第2話の7 「わからずに今まで喋ってたんですかっ!?」
「ところでドルコナさん。物は相談なのですが、良かったらこの他所の地域の貨幣、全て私に買い取らせていただけませんか?」
「あなたが? それは別に構わんけど…」
ドルコナが見回した店舗の中は、その殆どが本棚に並べられた古書。
さっき上った二階もそんな感じでしたが、吹き抜けになっている分、スペースはあまりありませんでした。
「うちで扱っているものの殆どは古書ですけれど、ちょっとした小物も置いてあるんです。これらの貨幣の中にはデザインが良いものもありますし、好事家さんたちも時々顔を見せますから、ひょっとして売れるんじゃないかなと。あっ、もちろん、足元を見るつもりはありません」
そう言われて、ドルコナは自分の足元を見ました。
「あなたと違って、アタシやココットは足が短いからね。見るほどの足は無いよ」
「面白いことを言いますね。まあ、足が短いのはともかくとして、ちゃんと秤と分銅を使って、ドルコナさんの見ている前で計測して、適正なお値段で引き取らせていただきます。鋳造工場に売り払うよりも、幾分色をつけられるかと。それにその大きな金貨は、個人的に欲しいので、同じ重さの金貨と交換でどうでしょうか?」
ユーリンは祈るように両手を組み、少し身を縮ませ、上目遣いにドルコナを見ました。
ドルコナはちょっとの間だけ目をつぶり、また開きました。
「わかった。それでお願いしたい。ココットにも随分負担させたから、少しでも返したいんだ」
「なるほど、そうでしたか…」
話がまとまったところで、ユーリンは空いた食器を持って、いったん奥へ下がりました。
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言った通り、ユーリンはドルコナの目の前で査定をしてくれました。
天秤に分銅とこの辺りの通貨を載せ、何やらにらめっこするような顔付きでバランスを取っています。
その間、ドルコナは一人黙々と、新たに用意されたお茶と焼き菓子をいただきました。
「あっ、査定からお茶代をさっぴくことはしないので、全部どうぞ」
ドルコナの方を見ずに、またそんなことを言いました。
「お~、太っ腹~。コーヒーもお菓子も美味しいから、古書店喫茶みたいなこともすればいいのに。そしたらアタシとココットで常連になるよ?」
半分冗談でそう言われたユーリンでしたが、ふと査定する動きを止め、ドルコナの方を少し大きく目を開いて見つめました。
ですがそれから直ぐにまた査定に戻りました。
ドルコナは『何か悪いことでも言ったかな?』と首をひねりつつ、お茶と焼き菓子を食べ続けました。
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三十分ほど経って全部の査定が終わり、買取の形で換金が行われました。
「ありがとう。これでようやく無一文から脱したよ。路銀にはまだ足りないから、この町で何か仕事をしないといけないけど」
「内訳のうち、よその金貨は同じ重さのここの金貨で等価交換。ぴったりとはいかないので、端数はおまけしておきました。残りのよその銀貨と銅貨はここの銀貨と銅貨で、六割程度の交換としています。半分にはしませんでしたけど、さすがに七割八割は、私もきついので…」
身を縮めて、申し訳なさそうにユーリンは言いました。
「うん。それは理解している。どうもありがとう」
ドルコナはもう一度、ユーリンに礼を言いました。
自分の目の前に、賭け事のチップのように積まれた金貨・銀貨・銅貨を一瞥してから、ドルコナは革袋にしまいこみました。
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「そういやこの『ボロマチ』って、古いものが色々と売り買いされているような町なんでしょ? さっきの蚤の市みたいなところ以外にも、色んなお店があるのかな?」
「そうですね…。私は古書店の経営ですけど、他に何らかの古道具屋さんもあれば、古着屋さんもありますし。こうした使い古しの貨幣や古切手とか、好事家さん向けのお店も色々とあります。あと何でしょうか…。珍しいところでは、古音盤屋さんなんかもありますね。最近、音盤がちょっとしたブームですから、わざわざ遠路はるばるここまで買いに来る強者も多いとか。需要が高まっちゃったんで、中古でもむしろ高値になっちゃいましたけど。もっと高いのはそれを再生するための蓄音機ですね。作ったり、修理する職人さんが少ないとかで、中々手に入らないみたいです」
そんなことをユーリンは結構詳しく説明してくれました。
「ココットが休みの日にでも、案内してもらおうかな。ここに来てから、部屋とお風呂の往復ばかりだったし」
「そうでしたか。どうりでお風呂でしか見かけないと思いました。いつも『ととのい椅子』でくつろがれているから、声はかけませんでしたけど」
「…あ~! そこであなたを見かけたんだ! ようやく思い出したよ! ココットが話しかけていたっけ」
ドルコナはようやく納得しました。
「わからずに今まで喋ってたんですかっ!?」
「まあ、長年旅人をやっていると、昔からの知り合いのように話せるようになるんだよね~」
ドルコナはそんなことを言いました。
(つづく)




