第1話の20 「何か慌ただしかったわ」
この集合住宅は三階建てで、その上は屋上になっていました。
二人はその屋上にやってきました。
外はすっかり夜になって、賑やかなボロマチの明かりが、ここからでも良く見えました。
柵に近寄ると、心地よい夜風が二人の身体に当たってきました。
「あ~、涼しい。さっきのところは、ちょっと蒸し暑かったからね」
「狭いところにあれだけ人がいれば、そりゃ、そうなるわよ」
時々ココットも参加しますが、そのたびにあそこはちょっと蒸し暑く、そして煙った空気が苦手でした。
「金平糖、食べよっか? 残しておいたんだ。あとでココっちと食べようと思って」
ドルコナは金平糖を入れた革袋の先をココットに向けました。
「そんなの持ってたんだ」
ココットが手のひらを差し出しました。
その上に何粒か落としてから、ドルコナも少し手に取って、口に放り込みました。
ココットも口に放り込みました。
「甘いわ」
「食糧がないときは、これで飢えをしのいでいたよ」
「もっとちゃんとしたものを食べなさいな」
ココットは口の中でコロコロと小さな粒を転がしました。
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「何か慌ただしかったわ。お陰でくたくたよ。一日で何年分もの時間が、一気に流れたって感じがするわ」
「私もこんなことになるとは思わなかった。でも旅ってのは、ホント予想もできないことばかりなんだ。何もない退屈な時がずっと続くこともあれば、いきなりこんなことだって起こる。昨日と今日で、全然一日の流れが変わるんだよ。そして、今日と明日でも。だから面白いんだけど」
「私は旅をするのは無理ね。ふるさとも良いけど、今はこの町が好きだし、淡々としていても、落ち着いた生活がしたいわ」
「そっか。でも楽しく暮らしていそうだね。さっきの人たち見ても、ココっちのこと、良くしてくれているみたいだし。安心したよ」
「ええ。この町に来て、良い人たちにたくさん出会えたわ」
「そいつは良かった」
薄暗くて良く見えなかったが、ココットにはドルコナが少し安堵したかのように見えました。
★
「くしゅんっ! ちょっと風が冷たくなってきたわ。身体が冷えるからもう戻りたいんだけど?」
「そうだね。私もだいぶ酔いが冷めた」
「一人だけお酒を飲んで、ずるいわ。私だって飲みたかったのに…」
「じゃあ、今から飲みなおす? お酒も勝ち取ったよ。そんなに多くはないけど」
そう言ってドルコナは、懐から酒の入った小さな小瓶を取り出しました。
「勝ち取ったって、今は良いわ。それにドコちゃん、しばらくはここにいてくれるんでしょ? だったら次の仕事休みの日にでもね。今日はくたびれちゃったから、早く寝たいわ。明日は仕事だし」
「仕事かあ。ココっち、何の仕事をしているの?」
「まあ、細かい仕事を幾つか掛け持ち。外を回ったり、中で作業したり。それも改めてゆっくり話すわ」
そして二人は部屋に戻っていきました。
★
その日の夜は二人、同じベッドで寝ました。
しかし。
「ねえ、ココっち、眠れないんだけど? もっとお話しない?」
ドルコナはココットのパジャマを軽く引っ張りました。
昼寝のせいもあって、ドルコナは眠気が吹き飛んでいました。
「私、明日も早いから寝させてよぅ…」
ココットは自分の毛布にくるまって、そっぽを向くように寝相を変えました。
「残念」
諦めてドルコナも同じように毛布にくるまりました。
しばらくの間、これまでのことを色々と思い返していましたが、そのうちドルコナも眠ってしまいました。
こうして二人の長い一日がようやく終わることとなりました。
(第1話 おしまい)




