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柴犬の名は、シバコウ。またの名を、ジョセフィーヌ  作者: 木村文彦


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 入学式は、すでに始まっていた。 

 僕は土を踏みしめる。

 五感が全身に戻ってきており、画面越しで周りを見るような感覚も、完全に消失していた。

 それに、この光景。前にも見たことがあった。

 グラウンドには、異様な光景が広がっていた。

 龍、ウサギ、猫、狸……。

 ドチグマ、きなこ、レオ、リエル。

 この景色。

 僕には、見覚えがあった。

 神知学園。

 長い間、神知学園の生活を謳歌した後、僕は、きなこに撃たれた。はずだ。

「ほう。ここにいる者どもは皆、神様になれるだろうと認められた奴らじゃな。これだけいると、圧巻じゃ」

 僕の隣で、柴犬は「うんうん」と頷きながら、周りを見渡していた。

 柴犬の中でも、丸顔だ。食べ過ぎだ。

「ねえ、シバコウ」

 モフモフの背中を、僕は見つめていた。いつもと変わらぬモフモフの背中。

「なんじゃ?」

「僕って、死んだんだよね?」

「うーむ。ワシは懸命に大ちゃんを救おうとした。じゃが敢えなく、失敗したのう」

「やっぱり事実だったんだ。ところでシバコウじゃなくて魔王、ジョセフィーヌって呼んだ方がいいのかな?」

 びっくりしたらしい。

 シバコウは僕の肩を強く、激しく、叩いていた。

「痛いよ」

「きなこちゃんや桜井先生の話じゃと、大ちゃんは記憶喪失になったままだと、教えてもらったんじゃがのう?」

 実はグラウンドの景色を見るのは二回目なんだよ、と口の先まで出かかった。

 だけど、僕は「思い出したのは、シバコウが魔王だったことくらいだよ」と言うに留める。

 色々なことを思い出していた。

 ただ、まだ銃の件だけは解決していない。

 シバコウやきなこは敵か、味方か。

 真相が、まだ分からない。

「ふむ。なるほどのう。まあワシは、ワシじゃ。思うがままに生きるのみよ」

 なぜかシバコウがモフモフの手を、僕の胸に当ててくる。

「ふむ、残り一つじゃな」

「残り一つ?」

「うむ。そもそもなぜ大ちゃんが統一神に選ばれたのか。リエル殿に詳しく教えてもらったんじゃがのう。さて。大ちゃん自身は本当の理由を知っておるのかのう?」

 それは僕がシバコウを手懐けたとして、上から、主に、大文殊様から評価されたからだ。

 龍のドチグマが、空中を気持ちよさそうに飛んでいる。

「うん、知ってるよ。でも、その話。今は興味がないかもしれないね」

「大事な話なんじゃ。やっぱり大ちゃんは一番、大事なことをまだ自覚してはおらんようじゃな」

「え?」

「ふむ。命を失う直前の記憶をもう一度、思い出してみんしゃい」

 荒れ狂う激流の中、モフモフの手が見え、僕は必死にその手を掴もうとした。

 だが、結局、水の勢いには逆らえなかった。意識が遠くなり、目の前が真っ暗になった。

「意識を失う直前、なぜか急にシバコウが大量の水をぶっかけてきたんだよね?」

「それで大ちゃんが生き生きすると思ったからのう。じゃって、そうじゃろう?」

 ダイオウイカの大ちゃん、なんじゃから。


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