提督の末裔(まつえい)と、ギャング団のボス(その一)
アイルランド南西の海岸沿いだ。
この崖から見える海、その向こう側から昔、『無敵艦隊』がやって来た。
アイルランドの沖合に姿を見せたあと、東へと進む『無敵艦隊』。
そして、ドーバー海峡の沖合で、英国とスペインが激突した。
一五八八年、『アルマダの戦い』である。
あれから数百年。
崖の上の草地には今、いくつものレンガが積み上げられていた。
それらのレンガは、船のような形をしている。
「見ていろ。これはこうやるんだ」
そう言って、金髪の少年はボウリングの玉を手にした。
他の子どもたちが見ている。自分よりも年下の子がほとんどなので、ここで失敗するわけにはいかない。
だから、来る日も来る日も練習してきた。
少年はボウリングの玉を強く転がす。
うまくできたつもりだった。
しかし、玉は途中から、横へと曲がり始める。
海風の影響か、それとも、地面のでこぼこの影響か。
(違う! そっちじゃない!)
少年は慌てた。
レンガの船に命中させたあと、「さあ、俺に続け!」と言うつもりだったのに。このセリフも、来る日も来る日も練習してきたのに。
ところが、その玉に突然、別の玉がぶつかってきた。
ビリヤードのように玉と玉とが弾き合った結果、少年の玉は息を吹き返す。
玉の軌道が変わった。その向かう先にあるのは、レンガの船だ。
そして命中!
周囲にいた子どもたちが、歓声を上げた。
金髪の少年はすぐさま、別の玉が転がってきた方角に目をやる。
少し離れた丘の上だ。長身の男性が立っている。
「提督」
金髪の少年がつぶやいた。それで他の子どもたちも気づく。
「提督だ!」
「提督がいるぞ!」
丘の上にいるのは、青いコートを羽織った男性だ。コートの下には、海軍の制服を着ている。
この男性の名はウィンロード。
一五八八年にスペインの『無敵艦隊』を撃破した、あのドレーク提督の末裔である。
「近くに来たから立ち寄った。みんな、元気にしていたか」
ウィンロードがこちらに歩いてくる。
子どもたちは一斉に駆け寄った。
金髪の少年は、みんなよりも出遅れる。
その結果、真っ先に気づいた。
もう一人いる。
さっきまでウィンロードが立っていた丘、その奥から新たな人物が現れたのだ。
「いいのか、提督さんよ。こんなところにいて」
白い帽子をかぶった男性だ。
黒いスーツの両肩に、白いコートを引っかけている。
そのコートが海風を受けて、マントのようになびいていた。飛んでいかないのが不思議だが、何かコツでもあるのだろうか。
他の子どもたちも、新たに登場した男性に気づく。
一人の女の子が、その正体を告げた。
「あ、ギャングのボスだー」
さらに別の女の子が、
「私、大きくなったら、ボスのギャング団に入るー♪」
ボスと呼ばれた男性が、ウィンロードと子どもたちがいる方へ向かってくる。
「悪いがやめておけ。今空いているポジションは、『まずーい野菜を試食する係』だけだ」
「うそだー」
「どうして、そんな係がいるのー?」
「それはな、敵を拷問する時に使う。まずーい野菜を食べさせて、重要な情報を吐かせるんだ。おいしい野菜だと、拷問にならないからな」
「きゃー♪ こわいー♪」
「ねえ、ボスのギャング団で、近々空きそうなポジションはないの?」
「そうだな。特にないかな。そもそも、この世界を裏側から綺麗にするのは、俺の楽しみだ。おまえらは俺のギャング団には入らずに、表側から綺麗にしろ」
たとえば、絵を描いたり、歌を歌ったり、と例を挙げてから、
「あと、たまには勉強もしろ。俺の分まで頼むぜ」
「ボスは勉強しないの?」
「俺は文字を読むと眠くなるんだ。聖書なら一行で爆睡だぞ。だから、それ以上は読んでいない」
「じゃあ、『ノアの方舟』とか『十戒』とか知らないの? 大雨が降ったりとか、海を二つに割ったりとか」
「何だ、それは? 新しく始まった『お子さま向け教育アニメ』か何かか? 俺は大人の男だから、そういうのは専門外だな」
ニヤリとしながら言う。
「ボス、悪ーい!」
「そうだ、悪いんだぞ。なんたって、ギャング団のボスだからな。見習うなら、そこの提督にしろ。俺には劣るが、その次くらいにはかっこいいぞ」
ウィンロードと子どもたちがいる場所に、ギャング団のボスが着いた。
「何の用だ、ディザスター」
「急用だ。これから少しばかり、大人の話といこうぜ」




