第1話の9 「ひょっとして、ドルコナ?」
うつぶせに倒れていた旅人が顔をむくりと上げました。
「やあ。久しぶり。ココっち」
その呼びかけに、ココットは『まさか?』と思いました。
「ひょっとして…」
ココットは鼻から息をするのを止め、再び旅人に近寄ると、その前でしゃがみこみました。
それでも鼻の奥にツ~ンとした刺激を感じました。
粗大ごみと間違えられそうな頭蓋骨のかぶりものを外して横に置き、汚れてバサバサに伸び切った前髪をちょっとだけつまんで、左右に広げました。
汚れたおでこと細い目が現れました。
「軍手をはめてて良かったですね」
その様子をユーリンが後ろから覗き込みながら、鼻声でそんなことを言いました。
「ひょっとして、ドルコナ? ドコちゃん?」
「正解!」
倒れたまま、旅人はココットを指さしました。
「指さすな。あと臭い」
ドルコナは人差し指を引っ込めると、『よっこいしょ』と、片手に持っていた丈夫そうな棒っきれを支えにして立ち上がりました。
そんなやり取りの最中、その傍らでは『ミゴーちゃん』はせっせとゴミを回収していきました。
監督員も一緒になって、ホイホイと作業が進んでいきます。
「ココットさん。『ミゴーちゃん』の作業が始まっちゃいましたから、取り敢えずいったん離れましょう。ここだと巻き込まれそうで危ないです」
ユーリンがココットの肩を軽くつつきながら声をかけると、ココットがそちらの方に振り向きました。
「ああ、そうね。ドコちゃん、話は移動をしてから…」
ばっくんちょっ!
再びドルコナの方を振り返った時、聞いたことのないような変な音がしたかと思うと、目の前にあったはずのドルコナの姿が消えていました。
「…え?」
ココットが見上げると、『ミゴーちゃん』に頭を食われたドルコナが、残りの胴体部分を干された洗濯物のように、全く力が抜けたようにプラ~ンとさせていました。
気を失ったのか、身体がピクリとも動く様子はありません。
左手に持っていた木の棒が手から離れ、カランと乾いた音を立てて地面に落ちました。
『ミゴーちゃん』は頭を一度上に向けると、一瞬だけ口を開け、その中へとドルコナの身体を落とし込みました。
ごっくん。
「食べられたーーーーーっ!!」
ユーリンが空に突き抜けるような声で叫びました。
その場にいた他の者たちからも、動揺する声があがりました。
「ドドドドドドドコちゃんっ!?」
びっくりして後ろにひっくり返りそうになったココットを、ユーリンは後ろから腕を回して、何とか身体が倒れるのを防ぎました。
「大丈夫ですかココットさんっ!!」
「こ、こ、腰が抜けちゃった…」
「気をしっかりっ! とにかく私たちも危ないので、ここから離れましょう。それと早くあの『ミゴーちゃん』を止めてくださいっ! 頼みましたよっ!!」
「『ミゴーちゃん』!?」
作業員のオーガは聞き返しましたが、ユーリンはそれには応えず、自分の身体を素早く反転させると、ココットと背中合わせになるように腕をからませました。
二人組で行う背筋を伸ばす体操のような格好です。
そして十字架に磔にされたような形になったココットを背負って、ユーリンは大急ぎでその場から駆け出して行きました。
「ひゃぁぁぁぁぁっ!?」
身体も声も裏返ったココットは、そのまま路面鉄道のように勢いよく運ばれていきました。
(つづく)




