第1話の5 「お母さんと呼ばないで~」
お風呂上りの二人は火照った体のまま外へ出ました。
「この時期、夜風が気持ちい~ですね~」
ユーリンは少し胸元を広げて夜風を迎え入れました。
金髪がふわりと夜の風になびきました。
いつ見ても綺麗な髪であったが、エルフの金髪は羨ましいと、常日頃ココットは思っていました。
「ホント。火照った身体がス~ッとしていくこの感覚がたまらないわ~」
ココットも同じく少し胸元を広げて、夜風を迎え入れました。
「けど、段々と寒くなってきますから、ほどほどにしないと湯冷めしちゃいますね」
「そうだね~。この時期のこの時間帯だけの特別な夜風かな~」
そんなことを話しながら、二人は大衆浴場を後にしました。
★
日が暮れて、宵闇の町を二人で歩いています。
町の空には、星がぽつりぽつりと星が輝き始めました。
腹の底をくすぐるような酒と料理の香りが漂い、今日の仕事を終えた労働者たちが、ささやかな宴を始めようと、賑わい始めていました。
「あっ、そう言えば明日は『ミゴーちゃん』の日ですね! ちゃんと時間までに回収場所に出しておかないといけません。あれ、意外と朝が早いから、ちょっと大変ですけれど」
ココットは『ミゴーちゃん』と聞いて、一瞬頭の中で、グルグルと検索しました。
「…あ~、そう言えば『廃棄物回収用機械獣』の日でしたっけ。燃やすゴミ?」
ココットは自分を納得させるかのように、わざわざ言い直しました。
「そうですそうです。いつもながら、何時ごろに回収に来るかわからないから、早めに集積場に出しておかないと」
ユーリンはコクコクと二回頷くと、ふわりとした金髪の髪の毛から、良い香りが漂ってきました。
「私の方はアパートにたまったやつ、またみんなでゴミ出しに行かないとな~。けど毎回、事前に私が声かけしないといけなくてね…。普段から率先してやって欲しいものだわ」
ココットは面倒くさそうに息を吐きだしました。
「何だかココットさん。みんなのお母さんみたいですね」
「お母さんと呼ばないで~」
ココットは否定するようにかぶりを振りました。
毎度のこと、ココットが家主と店子を起こして回り、みんなで大きな荷車を、押して引っ張って、集積場に向かうのが通例でした。
金属やガラス製品など、燃えないゴミ以外の不用品はこの時にまとめて出すのですが、結構不定期的で行われており、今回も知らせがあったのは三日ほど前。
前回から半月以上のインターバルがありましたが、それは回収したゴミ類の処理が終わっていなかったからです。
なのでその日が来るまで溜まりに溜まった生ごみが、季節によってはとんでもない悪臭を放つことなども、稀にありました。
ココットはそれが苦手でしたが、この町の風習と自分を納得させていました。
「もしかしたら頭蓋骨をかぶった変な旅人さん、汚くて臭かったから、うっかり生ごみと間違えられて回収されちゃうかも知れませんね~♪」
ユーリンはやけに楽しそうな口調で言いました。
「え~と、まあ、そんなことになったら、色んな意味で大変なことになっちゃいますけど…」
ココットはそこで言葉を切ったが、心の中では『ありえるかも』と続けていました。
この『廃棄物回収用機械獣』が、どのような仕組みで動いているのかは秘密にされていましたが、今のところ人を襲う事故は起こったことがありません。
少なくとも今日というこの日までは。
(つづく)




