第2話の3 「まあ、色んなところを旅したからね」
「どんどんいっちまおう。三つめは古い読書灯。持ち主の魔力を込めて使うそうなんだが、魔術の使えないあっしにはわかんない。話によれば、魔力を込めてから手を叩くと、ぼわっとした明かりが灯るとか、どうとか。ひょっとしたら姐さんだったら出来るかもって」
「魔力を込めるんですか? う~ん。私、実は魔術の学習をさぼっていたから、今でもあまり得意じゃないですけど…」
ユーリンは試しに手をかざし、取り敢えず魔力を少し込めてから、柏手のように手を叩いてみたのですが、何も反応を見せませんでした。
「うまくつきませんね」
取り敢えずまたござの上に置きました。
ドルコナが手に取り、まじまじと観察しました。
「油を入れて、火を灯す構造じゃないから、確かに普通のランプじゃないと思う。底の裏から何か入れられるようになっているから、魔法石みたいなのを入れた上で、使うものなんじゃないの?」
ドルコナが底の裏側を開いて見せて、そんなことを言いました。
「なるほど。きっとそうですね。でも、良くご存じで?」
「まあ、色んなところを旅したからね。魔法使いや魔法の道具も、何度かお目にかかった。詳しいわけじゃないけど」
ドルコナは持っていたランプをござの上に戻しました。
★
「あとは…、その魔術師が持っていたっていう手紙の束だね。買ったというより、仕入れた荷物の底に一緒にたくさん入っていたんだ」
「へ~、そんなもんまで売りに出るんだ~。そのうち、アタシがココットに出した手紙も、こうして売りに出されるのかも知れないな~」
そんなことをドルコナは言いました。
「誰かの手紙も、一つの作品として読む人がいるんですよ。意外と需要はありますよ」
ユーリンがそう話してくれました。
「あっしは姐さんみたいに教養が無いんで、殆ど読めなかった。姐さんだったら、読めるんじゃないかなって」
束ねられた手紙の一部を受け取り、ユーリンは紐を解いて、ちょっと広げてみました。
「どれどれ。そうですね…。読めなくはないですが、一部、にじんでいたり、あとは強い癖字もあるので、スラスラとはいかないです。でもうちのお店は古い手紙を集める収集家の方も来られるので、まとめて買ってくれると思います。見てみます?」
「うん」
今度は下に置かず、直接ドルコナに手渡しました。
「アタシにはさっぱりわからないけど、一番多く出てくる名前が、恐らくその魔術師さんの名前だね。あっ、でも、紙の匂いが何か良いな。香料のような香りがする。癖になりそう」
「どれどれ? あっ、ホントですね。気づきませんでした」
二人は鼻を寄せ合って、スンスンと紙の匂いを嗅ぎました。
何だか不思議な光景でした。
★
「一応、魔術師から流れてきたって品はそれくらいで、あとは適当に仕入れた出所不明のものばかりなんだ。面白そうなものは無いと思うけど…」
ユーリンはござの上に並べられた他の品々を、視線を動かして確認しました。
「あっ、あれ! あの丸いお魚さんっ!」
ユーリンは後ろの方に置いてあった提灯のように大きく膨れた魚を指さしました。
「ああ、あれかい? あれはお菓子箱か、何かみたいだが…」
ボボガガはユーリンに、全体的にまん丸い木製の魚を差し出しました。
背びれの部分に取り外し可能な蓋があり、背びれがつまみにもなっています。
蓋を開けると、中はぽっかりとした空洞で、どうやら木材をくりぬいて造られているようでした。
重たくも軽くもなく、外側は一匹の魚の姿が丁寧に彫られていました。
「何だか愛嬌があるね~」
ドルコナも横から覗いてみました。
「お魚の種類はわかりませんけれど、これくらい大きいとお菓子箱に使えそうです」
ユーリンが拳を握って突っ込むと、かなりの余裕をもってすっぽりと入ってしまいました。
「たっぷりお菓子が入りそうです」
ユーリンは満足そうに木製の魚を軽く撫でまわしました。
(つづく)




