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ボロマチ見聞録  作者: 篩獅師(ふるいしし)
【第1話 ココットとドルコナ】

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第1話の1 「おはよう、ドルコナ」

 古き良き時間と物。

 ともに過ごした誰かが残した大切な想い。

 独特の生活臭が漂う古い街並みは、そんな空気に満たされています。

 一日いちにちが、昨日の生まれ変わりであり、明日が今日の生まれ変わりであるように、ゆっくりと進む穏やかな日々が続いてくれます。

 その姿に惹かれる者たちは数知れず、いずこからともなく集まってくる不思議な場所。

 誰もがみな、親しみを込めて、『ボロマチ』と呼んでいました。

 これはそんなボロマチで暮らす人々の、ちょっと変わった風景をラフ・スケッチした物語なのです。


 ★


 その日の朝、ココットはおよそ普段通りの時間に目を覚ましました。

 相変わらず、目覚まし時計が鳴る前でした。

 うっすらとした朝日が、閉じられた鎧窓の隙間から部屋に差し込んでいます。

 昨夜、最後に見た変わらない自室の様子を、寝ぼけ眼をしばしばさせながら確認すると、ココットの新しい一日が始まりました。


 ★


 ココットはドワーフの若い女性でした。

 若いと言ってもそれはドワーフの時間であって、実際には五十年程度生きています。

 癖のない黒髪は、おかっぱというよりも、キノコのような髪型でした。

 前髪を眉毛が見えるくらい横一線に切り、綺麗に揃えています。

 後ろはやや短めに、若干刈り上げ気味になっているため、清潔感のあるうなじが見えていました。

 生真面目そうな顔立ちで、くっきりとした目元が特徴でした。

 当然のことながら、種族の特徴から彼女もまた小柄でした。


 ★


 ココットは硬い木製ベッドから身体を起こすと、そのまま大きく身体を伸ばしました。


「う~~~~んっ!」


 眠ってカチカチになった身体が、少しずつほぐれていきました。


「おはよう、ドルコナ」


 ゆるやかな笑顔で声をかけた先、壁際に背中をつけている低い箪笥の上には、簡素な祭壇のようなものが設置されていました。

 ココットが自作したもので、その真ん中には旅先から送られてきた同郷の旧友の写真が、フォトフレームに入れられて飾られています。

 ぼさぼさに髪の毛が伸びた丸顔の糸目の女性でした。

 どの場所で撮影されたものかはわからなかったが、彼女は旅装束に身を包み、何か角のある魔獣の頭蓋骨をかぶって、自信ありげにポーズをキメた姿が収まっていました。

 これがココットの手元に届いた最も新しい写真だったが、それも既に十年以上も前のこと。

 以来、手紙もなく、彼女の足取りは全くつかめていなません。

 どこか知らない土地を放浪しているのかも知れませんが、万が一のこともココットは覚悟していました。


「ふわ~あっ!」


 ココットは一つ、とても大きなあくびをしました。

 それから。


「おはよう」


 もう一度、今度は新しい一日に投げかけるように朝の挨拶をすると、ようやくココットはベッドから離れました。


(つづく)

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