第1話の7 「あのかたは、例の旅人さんですね?」
翌日。
「ちょっと、頭がグルグルしてる…」
昨夜、ユーリンと飲んだお酒もあって、少し起きるのがつらかったのですが、どうにかココットは寝坊することなく起床しました。
いつものように手早く身なりを整えると、集合住宅の住人たちを起こして回りました。
それから大きな荷車に捨てるものを全部詰め込むと、みんなで集積場まで転がしていきました。
集積場には既にこの辺りの地区から集められた生ごみや、燃える廃品の数々が、ピラミッド状に積まれていました。
「ココットさん。おはようございます」
既に到着していたユーリンが迎えてくれました。
お酒に強いらしく、ココットよりも飲んでいたにも関わらず、いつも通りの様子でした。
彼女は臭いよけのために、三角巾を利用して、マスクのように口元を覆っていました。
実際、半分は自分の酒臭さを誤魔化すためでした。
「おはようございます。しばらく回収が無かったから、今日は随分と多いですね。それにしても、相変わらずすごい臭いですけど…」
ユーリンと違ってマスクを忘れたココットは、その悪臭に顔をゆがめました。
「さあ、早く下ろしてしまいましょう」
ココットの号令で、アパートの住人たちの手で、手早く荷物を下ろし終えました。
少しだけ、ゴミのピラミッドが大きくなりました。
「ごくろうさまでした」
ココットをその場に残し、他の住人たちは荷車を引いて戻っていきました。
「相変わらずたくさんありますね~」
「古いものを大切にするって言っても、さすがに生ものや壊れ物はね。こればっかりは」
ユーリンとココットは二人並んで、だいぶ積み上げられた本日の廃棄物を見上げました。
二人並ぶと、ユーリンの方が頭二つ分ほど高くなっていました。
★
不意に、反対側の方で何か動揺するような声が上がりました。
「ん? 何かあったのかしら?」
「何でしょうかねえ…」
二人は向こう側に回り込みました。
見ればゴミの山の一角が盛り上がり、内側から外側に向かって、次々と廃棄物が落とされていきました。
「ちょっ、危なっ!?」
危うくココットの方に落ちてきそうになり、慌てて飛びのきました。
「よっこいしょ。ふう。やっと出られた」
中から這い出してきたのは、頭に頭蓋骨をかぶった旅人でした。
ボロ布のようなマントを羽織り、大きく膨らんだリュックを背負い、左手には杖代わりの丈夫そうな木の棒を携えていました。
小柄な体型だったが、旅人らしいたくましさも感じられました。
「あら? あのかたは、例の旅人さんですね? 何でゴミの中から出てきたのでしょうか?」
ユーリンは小首をかしげました。
ココットは、『まさか本当にゴミと間違えられたんじゃ』と思ったが、口には出しませんでした。
旅人はそのまま頂上までよじ上ると、そこに立ってぐるりと一周、身体をそうっと回しました。
それから。
「ここに、『ココット』と名乗る女性はいないかね? アタシと同じ、ドワーフ族だ。年齢はアタシと同じくらいだけど」
「汚ね~から、あんたの顔がわからんぞっ!」
どこからか、誰かのヤジが飛びました。
「そりゃ、そうかっ! でへへへへ~」
その旅人は、頭にかぶった頭蓋骨を、こつんと叩きました。
(つづく)




