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柴犬の名は、シバコウ。またの名を、ジョセフィーヌ  作者: 木村文彦


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「シバコウが銃を持っているところを、どこで見たの?」

「廊下で、かな」

 よくシバコウはドロップキックの練習を目的として、休憩時間になるとすぐ隣の部屋に走っていった。その際、僕は教室の中でゆったりとしており、リエルですら、のっそりとシバコウから遅れて移動している時が、多い。

 つまり、この時だけは、シバコウが単独行動になる。

 その際、本当はすぐには隣の部屋に向かわず、廊下で銃を持ち、にやりとニヒルな笑みを浮かべ、シバコウは誰かの背中を追いかけているのではないか。

「一平はシバコウが銃を持っていることをどう思ってるの?」

「分からないよ。ただ、卒業生と銃にはどこか関係があるんじゃないかな、とは思う」

 すぐに僕は不穏な考えを払拭させようと、一平と一緒に隣の部屋まで移動していた。

 そこにシバコウの姿があり、僕は安堵する。

「弟子入りさせて下さい」

 シバコウに向かって、土下座をする白猫がいた。

 へりくだった態度を取っている。

「レオ、こんな所にいたんだね」

 慌てて一平が、レオに駆け寄っていく。ゆっくりと立ち上がり、当然のように仁王立ちになった白猫は毛並みが整っていて、清潔感がある。

 胸筋を突き出すようなレオの立ち振る舞いには、全身に自信が漲っていた。

「一平。今は修行中だから、帰ってくれ」

「レオ。僕は君のことが心配なんだよ」

「自助を、精一杯している。師匠との鍛錬も、その一つだ。一平のためにも、なる」

 ここでもう少し反論するのかと思いきや、「強く言われちゃったね」と頭を掻き、一平はあっさりとレオに屈して、教室へと戻っていった。どうしようかと逡巡はしたものの、僕はレオとシバコウの師弟関係が気になったので、その場に留まることにする。

「ドロップキックを教えて下さい、師匠」

「うむ。じゃが、道は険しいぞ」

「はい、それでも構いません」

「いいじゃろう。まずは、基本の型からじゃ」

 ドロップキックを習得したいのう。と、少し前に叫んでいたはずのシバコウが今や、その道を極めた達人のような立ち位置になっている。

「これ、レオよ。型の練習より先に、まずは大ちゃんに挨拶せんかい」

「おはようございます。少しばかり、師匠をお借りしています」

「うん。僕にとってシバコウは師匠じゃないから、いくらでも貸してあげるよ」

「その有り難きお言葉、胸に染み渡ります」

 レオはシバコウや僕に向かって、頭を下げ続けた。

「それでどうしてレオがシバコウの弟子になったのさ?」

「先日、レオから決闘を申し込まれてのう。そこでドロップキックをお見舞いしたんじゃ。完全勝利でのう。あれからずっと、レオはこの調子なんじゃよ」

「銃を使って脅したんじゃないの?」

「なんじゃ、大ちゃん。急に物騒なことを言いおって。常にワシは正々堂々、真剣勝負じゃ」

 本当かどうか、疑わしい。

 そこで僕は次の休憩時間を利用して、レオから詳しい事実を確認した。

 一平はどこかに行きたがっていたが、ペアである人間の手を華麗な動作で防ぎきり、レオは僕の質問にしっかりと目を見て、答えてくれる。

「その通りです。師匠には完敗でした」

 レオはシバコウが現れるまで、決闘を申し込んできた相手をみな簡単に、なぎ倒してきた

 のだという。

「その決闘を申し込んできた相手ってのは誰なの?」

「最初に決闘を申し込んできたのは、きなこさんですね。他にも、色々ありました。もちろ

 ん決闘で負けたのは、師匠が相手の時だけですが」

「決闘など、本当はもうやりたくないんだがのう」

 モフモフと、シバコウが近づいてきた。

「師匠はこの世界を統一して、頂に立たなければならないお方です」

「ん、そうかのう?」

「レオ。あんまり、シバコウを褒めないでくれよ。調子に乗るから」

「これ、大ちゃん。ワシは、お師匠ぞ」

 互いに二本足で、シバコウとレオが戯れている。

 これが四本足であれば、公園でよくある一幕のようだ。

「その決闘のことで、気になる話がありまして」

 レオの顔が引き締まったように見える。

「どうしたのさ?」

「以前、きなこさんが決闘の場で、銃を使用していたんです」



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