第1話の1 「おはよう、ドルコナ」
古き良き時間と物。
ともに過ごした誰かが残した大切な想い。
独特の生活臭が漂う古い街並みは、そんな空気に満たされています。
一日いちにちが、昨日の生まれ変わりであり、明日が今日の生まれ変わりであるように、ゆっくりと進む穏やかな日々が続いてくれます。
その姿に惹かれる者たちは数知れず、いずこからともなく集まってくる不思議な場所。
誰もがみな、親しみを込めて、『ボロマチ』と呼んでいました。
これはそんなボロマチで暮らす人々の、ちょっと変わった風景をラフ・スケッチした物語なのです。
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その日の朝、ココットはおよそ普段通りの時間に目を覚ましました。
相変わらず、目覚まし時計が鳴る前でした。
うっすらとした朝日が、閉じられた鎧窓の隙間から部屋に差し込んでいます。
昨夜、最後に見た変わらない自室の様子を、寝ぼけ眼をしばしばさせながら確認すると、ココットの新しい一日が始まりました。
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ココットはドワーフの若い女性でした。
若いと言ってもそれはドワーフの時間であって、実際には五十年程度生きています。
癖のない黒髪は、おかっぱというよりも、キノコのような髪型でした。
前髪を眉毛が見えるくらい横一線に切り、綺麗に揃えています。
後ろはやや短めに、若干刈り上げ気味になっているため、清潔感のあるうなじが見えていました。
生真面目そうな顔立ちで、くっきりとした目元が特徴でした。
当然のことながら、種族の特徴から彼女もまた小柄でした。
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ココットは硬い木製ベッドから身体を起こすと、そのまま大きく身体を伸ばしました。
「う~~~~んっ!」
眠ってカチカチになった身体が、少しずつほぐれていきました。
「おはよう、ドルコナ」
ゆるやかな笑顔で声をかけた先、壁際に背中をつけている低い箪笥の上には、簡素な祭壇のようなものが設置されていました。
ココットが自作したもので、その真ん中には旅先から送られてきた同郷の旧友の写真が、フォトフレームに入れられて飾られています。
ぼさぼさに髪の毛が伸びた丸顔の糸目の女性でした。
どの場所で撮影されたものかはわからなかったが、彼女は旅装束に身を包み、何か角のある魔獣の頭蓋骨をかぶって、自信ありげにポーズをキメた姿が収まっていました。
これがココットの手元に届いた最も新しい写真だったが、それも既に十年以上も前のこと。
以来、手紙もなく、彼女の足取りは全くつかめていなません。
どこか知らない土地を放浪しているのかも知れませんが、万が一のこともココットは覚悟していました。
「ふわ~あっ!」
ココットは一つ、とても大きなあくびをしました。
それから。
「おはよう」
もう一度、今度は新しい一日に投げかけるように朝の挨拶をすると、ようやくココットはベッドから離れました。
(つづく)




