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完全に、僕がタップダンスを体得した頃、シバコウは神妙な顔つきで僕に問いかけてきた。
「のう、大ちゃん」
「どうしたの。シバコウ?」
眠い。眠たい。
タップダンスのやり過ぎだろうか。何度も、何度も僕は瞼を擦る。
「もし魔王を辞めて神様だけをやりたいのなら、今一度、考えを改めるべきかのう?」
「それはもう一度、生まれ変わりたいってこと?」
「うむ」
生物は寿命を全うした時、上の世界に行き、必ず神か魔王の世界に振り分けられる。
上の世界で使命を全うすると、また下の世界が待っている。それが永遠に繰り返される。
「どうして、そう思ったのさ?」
「うむ。最近の大ちゃんを見ているとなんとなくそう思ったんじゃ。ところで黄昏を噛みしめておるのかのう?」
刹那、廊下の一部が、ぶわん、と音を立て、階段を吐き出していた。
白い毛並みを整えたウサギが、宙に浮いた階段から悠然と降りてくる。
きなこだ。
「待つんじゃ。まだ、早いんじゃ!」
シバコウは僕に向けてではなく、きなこに対して叱るような口調で諫めていた。
「やっぱりそうだったんだね」
きなこは、銃を持っている。
僕の存在を確かめたきなこは真っ直ぐに銃口を、僕に向けた。
空中の階段から、廊下に着地する間、ずっと、だ。
「そろそろ、色々とお終いにしたいんだよ」
銃を持ったまま、きなこは僕にゆっくりと近づいてくる。
反射的に僕はきなこから、逃げようとした。
ただ。シバコウはその場から、頑として動こうとはしない。
黄昏を噛みしめるようにして、仁王立ちのシバコウは口を真一文字に結んでいた。
どうして。
少し前にきなことは話し合い、手紙を見せた。
あれで和解したと思っていたのに。
考えがまとまる前には、僕は踵を返して、シバコウを救おうとしている。
大きく目を見開いたきなこは、僕を見つめたまま、動かない。
モフモフの身体を抱きかかえ、その場から僕は全力で逃げようと、する。
「待つんじゃ!」
肩の上でジタバタとするシバコウの声を聞きながら、僕は来た道を全力で戻ろうとした。背後から、銃声が響き、僕は慌てる。
痛みは、感じなかった。
だが着実に、意識が遠のいていく。
急に目の前が、真っ暗になり、「大ちゃん!」と叫ぶシバコウの声が、遠くから聞こえた。
刹那、水が流れ込んできた。かと思うと、僕は一気に外へと流されていくような感覚を受けた。瞼が重たい。なかなか目が開かない。
荒れ狂う激流の中、僕はなんとか目を開けた。
モフモフの手が見え、必死にその手を掴もうとする。
だが、結局は水の勢いに逆らえず、途中で意識が遠くなり、目の前が真っ暗になった。
気がつくと、僕はグラウンドに立っている。




