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静かな日々が、急に終わりを告げていた。
しばらくの間、「魔王の仕事があるんじゃ」と、下の世界を偵察していたというシバコウは
「学校は最高じゃったよ」などと、我が家の要領で大神殿の扉を手際よく開けながら、感想を矢継ぎ早に述べてくる。
「そりゃあよかったね」
魔王を出迎えたのは、もちろん僕だ。
「うむ。いつかはあの学校なる建物をこっちにも造りたいのう。それで大ちゃん。いつになったら、神様のパートナーにしてくれるんじゃ?」
大神殿の中に入るなり、熱い抱擁をしてくるシバコウに僕は戸惑っていた。
「魔王である状態のまま、僕と神様のペアを組みたいの?」
「うむ」
「確認しよう。今の時点でシバコウは、魔王なんだよね?」
「うむ。またの名を、ジョセフィーヌ」
「魔王が神様にもなるの?」
「うむ。おそらく」「本当になれるの?」「しらん」
とにかく僕はシバコウと神様のペアになる、といった選択を保留しようとした。
誰かに相談しようとも思い、自らの意志をまとめ、水色の日記に想いを長文で綴る。
「あの。やっぱり僕は、下の世界に行きたいんですけど」
湖に赴いた僕は、統一神の引退が間近に迫る亀の大文殊様に進言していた。
「遂に、統一神の後継者が見つかった。長かったよ。ああ、新時代だ。魔王と統一神がペアになる。新時代だよ」
「統一神は、青梶が最適なんじゃ?」
「いや。魔王と仲睦まじい者が、次の統一神をやるべきだよ」
「だったら、リエルが」
「いやあ、新時代だよ」
完全に大文殊様は舞い上がっており、僕の反論に耳を持たない。
こうして僕は半ば、強制的に統一神となった。
茜やリエルが「おめでとう!」と賞賛してくれる中、案の定、青梶の逆鱗に触れていた。
話し合いがしたいと、大神殿の一階に連れて行かれる。
「大。ずっと統一神になるための策略として、あの柴犬と触れあっていたんだな。卑怯だぞ」
「いや。僕はまだシバコウとペアになるなんて言ってないよ?」
「大ちゃんとワシが組めば、最強じゃ!」
忘れ物を取りに大神殿に戻ってきたというシバコウは、僕と青梶による深刻な話し合いを、簡単にややこしくさせた。
仕方なく、一度、魔王を黙らすために、僕は一階の部屋にシバコウをぽいっと放り込み、強引に扉を閉めた。
「これでも魔王なんじゃよ。この待遇はあんまりじゃ!」
青梶との長い話し合いを終え、一階の部屋に戻ると、壁の隅で頭を垂れたシバコウが、ずっと愚痴を漏らしていた。とりあえず、長い木の机の真ん中に、シバコウをモフッと座らす。
「なんじゃ、大ちゃん! ワシは怒っているぞい!」
「これでも食べて、機嫌を直してよ」
ここで僕は大文殊様に教えてもらったばかりの力を使ってみた。
念。
口伝であったために、一度、本当に使えるのか確かめてみたかった。
柴犬が好物でありそうな一袋のさつまいもチップスを、眼前に出現させる。
「こんなもので、ワシの機嫌が……」
治った。尻尾をぶんぶんと振り、すぐに「もう一袋じゃ!」とシバコウは叫んでいる。
満足げな表情を浮かべた魔王が大神殿からいそいそと帰っていく姿をじっくりと見届け、
二階に戻る。青梶はどうか。機嫌は治っておらず、むしろ悪化していた。




