第1話の2 「おはよう、ココット!」
ココットは窓を開けて空気を入れ替えました。
彼女の部屋は、狭い集合住宅の二階の一室で、表の通りに面していました。
風通しも良く、毎朝、いの一番にボロマチの色んな生活臭が混ざりあった独特の空気が入り込んできます。
良い香りとはとてもいいがたいのですが、ココットはそれが好きでした。
この町で暮らしている何よりの証明だったからです。
「おはよう、ココット!」
向かい側の建物の一階、飲食店の主人がココットの姿を見つけて声を上げました。
「おはようございます! やっと今日は良いお天気になりましたね! あとで朝食をお願いしに伺います!」
ココットはにこやかな笑顔とともに、軽く手を振って応えました。
昨日まで三日間、この地方は雨が降り続いていたのですが、ようやく今日は晴天となりそうな空が広がっていました。
ココットは平穏で穏やかな一日になるような予感がしました。
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それからココットは手短に朝の身支度を終えると、今度は朝食の準備を始めました。
ここまではいつも通り、滞りの無い完璧な流れでした。
ココットは自分のマグカップと、小分けされた陶器のプレートを一枚、戸棚から取り出すと、それを木製のトレイに載せました。
更に数枚の貨幣を載せると、それを持って部屋を出て、外部の階段をトントンと降りて行きました。
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通りを挟んで向かい側の建物、その一階部分には三軒の店舗が並び、一つが先ほど声をかけてくれた主人の店、ココットの行きつけの飲食店でした。
日中は食事がメインでしたが、夜になるとお酒も提供されるのでした。
一人でいるときのココットはあまり飲む方ではなかったのですが、たまに誰かと一緒に飲み始めると、ほろ酔いを通り越して二日酔いになることもありました。
「おはよう。相変わらず一番乗りだね」
声をかけてきたのはその飲食店の主人。
彼は人間で、やや年齢を重ねた背の高い紳士的な人物でした。
もっとも、生きてきた時間はココットとさほど変わりはありません。
彼はちょうど店を開けたばかりで、表の掃除をしているところでした。
「おはようございます。ハンブさん。今日の朝食セットをくださいな」
「あいよ。飲み物はどうするね? コーヒー? ミルク? それとも紅茶かい?」
「そうですね…。昨日はミルクだったので、今日は紅茶で」
「わかった。ちょっと待っていてくれ。直ぐに用意するよ」
ハンブと呼ばれた男は、にこやかな笑顔で差し出されたトレイを受け取ると、掃除道具を外壁に立てかけてから店の中に戻っていきました。
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代わりにココットが掃除道具を借りて、店の前の掃除を続けました。
目の前を荷台をひいた馬車がゆっくりと通り過ぎていきます。
その荷台には幌がかかっていて、香りから、どうやら青果を積んでいるようでした。
一方で、夜の作業を終えた者たちが、何人か引き上げてきました。
また青年が朝の新聞配達をしています。
ミルクを配っている少女の姿もありました。
そうした一つ一つ、これもいつもと変わらない朝の風景の一つでした。
「今日はいい天気になりそう」
曲げていた腰を伸ばし、ココットは町の空を見上げて、そんなことを呟きました。
(つづく)




