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柴犬の名は、シバコウ。またの名を、ジョセフィーヌ  作者: 木村文彦


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 じっと僕はシバコウが再び語りだすのを待っている。

 だが、シバコウは再び喋り出すどころか、眉間の皺がくっきりと浮かび上がってきただけだった。

「ふー、よし耐えた、耐えた。危うく、お漏らしをするところじゃったぞ」

 遠くから、桜井先生がこちらに向かって歩いてくる様子が見えている。

「止めてよ。それより僕がダイオウイカだってことくらい、自分自身のことなんだから、よ

 く分かってるって」

「うむ。当然じゃ。大ちゃんの正体が重要ではないんじゃよ。大事なのは統一神の大ちゃん

 がダイオウイカである点なんじゃ。元々、心臓が三つある状態から念を使えるようになった

 んじゃよ。最強じゃのう。今、確かめると、既に二つの心臓は停止しておるが」

「ん。つまり、どういうことかな?」

「大ちゃんは命を削られても、ずっと念を持っておる。つまりじゃ。命を奪われる直前、過去に戻りたい、と念じたからこそ、過去に戻れたんじゃよ」

 命こそ、犠牲にはしている。

「ただ過去に戻った時点では心臓の数以外は変わりなく、大ちゃんは以前のように活動できるようになっておる」

 長い時間、流ちょうに説明してくれるシバコウの横顔を見つめながら、僕は首を傾げる。

 つまり僕は神知学園より前。

 一度目の記憶を見てから、三度目の生活を歩み始めているということらしい。

「なんじゃ、ワシを疑っておるのか?」

「そりゃ、魔王だからね」

「いんや、ワシはシバコウじゃ」

 退屈な入学式が終わり、教室に移動すると、当然のように淳ちゃんときなこが、僕たちの前の席に座っていた。

 さつまいもチップスを勝手に僕の念を使って取り出したシバコウは、僕に見せつけるようにして、食べ始めた。

「淳ちゃんは、ご近所さんじゃよ」

 紹介があり、僕は、まるで記憶にない素振りを頑張って、続ける。

 完全に、前回と同じ流れを辿っているので、僕もあわよくば、その流れに乗っていきたい。

「きなこちゃん、お久しぶりじゃのう!」

「シバコウ、また会えて嬉しいなあ」

 きなこが、「シバコウ」と呼んだ。

 シバコウは一度、「ワシの名はシバコウかのう?」と口に出し、確認を入れている。

「で、神の世界って、どういうことだよ?」

 淳ちゃんがシバコウときなこを交互に見た。

「淳ちゃんは、きなこちゃんとは知り合いではないのかのう?」

「シバコウ。少し、変わっているけど、そうなんだあ」

 全部、嘘だ。

 両者が牽制し合っている。探りを、入れ続けている。

 僕が、どのように反応するのか。

 シバコウときなこは慎重に、言葉を選び続けている。

「やあ、淳ちゃん。きなこちゃん。神様界のプリンス・シバコウじゃ。またの名をジョセフ

 ィーヌ。改めて、よろしくじゃ」

 シバコウの目はずっと、きなこに向けられていた。

「ジョセフィーヌの響き、私は好きだなあ」

 魔王の本名であるから、これは、きなこの本心なのだろう。

「やめんかい、きなこちゃん。照れるじゃろう?」

「シバコウとここのウサギは、ずっと昔から知り合いなのか?」

 明らかに、淳ちゃんは話題の運び方が下手だった。

 僕から情報を引き出すための会話をきなこがして、それをさせまい、とシバコウが茶々を入れるようにして、話題を変え、回避している中、淳ちゃんは的外れな質問ばかりをしていた。  

 僕は黙って首を縦に、もしくは横に振るだけで、場を流せる。

 きなこが、さりげなく淳ちゃんを睨んでいる。

「そうじゃ。ワシが淳ちゃんと知り合うずっと前からの付き合いなんじゃ」

 きなこは悲しそうな目をしながら、それでも楽しそうに前の世界について振り返る一幕があった。

 前の世界とは、大神殿のことを示しているのか。

 はたまた、魔王城のことか。

「なあ。どうして身近な知り合いばかりが同時期に、この学校に来たと思う?」

 神妙な面持ちで誰にともなく、淳ちゃんが聞いた瞬間、きなこの目つきが一気に冷たくなった。「詳しい事情を知っているの?」僕は、聞き返す。

 だが、ここで桜井先生が来て、淳ちゃんの質問は宙に浮いたまま、終わった。

 きなこが、ひどく悲しそうな目を淳ちゃんに向けている。


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