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ボロマチ見聞録  作者: 篩獅師(ふるいしし)
【第1話 ココットとドルコナ】

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第1話の4 「何アレ…」

 その日、仕事や買い物など、行く先々でココットは同じ話を聞かされました。

 概ねココットを探している者がいることは同じでしたが、どの話も又聞きばかりで、出所はよくわからないままでした。

 詳しい特徴や性別、足取りなど、確かなものは何もありません。

 フォーマルな姿をしていると言うものもいれば、小汚い姿をしていると言うものもいました。

 ドワーフよりも背丈が低いと言うものもいれば、エルフよりも背丈が高いというものもいました。

 丁寧な口調で話すと言うものもいれば、どこか地方のなまりで話すものもいました。

 性別は男性、女性、どちらとも言えないとも。

 その他、ココットの耳に入る情報はどれも曖昧ではっきりとしませんでした。


「みんなで伝言ゲームでもしてるのかしら?」


 すっかり住み慣れたボロマチの町並みを歩きつつ、ココットは行き交う人々の姿をついチラチラ見やってしまいました。

 ドワーフが多く目につくのはもちろんのことだが、人間やエルフ、それ以外の亜人系や獣人系の種族の姿も珍しくありません。

 けれど、自分を探しているような雰囲気の誰かは見当たらなかったのです。

 そんな中、市場で食材や生活雑貨の買い物をしていると、少し離れたところにいる小汚い旅人風の人物の姿が目に入りました。

 頭に何か、角のある獣の頭蓋骨のようなものをかぶっているので、反射的に目に留まったのでした。

 出店の主人と身振り手振りで、何やら交渉をしている様子でした。


「何アレ…」


 無意識のうちに、ココットは顔を歪めました。

 その姿が不潔そうに見えたので、ココットは本能的にその場から足早に遠ざかっていきました。


 ★


 日が暮れる前に帰宅したココットは、軽装に着替えると、お風呂道具を抱えて近くの大衆浴場へ向かいました。

 混雑する前に入浴を済ませたいのです。

 まだ殆どの人が仕事を終える時間ではなかったため、大衆浴場の客はまばらでした。


「大人一人、お願いします」


 受付カウンターで係の者に入浴料を払うと、ココットは女性用の浴場へ向かいました。


 ★


 頭からつま先まで、しっかりと綺麗に身体を洗ってから、ココットはようやく大きな湯船につかりました。

 まだ湯も透き通り、湯煙もあまり立っていない時間帯。

 数人の気配は感じるのですが、殆ど貸し切り風呂でした。


「ふい~」


 肩までつかって、浮力で身体が軽くなったところで、ココットは変な声を上げました。

 今日一日の疲れが、身体から溶けだしていくかのようでした。

 頭を風呂釜の縁に載せ、身体を少しだけ広げて、クラゲのようにゆらゆらと身を任せました。


「あ~、楽ちん楽ちん~♪」


「ココットさん。こんにちは」


 不意に湯船の端の方から声をかけられたかと思うと、す~っと殆ど波も立てずにココットの隣に寄ってきました。


「ユーリンさん。こんにちは。今日は早いんですね」


 ココットは湯船に漂う自分の身体をただしました。


「ええ。お店の方は午前中で閉めちゃったので、今日は早めにお湯をいただいちゃいました」

「自由な働き方で羨ましいです」


「いやいや、そんなことないですよ~。単なる気まぐれなだけですって~」


 ユーリンと呼ばれたその女性は、この町で古書店を営む森エルフでした。

 全体的にほっそりとして、出会う前にココットがイメージとしていた『巨乳』ではなかったのですが、背丈の方はココットよりもだいぶありました。

 こげ茶色の大きな瞳に、色白の綺麗な肌、そして長い金髪を今は頭の上で上手にまとめています。

 普段の彼女の姿は、どこから見ても映え、ドワーフのココットはそれが羨ましく感じていました。


「そう言えばココットさん。さっきここまで来る途中におかしな頭蓋骨を頭に載せた旅人さんっぽいかたとすれ違ったんです」


「あっ、それ、私も市場で見かけましたよ」


「何だか身なりがボロボロで、太い杖に身体を預けながら、よろよろ歩いていたから、一瞬ゾンビさんかと思っちゃいました」


「…アハハ。まあ、ゾンビはともかく、ちょっと怪しくは見えたけど…」


 ココットは『それに臭そうだったし』と思いました。


「注目の的になっていましたけど、だいぶ臭っていたからみんな距離を取っていました。私も早く気づけば、こちらから五十メートルは避けたのに。お陰で鼻がひんまがるかと思いましたよ」


 ユーリンは、自分の高い鼻を少しつまみました。


「…やっぱりそうなんだ…」


 ココットは何とも言えない中途半端な笑顔を見せました。


(つづく)

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