19
壁には、細やかな金細工の装飾が施されていた。
磨き抜かれた大理石が床には敷き詰められていて、その冷たい感触が心地よく、僕の足元をひんやりと包み込んできている。
前を見る。
「このままだと、大。俺が、統一神になりそうだな」
僕の対面の席では、青梶が胸を張っていた。
「おっ、食っちまうぞ?」
ドチグマが、青梶の隣にいる。
龍だと考慮すると、小ぶりだ。
「僕は統一神になれなくても、別にいいかな」とは、たしかに僕が言った。
「そういう優柔不断なところが、大を神の頂から遠ざけているんだぞ」
青梶やドチグマは、突然、大神殿に襲い掛かってきたという悪魔の一陣を追い払ったとして、その功績を周りから高く認められていた。
大神にまで、地位を上げていた。
それは僕の隣で、ゆったりと蜜柑を味わうリエルから教えてもらい、初めて知ったことだ。
「でも、大文殊様によると、前の世界の寿命がこっちの世界でも反映されるみたいなんだ。だったら尚更、僕が統一神なんてやるべきじゃないよ」
ここで、僕は気づいた。
僕だけど、僕じゃない。
まるで映画を見るような感覚で、僕はいつの日か、体験しただろう光景を眺めている。
俯瞰的に、僕は僕の視点から見知った仲間の意見を傾聴している。
本当に、念が発動したのだろうか。
「あのじじいの言うことなんて、気にするな。張り合いがねえな。それでじじいは、また欠席か?」
青梶が、蔑むような笑みを浮かべている。
青梶、ドチグマ、茜。それにリエル。
大神殿の二階で、全員が座っていた。
「青梶、ダメでしょ。統一神の大文殊様をじじいだなんて呼んだら」
「あんなのただの亀だろ」
「亀の大文殊様だからこそ、今、こうして穏やかな世界が保たれているんでしょ?」
茜が咎めている。統一神はご高齢であるため、定例会には出席していないらしかった。
僕がまだ、統一神でない。
喫緊の議題はとくにないようだった。
互いを褒め、時には罵り合い、基本的には笑い合う。
途中、ドンドンと外から扉が強く叩かれていたが、誰も応じようとはしない。
「青梶は口さえ悪くなければ、今からでも統一神になれると思うけどなあ」
「なんだ。茜、嫉妬か?」
「違うよ。不満だよ」
リエルは無我夢中で、蜜柑の皮を剥いていた。
また扉が、何度か叩かれた。
僕は、たしかに神知学園にいて、シバコウもしくはきなこによる銃撃により、命を落としたはずだった。で、あるのに、大神殿の二階で、僕は見知った顔と神の世界について、議論している。
「ここまでの総括として、大参謀の意見も聞きたいところだな」
淡々と、青梶がリエルを指差していた。
「みなさん、立派ですよ。大ちゃんさんは、誰もが認める逸材です。ただ、優柔不断なせいで、少し、青梶さんから遅れを取っていますが。青梶さんの豪胆ぶりにも目が離せませんね。総じて、みなさんすごいですよ」
「リエルはいつも的確な意見ばっかりを言うね。それで、私は?」
「茜さんは、食べっぷりがいいですね」
全員で笑い合った。
僕も、自然と声が出ている。
「大。お前に足りないのは、強い意志だぞ」
力強く、青梶に小突かれる。
だが、痛いという感覚は、現在の僕には皆無だった。
つまり本当に、僕は過去の映像をただ見ているだけなのだろう。
「青梶に足りないのは、きっと優しさだよねえ?」
「茜は、黙ってろ」
また、外からドンドンと、扉が叩く音が鳴った。
扉を叩き潰しても仕方ない、と高をくくったかのような破壊力のある音だった。
「なんだ?」
苛立ちを隠さないまま、青梶がようやく「入れ」とだけ反応し、外の者を招き入れた。
下の位の神が、切羽詰まったような表情で飛び込んでくる。
下の位の神だろう、とは、あまりに相手が慇懃な態度であるため、僕でも簡単に判別がついていた。
「魔王が単独で大神殿に乗り込んできました。どうしますか、大神様?」
目の色を変えた青梶が、すぐに勢いよく立ち上がる。
「魔王が単独で大神殿に来るなんてことがあるのか。分かった。すぐに、懲らしめにいく」
屈託のない笑みを浮かべた青梶はドチグマを引き連れ、すぐに大神殿の二階から飛び出していった。僕も慌てて、部屋から飛び出している。




