第2話の5 「それじゃ、お邪魔します」
やってきたのはユーリンが経営している古書店。
看板を見上げると、そこには『紙乃魚堂』と書かれた看板がかかっていました。
両側の建物にギュッと挟まれるように、幅が小さく、ちょっと古い建物でした。
奥行きがどれほどあるのかは、正面からではわかりません。
「ホントは裏口があるんですけど、大きくまわらなくちゃいけないので。こちらから開けますね」
ユーリンは鍵の束から一つを選んで、店の正面口の鍵を開けました。
「エルフさんだったら、魔法でロックするもんだと思っていた」
「えへへ~。さっきもちょっと言いましたけど、私、魔法の勉強をさぼっていたんで、得意ではないんです。ロックくらいは出来ますけど、たまにやらかすから、普通に鍵をかけた方が防犯になるんですよ。さあ、どうぞお入りください」
ドアマンのように扉を開け、ドルコナを迎えるように先に中へと促しました。
「それじゃ、お邪魔します」
ボボガガの店で買った荷物を持ってくれたドルコナが先に入った後で、ユーリンはカートを引っ張って中に入りました。
★
中に入ってすぐのところは、二階の天井まで、がらんとした吹き抜けになっていました。
その二階までは一度直角に折れ曲がる階段が続いています。
一階の壁面には古い書棚が並び、そこには何冊もの古い書物が収まっていました。
二階に何があるのかは、下から見ただけではわからなかったのですが、『同じような感じなのだろう』とドルコナは思いました。
「荷物は適当に、床の隅にでも置いておいていただければ大丈夫です。今、お茶を淹れてきますね。椅子に座っていてください。あっ、お店の中を見ていただいても構いません」
古書を積んだカートを隅に停めると、ユーリンは店の奥へと消えました。
「おかまいなく~」
軽く手を振って、ドルコナはユーリンを見送りました。
★
ドルコナはユーリンが置いたカートの横に、運んできた品々を丁寧に置きました。
それから丸テーブルとセットになっている椅子に座って、一つ息を吐きだしました。
「あっ、そういや私、貨幣をどうにかしたかったんだっけ」
ようやくそこで、今日の目的を思い出し、手持ちの少し大きな腰袋から、他所の硬貨を何枚か引っ張り出しました。
「金貨なんかは、『金』としてでも売れそうだけど、他はどうかな? 換金すら出来ないかも。何かちょっとした仕事でもして、お金を稼ぐか…」
などと、腕組みをしながら考えていると、ふよふよと何かが目の前を横切りました。
「ん? 何だこれ」
思わずより目になって焦点を合わせると、それは色のついた紙で作った魚でした。
辺りを見れば、他にも色紙で作った様々な形の小さな魚たちが、空中をゆらゆらと泳いでいました。
中にはイカやタコ、カメやカニらしきものもいました。
ユーリンは何も言いませんでしたが、ドルコナも今まで気づきませんでした。
「こいつは魔法で動かしているのかな? そういやこの店の名前、『紙乃魚堂』だったっけ。こういうことか」
そんなふうに自己完結していると、ふと、ドルコナは高いところまで届きそうな長いはたきを見つけました。
「こんなはたきがあるのか」
壁に立てかけてあったはたきを取り、適当な書棚のほこりをはたいてみました。
背の低いドルコナだと、書棚の上まで届きませんでしたが、比較的背の高いユーリンであれば、難なく使えそうでした。
その他、荷造り用の紐や、幾つかの小道具も見つけました。
お店で使っているもののようでした。
ドルコナはそれらをじっと見つめて、何かを考えているような表情を見せました。
「暇つぶしにちょいと借りるか」
アイディアが出たのか、それらを借りて何かを作り始めました。
★
しばらくした後に奥の扉が開いて、お盆の上にお茶とお菓子を載せたユーリンが戻ってきました。
「ドルコナさん、お待たせしました~♪ あれ?」
一階部分にドルコナの姿が見当たりません。
店内を見回していると、吹き抜けの二階部分から紐が垂れているのが目に入りました。
「あの紐は何でしょうか?」
お盆を丸いテーブルに置いてから、ユーリンが近づこうとしたその時、紐の先についていた何かに紙の魚が食いつきました。
「かかったっ!」
ドルコナの声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には一気に引っ張りあげられました。
「釣れたぞっ!」
「釣らないでください!」
間髪入れず、ユーリンのつっこみが入りました。
二階の欄干部分から即席で作った釣り竿で、ドルコナは魚釣りをしていたのでした。
(つづく)




