ぷくぷくぷくぷく浮上中
レッドショットとワイルドホイールが、アメリカを出発した日。
日本では、すでに深夜だ。
そんな時間に、港に向かう三台の車があった。
どれも黒塗りの高級車だ。人気の少ない方へと向かっている。
しばらく走って、タイヤが止まった。
車の右側には、古い倉庫が並んでいる。
左側には、夜の海だ。黒い波が揺れている。
周囲に人の気配はない。港のにぎやかな場所にある灯りも、ここまではほんの少ししか届いていない。
そんな暗がりで、まずは前後の二台から、体格のいい男たちが降りてくる。
半数は黒いスーツ姿だが、もう半数はその上に救命胴衣を着ていた。
男たちが無言で、二手に分かれる。前方へ走る集団と、後方へ走る集団。
事前の打ち合わせ通りに、それぞれの配置についた。前方も後方も、黒いスーツと救命胴衣の混成部隊だ。
ここから先は秘密厳守。関係者以外に知られては、色々と面倒なことになる。
真ん中の車からも、二人が降りた。どちらの男も黒いスーツだ。救命胴衣は着ていない。
この二人はまず、周囲を警戒した。
次に無線で、他の男たちからの報告を聞く。
そのあと夜の海を見た。すぐ手前から沖に向かって。
片方の男は肉眼だが、もう片方の男は暗視ゴーグルを使用している。
「どうだ?」
「それらしいものは見えない」
二人の男たちは、そのことを雇い主に報告する。
自分たちの雇い主は、真ん中にある車、その「後部座席」にいた。
「いや、どうも近くにいるようだ。たった今、スマホにメールが届いた」
そう言って、紋付き袴の老人は笑う。
この老人は『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』の「考案者」だ。
そして、『日本DCB協会』の「会長」と、『世界DCB協会』の「会長」を兼任している。
スマホに届いたメールは、これから会う相手からのもので、
――ぷくぷくぷくぷくぷくぷく。
どうやら、すぐそばの海中に潜んでいるらしい。
ムラサメは車を降りた。
これから人に会う。『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』の世界大会、その『特別推薦枠』の一人だ。
またもや、「彼女」からのメールが届く。
――ぷくぷくぷくぷく浮上中。
茶色いスーツを着た中年男性も、ムラサメのあとから車を降りた。
ムラサメが事前にくわしく説明していないので、「どうして、こんな場所で?」と、不安げな表情をしている。この中年男性は黒いアタッシュケースを持っていた。
彼は外務省の役人だ。ある手続きのために、この場に同行してもらっている。
ムラサメは海面に目を向けた。
と同時に、その場所の水がいきなり、大きく盛り上がってくる。
海中から紺碧の物体が浮上してきた。流れ落ちる水の奥では、いくつもの青いライトが点滅している。
海中から出てきたばかりの大きな右手が、コンクリートの岸壁をつかんだ。
続いて左手。そっちも岸壁をつかむ。
紺碧の物体の頭部にある青いライト、「巨人の一つ目」のようなそれが、ムラサメたちの方を向いた。
そして、残りの全身も、海中から陸地へと上がってくる。
ムラサメは微動だにしない。紺碧の物体の全身を観察する。
これが最新型の『アクティブ・ロボットアーマー』か。頭部と胴体とがほとんど一体化しており、その手足は太い。
今は「人型」だが、「潜水艦形態」にもなれるとか。これまでの『アクティブ・ロボットアーマー』にはなかったタイプだ。水陸両用で、変形可能なタイプ。
それで事前に、ムラサメのもとに打診があった。「海中航行試験」に協力して欲しいと。
「インドからはるばる、日本へようこそ」
ムラサメは歓迎する。
といっても、この『アクティブ・ロボットアーマー』はインドからずっと、「潜水艦形態」で海中航行してきたわけではない。
ここの沖合いまでは大型貨物船で来た。海中航行を開始したのは、そこからだ。それでも数十キロメートルはある。
ぷしゅー。
機体内外の気圧差を調整する音がした。
そして、『アクティブ・ロボットアーマー』の前面ハッチが開いていく。




