第1話の14 「あら、ハンブさん?」
洗濯籠いっぱいにドルコナの洗濯物を載せて、二人がココットの集合住宅に戻ってきたのは、お昼もだいぶ過ぎたころでした。
「へ~、ここが今、住んでいるところなんだ? 古めかしいけど、住み心地が良さそうなところだね」
集合住宅の前でドルコナはそんな感想を漏らしました。
「お腹空いているでしょ? 何か食べる? そこの店だったら私の行きつけだし、今も大丈夫だと思うけど」
今は昼食時のピークもとっくに過ぎているため、向かいにあるハンブの店は空いていそうでした。
「う~ん、そうだね。けど、その前に洗濯物を干しちゃおう。アタシのだし、やることやってからいただこうよ」
「そういうとこ、昔から変わっていないね」
そんなことを話しながら、二人は建物の中に入っていきました。
二人の様子を店舗の窓から覗き見ていたハンブは、店の奥へと戻っていきました。
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「落ち着いたお住まいだね。ココっちらしく整理整頓されているのが何だか懐かしいよ」
「そりゃ、どうも。ちょっと狭いかもだけど、適当に荷物を置いておいて」
言われた通り、邪魔にならないところに適当に荷物を置きました。
ココットは一部の洗濯物を窓の転落防止柵に吊るしました。
残りはドルコナと一緒に室内に干していきました。
「随分洗濯物があるわね。結構穴が空いたり、繕ったりしているみたいだけど」
広げたシャツを見て、ココットがそんなことを言いました。
「旅先じゃ、着替えは貴重だからねえ。行った先々で、代わりのものがあるかどうかもわからないし。それにしても、よくここまで頑固な汚れを綺麗に落としてくれたもんだ。びっくり仰天だよ」
「よくわからないけど、質の良い洗剤と、質のいい洗い手さんがいるとか、浴場のご主人は話しているわ」
『料金はだいぶかかったけど』、とはココットは口に出しませんでした。
「これだけの洗濯もの、部屋干しだと臭くならないかな?」
「さっきまでのドコちゃんの臭いに比べれば、ぜ~んぜん」
「さいですか~」
そんな会話をしながら、ココットの部屋の日当たりのいい窓辺に二人で干していきました。
★
干し終わった頃を見計らって、部屋のドアがノックされました。
「は~い」
ココットはパタパタと足音を立てて応対しに行きました。
「あら、ハンブさん?」
「こんにちは。ちょっと良いかい?」
その後、二人は何か小声で話している様子がドルコナの耳に入りましたが、あまり盗み聞きするのも良くないので、ドルコナは少し古臭いソファの上にごろりと寝転がりました。
やがて扉が閉まる音がして、ココットが何かを入れた紙袋を抱えて戻ってきました。
ひくひくと、ドルコナの鼻が生き物のように動きました。
「何だかうまそうな匂いがするんだけど?」
「今の人は、お向かいのお店のご主人、ハンブさんよ。私たちが帰ってくるのを見ていたみたい。ランチの売れ残りを差し入れしてくれたわ」
「おお、そいつはありがたい。『旅で大切なものは、聖者のありがたい言葉より、目の前にあるその日の”糧”なり』。遠慮なくいただこう」
「よくわからないけど、お茶を淹れてくるわ」
「お構いなく~」
ココットは机の上に紙袋を置くと、お茶を淹れにキッチンへ行きました。
(つづく)




