第2話の2 「魔術師の曰くつき?」
オークの露天商はボボガガと名乗りました。
普段はこうして定期的に開かれる蚤の市で店を開くほか、幾つかの仕事を掛け持ちしているとのこと。
せっかくなので、ドルコナは適当な世間話をしながら、一つ一つ品物を見せてもらいました。
その多くは小物で、使い古されたものだったが、質は悪くなさそうでした。
そんなことをしていると、ボボガガが立ち上がりました。
「お~いっ! ユーリンの姐さ~ん!」
さっきよりも大きな声を上げて、ブンブンと手を振りました。
それに気づいたユーリンは、にこやかな笑顔で軽く手を振り、こちらへやってきました。
引っ張っているカートには、既にどこかで手に入れたのか、古書が束ねられていました。
「あら? ココットさんのお友だちの?」
意外な場所でドルコナの姿を見つけて、ちょっと驚いたような反応を見せました。
一方ドルコナの方は、ユーリンのことがちょっと思い出せずにいましたが、ココットの名前が出てきたので、どこかで自分のことを見られたのだろうと思いました。
実際、あの騒動の時にしっかりと見られていましたが、ドルコナはココットに目が行っていたので、記憶が曖昧でした。
「アタシはドルコナ。今はココットの部屋に泊めてもらっているんだ。よろしくエルフさん」
「そうでしたか。私はユーリンです。ココットさんには日ごろから懇意にしていただいています。よろしくです」
お互いに軽く挨拶をしました。
一人おいてけぼりにされたオークの露天商は、どうにも居心地が悪い感じがしていました。
それを見てのことなのか、ユーリンは彼の方へ身体を向けると…。
「こんにちは。ボボガガさん。今日は何か良さそうなものは入っていますか?」
ユーリンは作り笑いではないそのままの笑顔を向けました。
ボボガガと呼ばれたオークは、『待ってました!』とばかりに機嫌を良くしました。
「姐さん、こんにちは。そうだね。今日はどこかの魔術師が持っていたって、そんな曰くつきの道具が幾つか入っているんだ」
「魔術師の曰くつき? ちょっとワクワクしちゃいますね…」
ユーリンはござの前にしゃがみこみました。
「まず古いインク壺かな。こいつは真鍮製だね。くすんでいるが、それだけ年季の入ったものってことだ。蓋も受け皿も残っている。デザインも悪くないと思うんだが」
手渡されたインク壺と蓋、それに受け皿も見事な装飾がなされていました。
「大きさもデザインも、コーヒーカップみたいですね。ちょっと大きな感じもしますけど、魔術師さんだったら、魔導書もたくさん書いたでしょうし、だからインクたっぷりだったのかも知れません」
ユーリンは蓋を開け、中を覗き込みました。
中は空っぽで、若干黒いインクの跡が見られました。
「私もインク壺は持っていますけど、使い分けするのも悪くありません。それに元の持ち主さんがとても大切に使っていたみたいですね。若干その方の魔力が今も残っています」
ユーリンはござの上に置いてあった受け皿の上に、真鍮のインク壺を戻しました。
代わりにドルコナが手に取り、中を覗き込んで、匂いをかぎました。
★
「次はこれ。木製の栞。魔術師はたくさん本を読むっていうから、そこで使っていたんじゃないかな? 薄いけど丈夫で、一枚一枚、異なる木彫りが施されている。デザインがエルフっぽく感じるんだけど、どうだろう? あっしにはその辺、わからないんだけど」
何十枚か束になった木製の栞をユーリンに差し出しました。
「木製の栞ですか。この彫り物は…、エルフっぽくもありますけど、あまりこういう細工をするのは聞いたことも、見たこともありませんね。それに魔力も何も感じないので、いわゆる工芸品かと。でも良い作りですし、古書を買っていただいたお客さんにプレゼント出来そうです」
ユーリンはまた、ござの上に栞の束を置きました。
ドルコナが栞を手に取り、一枚一枚検め始めました。
デザインはどれも一点物。
またよく見れば、スピンを通す小さな穴が開いているので、『短冊みたいにぶらさげることも出来そうだ』とドルコナは思いました。
(つづく)




