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ズボンの埃を手で払った桜井先生は、教室をするりと辞していった。
しばらく、さつまいもチップスをシバコウが食べ終えるのを待ち、僕たちも廊下に出る。
「どうやったら階段が出てくるのさ?」
「大ちゃんもやってみんかい」
感情を繰り返し、身体で表現することで登場する「感情階段」なる装置をシバコウは神知学園に導入していた。
リエルがうんうん、と唸り、どうやって創り出したのかは、分からないが、とにかく、ぼん、と大きな音が鳴り、誕生したのが、この感情階段だった。
シバコウがそれをいたく気に入ったために、学園内にも正式に導入されていた。
感情階段は喜怒哀楽を込めた発言または行動を三度、繰り返すと、突然、目の前に階段が現れる優れものだった。移動先は幅広く、学校から大神殿や魔王城まで自由に行き来できる。
「ひゃっふーい」
シバコウの歓喜に反応した感情階段は、なぜか僕の言葉には反応しない。
「大ちゃん、階段に無視されておるわい」
それはそれは抱腹絶倒なご様子で、廊下を転げ回るシバコウを繰り返し、僕は何回も叱った。すると皮肉なことに、感情階段がぶわんと、現れている。
シバコウが立ち上がり、すっと真顔に戻る。
いつの間にか近くにいたリエルが蜜柑の皮をむき始めている。
「この廊下がどこまで続いているのか、走ってみるんじゃ」
四本足で駆け出していったシバコウの背中を、リエルは目を細めて、じっと見届けている。
「ねえ。リエルは統一神になりたいって思っているのかな?」
「思いませんねえ。大ちゃんさんとシバコウさんがいますからね」
「うーん。僕は、そうは思わないかな」
「それは、どうしてです?」
たまたまシバコウとのお遊びに付き合っていたおかげで、僕は統一神になったんだ。
そもそも機会さえあれば、すぐに下の世界に行きたかったんだよ。
素直に、リエルに打ち明ける。
「でも、それはただ自信がなかったから。違いますか?」
図星だった。
今も大参謀と評されるリエルの方が統一神に向いているとすら、僕は考えている。
「うーん。どうだろうね。とにかくリエルには念に関して手伝ってほしいことがあるんだ」
リエルであれば、僕の想像が及ばないような素晴らしい念の使い方を、きっと考案してくれるだろう。それに、と懸念する。
今の関係性のまま、シバコウと続けていれば、間違いなく、きなこを筆頭とする悪魔の大群がいずれ僕を狙ってくるだろう。包み隠さず、感情を吐露すると、リエルが僕の肩に乗り、「意外と、居心地がいいですね」と微笑んでくる。
「精一杯、お手伝いしますよ」
リエルの声色は、優しかった。
「うん、ありがとう」
身体が、重たい。
最近、神知学園のことで稼働しすぎたのかな、と勘ぐる。
常に、眠たい。
「大ちゃんさん。しんどそうですね?」
「ちょっと眠たいだけだよ。うとうとしている間に、悪魔に襲われちゃうかもね」
肩に乗ったリエルが、僕の前に顔を突き出してくる。
「悪魔に大ちゃんさんの命なんて、取らせませんよ。念を最も上手く扱えるのは、大ちゃんさんです。それだけは間違いありませんから」
「僕はそうは思わないけどなあ?」
「いやいや、ご謙遜を。それより念の使い道。こちらの案なんてどうでしょう?」
そこから発表されたリエルの案は、あまりにも大胆で奇抜なものだった。
その日、リエルと別れてから、僕は一枚の紙切れを手にしていた。
前途洋々な未来に向けて、念について。僕は、シバコウに手紙を書こうと思い至っている。




