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ボロマチ見聞録  作者: 篩獅師(ふるいしし)
【第2話 ユーリンと紙の精霊】

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第2話の7 「わからずに今まで喋ってたんですかっ!?」

「ところでドルコナさん。物は相談なのですが、良かったらこの他所の地域の貨幣、全て私に買い取らせていただけませんか?」


「あなたが? それは別に構わんけど…」


 ドルコナが見回した店舗の中は、その殆どが本棚に並べられた古書。

 さっき上った二階もそんな感じでしたが、吹き抜けになっている分、スペースはあまりありませんでした。


「うちで扱っているものの殆どは古書ですけれど、ちょっとした小物も置いてあるんです。これらの貨幣の中にはデザインが良いものもありますし、好事家さんたちも時々顔を見せますから、ひょっとして売れるんじゃないかなと。あっ、もちろん、足元を見るつもりはありません」


 そう言われて、ドルコナは自分の足元を見ました。


「あなたと違って、アタシやココットは足が短いからね。見るほどの足は無いよ」


「面白いことを言いますね。まあ、足が短いのはともかくとして、ちゃんと秤と分銅を使って、ドルコナさんの見ている前で計測して、適正なお値段で引き取らせていただきます。鋳造工場に売り払うよりも、幾分色をつけられるかと。それにその大きな金貨は、個人的に欲しいので、同じ重さの金貨と交換でどうでしょうか?」


 ユーリンは祈るように両手を組み、少し身を縮ませ、上目遣いにドルコナを見ました。

 ドルコナはちょっとの間だけ目をつぶり、また開きました。


「わかった。それでお願いしたい。ココットにも随分負担させたから、少しでも返したいんだ」


「なるほど、そうでしたか…」


 話がまとまったところで、ユーリンは空いた食器を持って、いったん奥へ下がりました。


 ★


 言った通り、ユーリンはドルコナの目の前で査定をしてくれました。

 天秤に分銅とこの辺りの通貨を載せ、何やらにらめっこするような顔付きでバランスを取っています。

 その間、ドルコナは一人黙々と、新たに用意されたお茶と焼き菓子をいただきました。


「あっ、査定からお茶代をさっぴくことはしないので、全部どうぞ」


 ドルコナの方を見ずに、またそんなことを言いました。


「お~、太っ腹~。コーヒーもお菓子も美味しいから、古書店喫茶みたいなこともすればいいのに。そしたらアタシとココットで常連になるよ?」


 半分冗談でそう言われたユーリンでしたが、ふと査定する動きを止め、ドルコナの方を少し大きく目を開いて見つめました。

 ですがそれから直ぐにまた査定に戻りました。

 ドルコナは『何か悪いことでも言ったかな?』と首をひねりつつ、お茶と焼き菓子を食べ続けました。


 ★


 三十分ほど経って全部の査定が終わり、買取の形で換金が行われました。


「ありがとう。これでようやく無一文から脱したよ。路銀にはまだ足りないから、この町で何か仕事をしないといけないけど」


「内訳のうち、よその金貨は同じ重さのここの金貨で等価交換。ぴったりとはいかないので、端数はおまけしておきました。残りのよその銀貨と銅貨はここの銀貨と銅貨で、六割程度の交換としています。半分にはしませんでしたけど、さすがに七割八割は、私もきついので…」


 身を縮めて、申し訳なさそうにユーリンは言いました。


「うん。それは理解している。どうもありがとう」


 ドルコナはもう一度、ユーリンに礼を言いました。

 自分の目の前に、賭け事のチップのように積まれた金貨・銀貨・銅貨を一瞥してから、ドルコナは革袋にしまいこみました。


 ★


「そういやこの『ボロマチ』って、古いものが色々と売り買いされているような町なんでしょ? さっきの蚤の市みたいなところ以外にも、色んなお店があるのかな?」


「そうですね…。私は古書店の経営ですけど、他に何らかの古道具屋さんもあれば、古着屋さんもありますし。こうした使い古しの貨幣や古切手とか、好事家さん向けのお店も色々とあります。あと何でしょうか…。珍しいところでは、古音盤屋さんなんかもありますね。最近、音盤がちょっとしたブームですから、わざわざ遠路はるばるここまで買いに来る強者も多いとか。需要が高まっちゃったんで、中古でもむしろ高値になっちゃいましたけど。もっと高いのはそれを再生するための蓄音機ですね。作ったり、修理する職人さんが少ないとかで、中々手に入らないみたいです」


 そんなことをユーリンは結構詳しく説明してくれました。


「ココットが休みの日にでも、案内してもらおうかな。ここに来てから、部屋とお風呂の往復ばかりだったし」


「そうでしたか。どうりでお風呂でしか見かけないと思いました。いつも『ととのい椅子』でくつろがれているから、声はかけませんでしたけど」


「…あ~! そこであなたを見かけたんだ! ようやく思い出したよ! ココットが話しかけていたっけ」


 ドルコナはようやく納得しました。


「わからずに今まで喋ってたんですかっ!?」


「まあ、長年旅人をやっていると、昔からの知り合いのように話せるようになるんだよね~」


 ドルコナはそんなことを言いました。 


(つづく)

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