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ドミノ・クラッシュ・ボウリング  作者: ℃
【第一章】 世界大会予選

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20/23

動き出すギャングたち(その一)

 ウィンロードとディザスターが見(み)ているのとまったく同(おな)じ映像(えいぞう)を、アイルランドから遠(とお)く離(はな)れた場所(ばしょ)で、赤(あか)い眼帯(がんたい)の男(おとこ)がくり返(かえ)し見(み)ていた。


 画面(がめん)の中(なか)で、シャンパンタワーが破壊(はかい)される。次(つぎ)にウェディングケーキ。


 赤(あか)い眼帯(がんたい)の男(おとこ)がいる場所(ばしょ)は、アメリカのホテルだ。その客(きゃく)室(しつ)の一(ひと)つである。


 このホテルで本日(ほんじつ)、惨劇(さんげき)が起(お)きた。


 二(ふた)つのギャング団(だん)による結婚(けっこん)パーティーに、『黒(くろ)仮面(かめん)』をつけた男(おとこ)が登場(とうじょう)。ボウリングの玉(たま)を使(つか)って、パーティーを滅茶(めちゃ)苦茶(くちゃ)にした。


 そして、逃走(とうそう)。


(なめたまねを)


 赤(あか)い眼帯(がんたい)の男(おとこ)、レッドショットは心(こころ)の中(なか)で舌(した)打(う)ちする。


 このホテルは、自分(じぶん)たちが所有(しょゆう)するホテルではない。別(べつ)のギャング団(だん)が所有(しょゆう)しているホテルだ。言(い)わば、他人(たにん)の庭(にわ)。


 しかし、うちの幹部(かんぶ)とそこの幹部(かんぶ)による結婚(けっこん)パーティーで、惨劇(さんげき)が起(お)きた。あの『黒(くろ)仮面(かめん)』は、このホテルを所有(しょゆう)するギャング団(だん)だけでなく、うちのギャング団(だん)の顔(かお)にも泥(どろ)をぬったのだ。


 先(さき)ほど二(ふた)つのギャング団(だん)が連名(れんめい)で、奴(やつ)に懸賞金(けんしょうきん)をかけた。生死(せいし)は問(と)わない。ただし、生(い)きて捕(つか)まえた場合(ばあい)には、死(し)んでいた場合(ばあい)よりも、三(さん)倍(ばい)の金額(きんがく)を払(はら)う。


 金銭(きんせん)的(てき)な意味(いみ)以外(いがい)でも、これは大(おお)きなチャンスだ。もしも、あの『黒(くろ)仮面(かめん)』を捕(つか)まえることができれば、両(りょう)ギャング団(だん)の親分(おやぶん)や幹部(かんぶ)たちに、自分(じぶん)の名前(なまえ)を売(う)ることができる。同格(どうかく)の輩(やから)どもから、一気(いっき)に抜(ぬ)け出(だ)すことが可能(かのう)だ。近(ちか)い将来(しょうらい)の幹部(かんぶ)入(い)りも、夢(ゆめ)ではなくなる。


 映像(えいぞう)の中(なか)で、またもや『黒(くろ)仮面(かめん)』が逃走(とうそう)に成功(せいこう)した。


「おまえはどう思(おも)う?」


 自分(じぶん)の隣(となり)にいる男(おとこ)に、レッドショットは尋(たず)ねた。


 温和(おんわ)な表情(ひょうじょう)の中年男性(おっさん)だが、その体(からだ)は大(おお)きい。身長(しんちょう)は二(に)メートルを超(こ)えていて、筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)だ。


 この中年男性(おっさん)の名前(なまえ)はワイルドホイール。


 普段(ふだん)はレッドショットのボディーガードだが、別(べつ)の顔(かお)も併(あわ)せ持(も)つ。


 闇(やみ)賭博(とばく)のプロボウラーだ。別名(べつめい)『倍(ツイン)速(ターボ)大車輪(ホイール)』。


 非(ひ)公式(こうしき)な『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』が、裏(うら)社会(しゃかい)には存在(そんざい)している。表(おもて)の世界(せかい)で活躍(かつやく)するディザスターと違(ちが)って、ワイルドホイールの主戦場(しゅせんじょう)は裏(うら)社会(しゃかい)だ。


 そんな男(おとこ)が口(くち)を開(ひら)く。レッドショットの質問(しつもん)に答(こた)えた。


「かなりの腕前(うでまえ)だ」


「おまえよりも上(うえ)か?」


「上(うえ)だ。俺(おれ)は力(ちから)に特化(とっか)している。それだけの男(おとこ)だ」


 断言(だんげん)するワイルドホイール。


 レッドショットは内心(ないしん)で、「そんなことはない」と思(おも)った。


 ワイルドホイールの実力(じつりょく)は、裏(うら)社会(しゃかい)の『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』で上位(じょうい)に入(はい)る。バカ力(ぢから)だけが取(と)り柄(え)のプロボウラーではない。技術(テクニック)もある。


(この謙虚(けんきょ)さこそが、ワイルドホイールの美徳(びとく)だ)


 小(ちい)さく笑(わら)うレッドショット。自慢(じまん)のボディーガードがいる、そんな幸運(こううん)に心(こころ)から感謝(かんしゃ)する。


 ボウリングに関(かん)して、レッドショット自身(じしん)は趣味(しゅみ)でたしなむ程度(ていど)だ。『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』の大会(たいかい)はたまに見(み)るが、技術(ぎじゅつ)的(てき)にどうこうを評価(ひょうか)できるレベルではない。


 なので、ワイルドホイールの意見(いけん)はとても助(たす)かる。


「この『黒(くろ)仮面(かめん)』は、ディザスターよりも実力(じつりょく)は上(うえ)か?」


「ディザスターには及(およ)ばない。だが、世界(せかい)大会(たいかい)でも通用(つうよう)する実力(じつりょく)だと思(おも)う」


「それほどの実力者(じつりょくしゃ)か。殺(ころ)すのは少(すこ)し惜(お)しいな」


 闇(やみ)賭博(とばく)のプロボウラーにスカウトすれば、かなりの活躍(かつやく)が期待(きたい)できそうだ。


 話(はなし)の持(も)っていき方(かた)次第(しだい)では、ギャング団(だん)の親分(おやぶん)や幹部(かんぶ)たちの気(き)が変(か)わるかもしれない。金(かね)を生(う)む奴(やつ)なら、まずは生(う)ませる。この『黒(くろ)仮面(かめん)』を殺(ころ)すのは、こっちの預金(よきん)通帳(つうちょう)が十分(じゅうぶん)に潤(うるお)ってからでもいい。


(しかし、まずは捕(つか)まえないとな)


 同(おな)じギャング団(だん)にいる他(ほか)の連中(れんちゅう)は、すでに動(うご)き出(だ)している。『賞金(しょうきん)稼(かせ)ぎ』たちや『殺(ころ)し屋(や)』たちに、手当(てあ)たり次第(しだい)に声(こえ)をかけまくっているようだ。


 が、レッドショットの考(かんが)えは違(ちが)う。


 現段階(げんだんかい)で最(もっと)も優先(ゆうせん)すべきは「情報(じょうほう)」だ。闇雲(やみくも)に探(さが)しても、『黒(くろ)仮面(かめん)』を捕(つか)まえることはできない。


 今(いま)のところ、あの『黒(くろ)仮面(かめん)』は正体(しょうたい)不明(ふめい)だ。つまり、仮面(かめん)やスーツを脱(ぬ)いでしまえば、簡単(かんたん)に身(み)を隠(かく)すことができる。


 したがって、この件(けん)でまず押(お)さえるべきは、『情報(じょうほう)屋(や)』たちだ。『賞金(しょうきん)稼(かせ)ぎ』たちや『殺(ころ)し屋(や)』たちではない。


 レッドショットはすでに、めぼしい『情報(じょうほう)屋(や)』たちのネットワークを、いくつか押(お)さえていた。


 彼(かれ)らへの依頼(いらい)内容(ないよう)は大(おお)きく「三(さん)項目(こうもく)」。


 まずは、『黒(くろ)仮面(かめん)』に関(かん)する「情報(じょうほう)の収集(しゅうしゅう)」だ。有力(ゆうりょく)な情報(じょうほう)には、その価値(かち)に見合(みあ)った追加(ついか)報酬(ほうしゅう)を支(し)払(はら)う。


 次(つぎ)に、他(ほか)のギャングたちに対(たい)する「情報(じょうほう)の攪乱(かくらん)」だ。こっちの『情報(じょうほう)屋(や)』グループに、あとから接触(せっしょく)してきた奴(やつ)らには、適度(てきど)にウソの情報(じょうほう)を混(ま)ぜろ。


 とはいえ、血(ち)の気(け)の多(おお)い連中(ギャングたち)が相手(あいて)だから、あまり無理(むり)をするな。混(ま)ぜるのは小(ちい)さなウソで十分(じゅうぶん)。


 もちろん、このことは秘密(ひみつ)だ。口(くち)止(ど)め料(りょう)を先払(さきばら)いしている。


(それでも、ばらす『情報屋(やつ)』は出(で)てくるだろうが)


 その情報(じょうほう)を聞(き)いた奴(ギャング)は、おそらく黙(だま)っている。


 そうするだけで、他(ほか)の連中(ギャングたち)よりも優位(ゆうい)に立(た)つことができるからだ。小(ちい)さなウソによって、見当(けんとう)違(ちが)いなところを探(さが)している連中(バカども)に、わざわざ本当(ほんとう)のことを教(おし)えてやる必要(ひつよう)はない。


 ゆえに、口(くち)止(ど)めの事実(じじつ)は広(ひろ)がらない。


 そして、三(みっ)つめだ。


 これは特(とく)に重要(じゅうよう)だと、レッドショットは考(かんが)えている。


 自分(じぶん)が押(お)さえた『情報(じょうほう)屋(や)』たち。彼(かれ)らに伝(つた)えた。「味方(みかた)同士(どうし)で足(あし)の引(ひ)っ張(ぱ)り合(あ)いをするな」と。


 といっても、彼(かれ)らの間(あいだ)でライバル意識(いしき)もあるだろう。仲(なか)良(よ)しこよしの関係(かんけい)は、最初(さいしょ)からそこまで期待(きたい)していない。


 だが、「過度(かど)な競争(きょうそう)は禁止(きんし)」だ。これが三(さん)項目(こうもく)め。


 目(め)に余(あま)る『情報(じょうほう)屋(や)』がいれば、一回(いっかい)だけは警告(けいこく)してやる。


 次(つぎ)に禁止(きんし)事項(じこう)を破(やぶ)ればどうなるのか、それを好(す)きに想像(そうぞう)しておけ。その貧(まず)しい想像(そうぞう)力(りょく)を、悪(わる)い意味(いみ)で裏(うら)切(ぎ)ってやる。


 レッドショットが見(み)つめる先(さき)、画面(がめん)の中(なか)でまたしても、シャンパンタワーが破壊(はかい)された。次(つぎ)にウェディングケーキだ。


(こんなことが実行(じっこう)可能(かのう)な奴(やつ)か)


 ワイルドホイールによれば、この『黒(くろ)仮面(かめん)』の実力(じつりょく)は、ディザスターには及(およ)ばないらしい。


(となると、イギリスの提督(ウィンロード)でもないな)


 あの二人(ふたり)の実力(じつりょく)は伯仲(はくちゅう)している。


(そもそも体格(たいかく)からして違(ちが)うか)


 そのあとも、「こんなことが実行(じっこう)可能(かのう)な奴(やつ)」について考(かんが)えてみるが、特(とく)に思(おも)いつかない。


 が、しばらくして、「昔(むかし)聞(き)いた話(はなし)」が頭(あたま)に浮(う)かんでくる。


 あれは都市(とし)伝説(でんせつ)のようなものだし、そんな人物(じんぶつ)が実在(じつざい)するのかはわからない。


 しかし、念(ねん)のためだ。


「『石版(せきばん)の王(おう)』という名前(なまえ)を、聞(き)いたことがあるか?」


 レッドショットの質問(しつもん)に、ワイルドホイールは静(しず)かにうなずいた。


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