私が話す
「とーちゃーく♪」
黒髪に褐色の肌をした女性が、この『アクティブ・ロボットアーマー』の操縦席から、笑顔で告げてくる。
彼女はフリーダ。『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』の世界大会、その『特別推薦枠』の一人だ。
インドの大手ロボット企業で開発主任をしている。若き天才だ。今は黒い潜水服の上に、白衣を羽織っている。
「えーと、パスポート、パスポートっと」
のんびりした口調だが、両手は大急ぎで動いている。
彼女は目当ての物を見つけると、まずはムラサメを見て、次にボディーガードの二人組、最後に外務省の役人へと視線を移した。
「手続きをお願いしまーす。入国の目的は、世界大会の出場でーす」
それぞれの雰囲気から判断したらしく、外務省の役人に向かって、パスポートや必要書類一式をパスしてきた。
あわてて受け取る外務省の役人。危うく地面に落とすところだった。
ペンライトを口にくわえて、書類に目を通す。フリーダ自身の入国手続きに加えて、『アクティブ・ロボットアーマー』の持ち込み手続きもある。
とはいえ、この状況だ。『アクティブ・ロボットアーマー』の機体内部を、細かく検査できるわけではない。
だから、ムラサメを全面的に信用することにした。事前にくわしい説明こそなかったが、何か問題が起きた場合には、ムラサメが全責任を負う約束になっている。
なので、とっとと手続きを済ませるに限る。こんなところをマスコミに嗅ぎつけられたら、面倒なことになりかねない。
外務省の役人が所定の作業を進める中、二台のスマホがほとんど同時に振動した。
ムラサメのスマホと、フリーダのスマホだ。
二人はそれぞれ電話に出る。
かけてきた相手は違うが、内容はだいたい同じだ。
そのことを、ムラサメもフリーダも直感する。互いに視線を合わせると、意味ありげに笑った。
ムラサメが言う。
「その車は通していい」
電話の向こう側から、「ですが」と聞こえてくるが、
「いいから通すんだ」
数分後、ムラサメとフリーダがいる近くに、黒い大型トラックが到着した。
トラックを運転しているのは女性で、褐色の肌に金色の髪をしている。黒いサングラスをかけているので、瞳の色はわからない。
この女性はプロの『運び屋』だ。人や物を目的地まで運ぶ。依頼料は「時価」だ。
今回の依頼人はフリーダで、運ぶのは最新の『アクティブ・ロボットアーマー』。
「よいしょっと」
機体の前面ハッチを開けたまま、フリーダは『アクティブ・ロボットアーマー』を操縦する。黒い大型トラックへと向かっていった。
トラックの後方トレーラー、その側面が展開し始める。
フリーダは思った。機体を分解しなくても、トレーラーの中に何とか入りそうだ。この『アクティブ・ロボットアーマー』には、かなり窮屈な姿勢をさせることになるけれど。
もう一度トラックの運転席を見る。
そこにいる『運び屋』の顔を見て、フリーダはにやりとした。
あの顔は見たことがある。
日本の大学生たちのドミノを、『黒仮面』が破壊していった時だ。その映像の一つにほんの少し、トラックの運転席が映っていた。あの女性が映っていたのだ。
そして、フリーダは別の場所でも、あの顔を見たことがある。
中東の某国だ。
(そこのお姫さま♪)
突然、フリーダのスマホに着信がある。
さっきは、この『運び屋』からだった。ムラサメの部下たちに、先に進むのを止められていて、「どうすればいいのか?」を、フリーダに聞いてきたのだ。
で、今度はインドの本社から。
出ると、相手は自分の部下で、早口で用件を言ってくる。今すぐ主任と話したい、そんな電話が本社にかかってきているらしい。
「わかった。その電話は、こっちに回して。私が話す」
数秒して、スマホから聞こえてくる声が変わった。
相手はビジネスのお得意様だ。といっても、ギャングだけど。
「今、日本にいるらしいな?」
「そうだよ、出張中。先に言ってなかったっけ? 言ってたつもりだったんだけど」
「ああ、知っているから電話した。すまないが、緊急で仕事を頼みたい。ちょっと気になる情報をつかんでな」
仕事の内容を相手が告げてくる。
フリーダは短く考えてから、
「まあ、いいけど。それって、私の専門分野じゃない気がする。だから、依頼料は高くつくよ。成功報酬も弾んでもらわなきゃ」
すると、相手が提示してきた。自分が予想していた金額の、三倍以上だ。言ってみるもんだね、とフリーダはにんまりする。
ただし、高額な分、この仕事に関する質問は禁止だ。急を要する。今すぐミッションにあたれ。
「了解」
相手はお得意様だし、このミッションには個人的にも興味がある。
(島原ヒミコか。たしか、世界大会の日本代表だっけ)
予定変更だ。大型トラックの目的地が変わった。




