ギャング団の結婚パーティー(その二)
ボウリングの玉が、ギャングたちの壁に迫る。
ところが、衝突の直前になって、玉の動きが変わった。
横に大きくそれていく。急激な横移動だ。
このあと、テーブルの一つ、その下へと消える。
が、すぐに反対側から出てきた。
その先には「シャンパンタワー」がある!
予想外の軌道に、焦るギャングたち。
テーブルの存在で油断していた。そっち側は「がら空き」だ。
その「がら空き」になっている場所を、ボウリングの玉が悠々と走り抜ける。
そして、シャンパンタワーの土台部分に命中した!
タワーがバランスを崩していく。
シャンパンの入ったグラスが次々と宙に舞った。
床に落ちて、ガラスが割れる。その音が止まらない。
会場内で何種類もの悲鳴が上がった。
が、惨劇はまだ終わりではない。
この時、黒いボウリングの玉は次の獲物へと向かっていた。
シャンパンタワーの土台部分に当たった反動。その跳ね返りを利用して、新たな道を進んでいく。「ウェディングケーキ」に向かって。
たとえ正面を壁で塞がれていても、ケーキの横は「がら空き」だ。
そして、今度も命中。シャンパンタワーに続いて、ウェディングケーキも傾き始める。
よもやの事態に、会場内の悲鳴がさらに大きくなった。
ウェディングケーキを守ろうと、その土台部分を押さえる者たちがいる。
しかし、すでに手遅れだった。ケーキは中段付近から、地すべりを起こしている。それより上は絶望的だ。
頭上から迫りくるケーキに、その場にいたギャングたちは混乱していた。
逃げた方がいいのか。それとも、このケーキを受け止めた方がいいのか。
どっちの方が、ギャング団の親分や幹部たちに良い印象を与えるのか。
答えが出ないまま、ケーキの下敷きになるギャングたち。生クリームとスポンジの中で呆然とするしかなかった。
結婚パーティーの主役の一つ、ウェディングケーキが崩壊。
この時、ケーキの崩壊を最後まで見届けずに、ギャングたちが『黒仮面』を捕まえようとしていれば、もしかしたら結末は変わっていたかもしれない。
しかし、気づいた時には遅かった。
シャンパンタワーとウェディングケーキを破壊した犯人は、すでに会場の外へ逃走している。
そこで映像が止まった。
リモコンを手にしたまま、ディザスターが聞いてくる。
「どうだ、ウィンロード。何か気づいたか?」
真っ先に思いついたのは、ボウリングの玉が急激な横移動をした件だ。
それについて自分の意見を言う前に、次のことを確認しておく。
「あのボウリングの玉は現場に残っているよな。その内部は調べたのか?」
世界には、機械仕掛けの玉が存在する。それを使っているなら、投球者のボウリング技術について、いくらか評価を下げた方がいい。
「ああ。すぐに調べた結果、あれは普通のボウリングの玉で、内部に機械などはなかったらしい」
となると、あの横移動は投球者の技術によるもの。
あれと同じ技を、ウィンロードは知っている。
「あの横移動は、日本のヒミコが使う『螺旋勾玉』だな」
ただし、その劣化コピーだ。ヒミコの技ほど洗練されていない。玉の動きに硬さがあった。ヒミコの『螺旋勾玉』はもっとなめらかに、そして、力強く動く。
それに、あの『黒仮面』は、体格からして男性だ。ヒミコではない。
とはいえ、あの状況で、あそこまでのコピー技を使うとは、ただ者ではないだろう。
しかも、奴は自らの目的を果たしている。
シャンパンタワーの破壊。おそらく、ウェディングケーキもだ。あれは偶然ではなく、計算によるもの。
ウィンロードは知っている。あのような「跳ね返りを利用してのドミノ破壊」。あれを得意としている人物がいる。
その人物の名はディザスター。
「おまえが真っ先に疑われるわけだ」
「ああ。人の技を使って、余計なことをしやがって」
ボウリングの玉を何かにぶつけて、その跳ね返りを利用する。ディザスターの得意技だ。『サンダー・ピンボール』。
ただし、『黒仮面』が使ったのは、その劣化コピーだ。跳ね返り後のキレが足りない。ディザスターの『サンダー・ピンボール』なら、もっと派手にウェディングケーキは崩壊していただろう。
ウィンロードは考え込む。
ヒミコの『螺旋勾玉』と、ディザスターの『サンダー・ピンボール』。
それぞれの劣化コピーとはいえ、一回の投球で二つの技を併用した。
簡単にできることではない。
(あの『黒仮面』は何者だ?)




