表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
柴犬の名は、シバコウ。またの名を、ジョセフィーヌ  作者: 木村文彦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/40

29

 ズボンの埃を手で払った桜井先生は、教室をするりと辞していった。

 しばらく、さつまいもチップスをシバコウが食べ終えるのを待ち、僕たちも廊下に出る。

「どうやったら階段が出てくるのさ?」

「大ちゃんもやってみんかい」

 感情を繰り返し、身体で表現することで登場する「感情階段」なる装置をシバコウは神知学園に導入していた。

 リエルがうんうん、と唸り、どうやって創り出したのかは、分からないが、とにかく、ぼん、と大きな音が鳴り、誕生したのが、この感情階段だった。

 シバコウがそれをいたく気に入ったために、学園内にも正式に導入されていた。

 感情階段は喜怒哀楽を込めた発言または行動を三度、繰り返すと、突然、目の前に階段が現れる優れものだった。移動先は幅広く、学校から大神殿や魔王城まで自由に行き来できる。

「ひゃっふーい」

 シバコウの歓喜に反応した感情階段は、なぜか僕の言葉には反応しない。

「大ちゃん、階段に無視されておるわい」

 それはそれは抱腹絶倒なご様子で、廊下を転げ回るシバコウを繰り返し、僕は何回も叱った。すると皮肉なことに、感情階段がぶわんと、現れている。

 シバコウが立ち上がり、すっと真顔に戻る。

 いつの間にか近くにいたリエルが蜜柑の皮をむき始めている。

「この廊下がどこまで続いているのか、走ってみるんじゃ」

 四本足で駆け出していったシバコウの背中を、リエルは目を細めて、じっと見届けている。

「ねえ。リエルは統一神になりたいって思っているのかな?」

「思いませんねえ。大ちゃんさんとシバコウさんがいますからね」

「うーん。僕は、そうは思わないかな」

「それは、どうしてです?」

 たまたまシバコウとのお遊びに付き合っていたおかげで、僕は統一神になったんだ。

 そもそも機会さえあれば、すぐに下の世界に行きたかったんだよ。

 素直に、リエルに打ち明ける。

「でも、それはただ自信がなかったから。違いますか?」

 図星だった。

 今も大参謀と評されるリエルの方が統一神に向いているとすら、僕は考えている。

「うーん。どうだろうね。とにかくリエルには念に関して手伝ってほしいことがあるんだ」

 リエルであれば、僕の想像が及ばないような素晴らしい念の使い方を、きっと考案してくれるだろう。それに、と懸念する。

 今の関係性のまま、シバコウと続けていれば、間違いなく、きなこを筆頭とする悪魔の大群がいずれ僕を狙ってくるだろう。包み隠さず、感情を吐露すると、リエルが僕の肩に乗り、「意外と、居心地がいいですね」と微笑んでくる。

「精一杯、お手伝いしますよ」

 リエルの声色は、優しかった。

「うん、ありがとう」

 身体が、重たい。

 最近、神知学園のことで稼働しすぎたのかな、と勘ぐる。

 常に、眠たい。

「大ちゃんさん。しんどそうですね?」

「ちょっと眠たいだけだよ。うとうとしている間に、悪魔に襲われちゃうかもね」

 肩に乗ったリエルが、僕の前に顔を突き出してくる。

「悪魔に大ちゃんさんの命なんて、取らせませんよ。念を最も上手く扱えるのは、大ちゃんさんです。それだけは間違いありませんから」

「僕はそうは思わないけどなあ?」

「いやいや、ご謙遜を。それより念の使い道。こちらの案なんてどうでしょう?」

 そこから発表されたリエルの案は、あまりにも大胆で奇抜なものだった。

 その日、リエルと別れてから、僕は一枚の紙切れを手にしていた。

 前途洋々な未来に向けて、念について。僕は、シバコウに手紙を書こうと思い至っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ