第1話の10 「ひゃっほーっ!」
「早く助けないと、ドコちゃんがすり潰されちゃうっ!」
安全な距離まで離れた二人は、助けを求めました。
作業員のオーガの他、事態の知らせを聞いて駆けつけた他の作業員たちが飛びついて、動きを止めようと試みました。
しかし『ミゴーちゃん』は動きを止めることなく、その場に山積みになったゴミの山を、これまでよりも更に力強い動きで次々に飲み込んでいきました。
「何か、暴走してるよっ!? ヤバイヤバイヤバイ!?」
「このままだとさっきのかた、生ごみとマジャリンコして、シールみたいにペシャンコになっちゃいます!」
不思議な表現だったが、ユーリンの言いたいことはわかりました。
★
その時でした。
それまで暴走気味に稼働していた『ミゴーちゃん』が、ギリギリガリガリと、急に嫌な音を立ててきしみ始めました。
動きが鈍ってきたものの、管理者たちもその異変を見て、何か別のことで騒いでいるようでした。
「何だか『ミゴーちゃん』の様子が、いつもと違う感じになりましたね? あ~ゆ~音って、ほぼ間違いなく壊れるんですよ」
額のあたりに手のひらをかざし、日光をさえぎりながらユーリンは冷静にそんなことを言いました。
「ドコちゃん、大丈夫かしら…」
ココットは祈るように両手を合わせ、ことの次第を見守りました。
『ミゴーちゃん』は徐々に動きを鈍らせ、やがて最後には体中から水蒸気のような白い煙を吹き出し、完全に動きを止めました。
そしてごみ臭い異臭がその場に広がっていきました。
「と、止まった…の?」
ホッとして力が抜けてひっくり返りそうになったココットを、ユーリンがまた後ろから支えました。
「さっきのかた、大丈夫でしょうか・・・」
止まった『ミゴーちゃん』に管理の者たちが集まり、幾つか取り付けられている点検口を順番に開けて、呼びかけをして中の様子を確認しました。
ココットとユーリンの他、周りの者たちはかたずをのんで見守ります。
その時、まだ開けられていない首筋部分の点検口が、内側から勢いよく開かれました。
「誰か出てきましたっ!」
ユーリンが指をさした先には、のそのそと這い出して来る誰かの人影が見えました。
「よっこいしょっ」
人影はそのまま、その上に立ち上がりました。
見守っていた群衆から、何とも言えないどよめきが上がりました。
「ドコちゃんっ!?」
ココットは止まった『ミゴーちゃん』の近くに駆け寄っていきました。
「ひゃっほーっ! 大脱出成功~! ほら、みんな拍手拍手っ!!」
さっきよりもさらに汚く、臭くなったドルコナが、両手を広げて拍手を促しました。
よくわからない様子の群衆は、ぱらぱらと中途半端な拍手を送りました。
「ココっちも拍手拍手!」
ドルコナは、近くから見上げているココットにも同じことを促しました。
「『拍手拍手!』じゃないわよっ!! ちょっと、ここまで降りてきなさい!!」
安心したのか、ココットは自分の足元を指さしてドルコナをどやしつけました。
「ほ~い。よっと」
ドルコナは『ミゴーちゃん』の表面についている突起を掴んで、器用に降りてきました。
「はい。降りてきたよ?」
「さっきより、もっと臭くなってるっ!?」
ココットは『ぷ~ん』と漂ってきた異臭をパタパタと打ち消すように手を振り、もう片方の手で鼻をつまんで顔をしかめました。
ドルコナの身体からは、生ごみと体臭が混ざったような異臭が放たれていました。
「この世の物とは思えない臭いがしていますね…」
ユーリンもだいぶ距離を取って、二人のやり取りを見守っていました。
「いや~、旅の途中、路銀がつきちゃって、しばらくお風呂にも入れなかったからね~。やっぱ臭うか~。でへへへへ~」
悪びれる様子もなくそんなことを言って、ドルコナはさっき落とした丈夫そうな木の棒を拾い上げました。
「そんなことだから、生ごみと間違えられるのよっ!」
「あ~、やっぱり私、生ごみと間違えられたんだ~。旅の思い出がまた一つ増えちゃったよ~」
ドルコナは動じることなく、そんなことを言いました。
「お~、あんた。大丈夫だったか?」
作業員のオーガがドルコナに立ち寄ると、一瞬動きを止め、二歩ほど後ろに下がりました。
それを見てココットは、『この後、朝風呂だな』と呆れた目つきをしながら思いました。
「ところで、何でアレが止まったの? 急に故障したみたいに見えたんだけど?」
ココットは動かなくなった『ミゴーちゃん』を指さしました。
「あ~、アレね~。飲み込まれた後、中でコレをばらまいたんだよ。あの中は歯車だらけだったからね。歯車は連動しているはずから、どこかが止まれば全部が止まるんじゃないかなって」
ドルコナは腰に下げていた袋の一つをココットに手渡しました。
「ちょっ、重たいっ!? 何これ!?」
口元を緩めて覗くと、砂利に近い粒の大きな砂が入っていました。
「どこにでもあるような砂だけど、平原とか、荒野を歩いていると、さえぎるものがないから風がすごくってね。吹っ飛ばされないように重しとして、幾つか腰に下げているんだ。あと、川を渡るときとかもね。それでも何度も飛ばされたり、流されたりしたけど」
「そういうことか…。砂が混じると、歯車は動かなくなるからな」
作業員のオーガは納得したように呟きました。
「壊してしまって、悪かったね。弁償した方が良いのかな? お金、無いけど」
「いやいや、その必要はないし、こちらこそ誤って回収してしまった。管理ミスだった。ともかく事故にならなくて良かったが、大変申し訳なかった」
そう言ってドルコナに深々と頭を下げました。
「いえ、彼女は汚くて臭いし、臭くて汚いから、普通に機械が反応しただけです。むしろ正常に動作しています。気にしないでください」
顔では笑顔を作っていたが、ココットの顔にはドルコナに対するいら立ちが見られました。
「何か同じ言葉、繰り返してない?」
そんなつっこみを入れたドルコナの方をココットは振り返りました。
「と・も・か・く。積もる話は後にして、まずはその臭くて汚い身体、綺麗にしにいくわよっ!」
ココットは足を踏み鳴らし、力強く言い切ってドルコナを指さしたものの、心の中では『今日はお仕事、休まなくちゃなあ…』と、そんな心配をしていました。
(つづく)




