13
教室は、日に日に寂しくなっていった。
僕の顔見知りばかりになっており、それだけ多くの者が卒業になっていた。
休憩時間になり、僕はシバコウを引き連れて、廊下に出ていく。
「隙ありじゃ!」
勢いよく龍の背中に飛び乗ったシバコウが「遂に、夢が叶ったぞー」と雄叫びを上げている。呆れた顔になったドチグマが「興ざめだ」と吐き捨て、シバコウを振り落とそうと、必死に背中を揺らしていた。
「なんじゃ。もうちょっと背中に乗っていたかったのにのう。それより、大ちゃん。用があるんじゃ。ちょいと付き合ってくれんかのう」
青梶は教室に逃げるように戻っていったドチグマを追おうとはせず、胸の前に両腕を組んだまま、その場に突っ立っていた。険しい表情をしている。
いつになく廊下が、賑やかだ。
教室で見かけない人間や生き物がいた。
やはり他にもクラスがあるようだ。
混雑している。どこに、こんなに多くの人間や生き物が隠れていたのか。
それにどこか見覚えのある白いウサギの背中が、遠くから見えていた。
「これ、大ちゃん。待ちんしゃい!」
僕はシバコウを無視して、白いウサギを追いかけることにした。階段を使って一階へ下り、靴箱の前を通り、外のグラウンドに白いウサギは出ようとしている。
あれは、きなこではないのか。
「ほれ、無視をするな」
追いついてきたシバコウが短い足で、僕の頬にぎゅうぎゅうと押しつけてくる。
こちらに考える隙を、一秒たりとも与えてくれない。
ツンツン頭も遠くに見えている気がしていたが、シバコウの力が強く、僕はその場で立ち止まるしか、選択肢がなくなっている。
「分かったってば。シバコウの用は、またドロップキックの練習かな?」
「違うのう。アイスクリーム屋が無料キャンペーンをやっておるんじゃよ。さあ、並びに行こうかのう」
「アイスクリーム屋なんてあるの?」
「うむ。大ちゃん。早く、列に並んできてくれんかのう?」
シバコウに背を押され、仕方なく僕は二階に戻った。
廊下を移動し、掃除道具を眺め、本当に屋台を発見する。
既に、廊下を行き交う大勢の生き物と人間がアイスクリームのカップを手に持っていた。
「よっ、リエル殿。アイスクリームの味はどうかのう?」
人混みを掻き分け、シバコウが一目散に茜の肩に飛び乗っている。
「食べていませんよ?」
「なんじゃ、リエル殿。誤魔化しても、いかんぞい。アイスを手に持っておるじゃろうが」
「これはですねえ。茜さんがどうしても二つ食べたいというので、茜さんのお代わり用として持たされているんですよ」
「なるほどのう」
「こら、リエル。それは秘密って言ったでしょ?」
「やーい。茜殿は、食いしん坊」
「もう、うるさいなあ。シバコウもどうせアイスを一杯、食べるくせに」
「茜殿。ワシは適度にしか食べんぞい」
急に背筋を伸ばしたシバコウに「順番が来たよ」と僕は伝えた。
シバコウは自分が列に並びたくないがためだけに、僕に「用があるんじゃ」と、頬に、短い足を擦りつけてきていた。
ちょっと、気に入らない。
「アイスを四つ。至急、頼むぞい!」
「シバコウさんは、容赦がありませんね」
くすくすと、リエルが笑う。
「ほら。やっぱり私より、いっぱい食べるじゃんか」
茜も反論する。
「違うぞい。これがワシの適量なんじゃ」
堂々と胸を張るシバコウの前に、僕はさっと立ち、「これ、全部、人間用のアイスで」と小声で、桜井先生に伝える。
重々しい首肯を、もらう。
「あっ、そうじゃった。そうじゃった。もちろん、犬用のアイスがほしいんじゃ!」
「もう遅い。人間用のアイスが四つ分、できたぞ。ほら、茜が食え」
桜井先生はすぐに次の客を対応していた。
肩を落としたシバコウはその場で立ち竦み、膝から崩れ落ちている。
僕の口角が、自然と上がる。またシバコウの足が、僕の頬に押しつけられている。
「大ちゃん、策を練りおったな?」
「いやいや、そんなわけないじゃんか」
「ほほう。それが最期の言葉じゃな?」
シバコウの足の力が、強くなる。
「で、これ。私が食べるの?」
呆然としている茜ではなく、リエルが肩や頭を使って、器用に四つのカップアイスを同時に運んでいた。
「茜さん、この味はまだ食べていませんね。美味しそうですよ」
無言のまま、僕はシバコウの怒りが静まるのを待っている。
「こんにゃろめ。桜井先生との共犯じゃな? そこまで大ちゃんが無言を貫くなら、ワシのドロップキックが桜井先生に火を噴くぞい」
その場で永遠と駄々をこねるシバコウを押さえつけ、僕は桜井先生にシバコウの暴言を「すみません」と声に出して謝った。
手振りだけで、「もういい」のような反応を、桜井先生からされる。
結局、きなこは見つからず、シバコウの機嫌は、ずっと低空飛行のまま、永遠に暴言を吐かれるのか、と思われた。
ここで救世主が現れる。
「なんだ。これが欲しかったのか? やるよ」
ふと青梶がシバコウにアイスを渡していた。「一応、犬用だ」
「おお、これは、これは青梶殿。やはり持つべきはベストフレンドじゃな」
「友たちではないがな」
鼻を鳴らした青梶の近くで、ドチグマが湿っぽい息をしゅっと、漏らしている。
それを火だと勘違いしてしまったらしい。
シバコウが咄嗟に、二本の足を床から離した。
瞬く間に、アイスクリームがカップから溢れ、地に落ちていく。
断末魔のような叫びを、シバコウは繰り出し、また膝から崩れ落ちている。
それを見たドチグマが湿っぽい息をしゅっと、再度、漏らしている。
あれ、と僕は首を傾げた。
脳内に、一筋のきらめきを見いだしている。




