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柴犬の名は、シバコウ。またの名を、ジョセフィーヌ  作者: 木村文彦


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 きなこの机には、銃が入っていた。

「あれってシバコウの武器じゃないの?」

 僕は心機一転、緑色のノートに日記をつけている。

 さらりとシバコウに伝えてから、しまった、と思った。

「おお、本当じゃ。ふむ。大ちゃん。どうして、銃が魔王の武器であると知っておるんじゃ?」

「そりゃあ魔王の武器といえば、銃だからね。一般常識だよ?」

「ふむ。それもそうかのう」

 失言を回避した僕は、内心、焦っていた。

 以前の神知学園とできる限り、同じような軌跡を歩みたい。

 どうして、シバコウ。もしくは、きなこが銃を神知学園に持ってきているのか。

 その全貌が明らかになるまで記憶喪失のふりをし続けようと、心に誓った矢先の失態だった。シバコウが気にする様子は、ない。セーフだ。

「さて。どうしようかのう」

 教室から誰もいなくなった隙に、シバコウは銃を手に取り、悩みに悩んでいる。

 神知学園は放課後になると、教室には誰もいなくなる。これは全員が魔王城もしくは大神殿に感情階段を介して戻っているからだと、あっさり謎が解けていた。

「これはどういうことじゃ?」

 結局、シバコウは淳ちゃんに銃を渡し、追及を始めている。

 僕は、その様子を遠くからひっそりと見守った。

 前回、二度目の記録では、シバコウが単独で行っていた行為だ。

 青梶が近づいてくる。今回も、シバコウは同じ轍を踏んだ。

 一平にも見られている。

「銃なんて知らないって。きなこの独断だろ?」

 淳ちゃんの反応を見る限り、本当に何も知らないようだった。

 その後、やはり僕は淳ちゃんを知る貴重な情報源として、青梶とドチグマにつきまとわれるようになった。

 シバコウを魔王だとして接していた青梶は、警戒心が異常に強い。

 きなこだけでなく、一緒にいた伊藤淳も要注意だ、としていた。

 大参謀のリエルにだけは、青梶すらも全幅の信頼を寄せている。

 これも前回と同じだ。

 間違いなく淳ちゃんは失言や失態を重ねたせいで、神知学園から強制的に卒業させられていった。早急に、きなこが決断したのだろう。

 銃。

 僕に記憶が戻らないことを確かめて、安心したのか、今度はきなこも卒業していった。

 その代わりだったのだろう。

 この頃から、やたらと一平やレオが僕に絡んでくるようになった。

 青梶はシバコウと銃の件で揉めた後、茜とよく話し合いをするようになっている。

 今回も僕は、茜に避けられ続けた。

「以前も、私は神の世界にいました」

 大参謀のリエルがそれとなく、あくまで世間話の一つのような流れで、神知学園の歴史を語ってくる。僕が、どこまで記憶を有しているのか。

 遠回しにリエルは、確かめてきた。

「うん。全部、覚えてるよ」

 リエルには嘘を吐く必要などなかった。むしろ知恵を借りたい。

 目を見開いたリエルがちゃぶ台から離れ、僕の心臓に手を当ててきた。

「遂に、この時が来ましたか」

 神知学園の記憶を保持したまま、僕は最初の命で歩んだ過去に遡り、そのまま三度目の命を燃やし始めている。

「大ちゃんさんは記憶を失っていた時期がありました。ぜひ、これを」

 リエルはそっと蜜柑の入っているリュックサックから二冊のノートを取り出していた。

 青色のノートと水色のノート。

 間違いない。僕の日記だ。

 リエルが口を開いた。が、僕が日記をバッグの中に滑り込ますと同時、シバコウが「ひゃっふーい」と部屋の中に入ってきた。

 すぐにリエルは口も、目も閉じている。

 この頃から、レオや一平の行動が活発になり始めた。

 レオはシバコウのことを「ジョセフィーヌ」とは呼ばず、「師匠」と呼んでいた。

 また決闘の場で「きなこが銃を使用した」報告を、以前と同様、レオから教えてもらっている。

 僕は、顎に手をやる。レオは悪魔だ。

 どうして僕の記憶を思い起こさせるようなヒントを、悪魔のレオがくれたのか。



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