?」
「うむ。念に関するヒントを出してあげたんじゃよ。ワシは優しいからのう」
憎たらしい顔をシバコウはぐいと、僕に向けてくる。
その手には、皿だ。
ふと、疑問に想った。
きなこは、どこからシバコウに協力していたのだろうか。
僕の疑問を察したのか、きなこはシバコウを引き連れるようにして近づいてくる。
「シバコウに向けた手紙を、統一神から読ませてもらった時、考えが変わったの。その時までは本気で統一神を仕留めるつもりでいたんだけどね。統一神の覚悟、見せてもらったよ。それでジョセフィーヌのお願いにも、きちんと協力することにしたんだよ?」
「うむ。きなこちゃん、どういうことじゃ?」
両手に、大量のおかずを載せた皿を持ったシバコウが目を見開き、驚いている。
「統一神に見せてもらったのよ。魔王宛てに書いた手紙を」
きなこが一枚の紙片を、シバコウに渡していた。
皿を机の上に置いたシバコウはそれこそ眼前にさつまいもチップスの袋があるかのように必死に、それこそ貪るようにして、手紙を読んでいる。
僕の前世は、ダイオウイカです。同じ外見と寿命を、神様の世界でも引き継いだ僕は、どう頑張っても、数年の寿命がいくらか繰り返されるだけです。
シバコウ。いや、ジョセフィーヌ。
あなたには、周りの者を巻き込む力があります。
だからこそ、強い意志を持って、悪魔を束ねていってほしいのです。
神様になりたい気持ちはよく分かります。
でも、それは巡り巡って、またシバコウが上の世界に戻ってこられたら、その時に、きっと叶えられることでしょう。
そんなことより、問題は今です。
青梶は神様として、悪魔を制圧しようと考えています。
一方できなこやレオなどの悪魔も、大神殿の襲撃を止めようとはしていません。
それもこれも魔王であるはずのジョセフィーヌが大神殿にいるからです。
本心だけを言えば、僕はシバコウと遊んでいる時間が大好きです。
ですが、楽しいだけの時間は永遠には続きません。
現に、僕はまた眠たくなってきています。
寿命の終わりが近づいてきています。
絆を結んだきなこですら、幸せにできていない魔王が、神の世界をまとめることなど、絶対に不可能です。
まず、近くの者を愛して下さい。
僕は、大丈夫です。もう十分すぎるほど、シバコウから愛をもらいました。
ただ、心残りはあります。
シバコウの側で、世界の発展を見届けられないことです。
でもシバコウなら、きっと上手くやってくれると信じています。
最後に。
僕はシバコウに心から幸せになってほしいと願っています。
絆を結んでいるきなことも、仲良くやってほしい。
そこで僕はリエルと一緒に考えました。
念のことです。
僕には命が、複数あります。
それでも必ず、終わりの時がやって来ます。
その終わりの時を迎えた際、念を消失させます。
これで悪魔が大神殿を攻め続ける理由は完全になくなるでしょう。
シバコウが魔王城に戻れば、万事解決です。
僕はシバコウが、どちらの世界からも愛される柴犬になることを切に願っています。
それが一番の世界平和につながると思っているから。
大
かぶりつくように手紙を読んだシバコウは目を潤ませ、「重たすぎる愛じゃのう」と掠れた声で言った。
「あれだけ決断できない大ちゃんが、念を消すことだけは即断したんじゃのう」
「うん。だからこそ、神知学園ではシバコウのお願いに付き合ってあげようと思ったの。統一神が悪者でないと、よく分かったから」
柔和な笑みを、きなこは浮かべる。
シバコウの作戦は、記憶を失った状態で神知学園に入学してきた僕に、銃の存在をほんのりと気づかせる。その後、卒業生が出たとして、学園生活に緊張感を持たせ、その後も次々と卒業生が誕生していくようにする。
「卒業生と銃の関連性を、僕が嫌でも勘ぐるように仕向けたんだね?」
僕が口を挟むと、シバコウは「うむ」とだけ答える。
神知学園の中で恐怖感が最高潮に達したところで、きなこが本物の銃を持って現れる。
一発。その後、シバコウの銃口からは花束を飛び出し、サプライズパーティがこれで完遂。
ハッピーエンド、となる予定だった。
「僕を怖がらせる役割を、きなこが担っていたの?」
「うむ。これに協力してもらうことこそが、ワシが魔王城に戻る条件だったんじゃ」
銃を持って現れた時、きなこは「時間がない」と言っていた。
あれはサプライズパーティをする前に僕の寿命が尽きてしまう、という意味だったらしい。
またシバコウが銃を持っていた点に関しても、これでようやく納得がいく。
「まず、きなこちゃんが本物の銃で一発、実弾を放つ。ここで、大ちゃんがびっくりする予定じゃったんじゃ。が、ここで倒れてしまってのう。二度も同じ失敗を繰り返してしまったんじゃよ」
いつの間にか、教室が食べ物だらけになっている。
僕の念を活用して、誰かが豪華絢爛なメニューを次々に、机の上に呼び寄せている。
「三度目の大ちゃんの暮らしは、よりサプライズパーティをすることが難しくなってのう。これまでの記憶を全部、大ちゃんが思い出した上に、青梶殿にサプライズパーティの計画がバレちゃったからのう」
「おい。それを、もっと詳しく説明しろよ」
骨付きチキンを持っていない方の手で、青梶はシバコウの尻尾を掴んでいる。
「いやあ、素晴らしい働きぶりじゃった。青梶殿よ」
「途中、桜井先生や茜に確認するまで、本当にあの銃で、大を始末するのかと思ったじゃねえか」
奥の方でドチグマがしゅっと息を漏らした。目尻を下げて、青梶の反応を伺っている。
つまり青梶だけは銃の意味を、僕と同様、まったく知らされていなかった。
「それもこれも青梶殿のせいじゃ。ワシを敵だと見なしておるせいで、秘密裏に進めておる作戦を告げにくかったんじゃよ」
「悪魔の大群が大神殿に来ていたのも、魔王の差し向けだったんだから仕方ねえだろ?」
「違うぞい。最初こそ、念の奪還が目的であったらしいがのう。途中からあれは悪魔もみんな、大ちゃんのサプライズパーティに参加したかっただけじゃよ」
「なんだと?」
そこから青梶とシバコウの口論が始まり、最初こそ有意義な議論だったために僕も耳を傾けていた。が、途中から話し合いの性質が罵詈雑言の浴びせ合いに変化したため、僕は話を聞くことを止めていた。
騒音を耳で味わいつつも、シバコウからプレゼントとして頂戴した日記を読んでみようと、ボロボロのノートに手を伸ばす。




