提督の末裔(まつえい)と、ギャング団のボス(その二)
ギャング団のボス、ディザスターは子どもたちに向かって、
「そういうわけだから、話を盗み聞きするんじゃないぞ。おまえたちは耳をふさいでいろ。絶対に聞くなよ」
にやにやしながら言う。
すると、子どもたちが両手で耳をふさいだ。
けれども、どの子も手の力を緩めている。手と耳との間に、わずかな隙間が空いていた。
それに気づいてはいるものの、あえて知らんぷりをするディザスター。
「今日何があるのかは、当然知っているよな?」
ウィンロードに話しかける。
「世界大会の予選か」
ウィンロードは腕時計を見る。羅針盤を模した時計だ。
「そろそろパリで始まったか。しかし、俺には関係ない」
「だったら、世界大会には出ないのか?」
「・・・・・・」
無言を返すウィンロード。
ヨーロッパ予選は、欧州の数か所で開催される。どの大会に出場するかは、選手ごとに決まっていた。
ウィンロードが出場するなら、「西ヨーロッパ予選A」になる。開催地はフランスの首都パリで、そろそろ競技開始の時間だ。
そのことを、子どもたちは知らなかったらしい。提督の周囲で、驚いた顔をしている。しかし、がんばって聞こえないふりを続けていた。
ディザスターはゆっくりと告げる。
「ここだけの秘密だが、俺は世界大会に出るぞ。『特別推薦枠』ってやつでな。人気者はつらいぜ。おかげで北米予選は免除だ」
「・・・・・・」
「おまえもだろ? じゃなきゃ、今頃はパリにいるはずだ」
ウィンロードは無言を数秒続けたあとで、ため息を一つ。そして、小さくうなずいた。
その直後、子どもたちの顔が明るくなる。
「さてと、おい、おまえたち、もう耳をふさがなくていいぞ。耳から手をはなせ」
大げさなジェスチャーを交えながら、ディザスターが言う。
「おまえたち、俺たちの話を聞いてないよな?」
「はーい♪」
「よし。みんな、いい子だ、いい子だ」
子どもたちの頭を順番になでなでしながら、
「もう一つ聞きたいことがある」
ディザスターは顔だけをウィンロードの方に向けた。
「あの『黒仮面』について、何か情報はあるか?」
「いや、特にないが、何かあったのか?」
「ああ。二時間前、アメリカに現れた。ネバダ州のホテルだ。あの野郎、特大のシャンパンタワーを、ボウリングの玉で破壊していきやがった」
「おまえが所有するホテルか?」
「いや、別のホテルだ。同業者のホテル」
ウィンロードは少し考えてから、
「おまえが実行犯じゃないのか?」
「おいおい、そのホテルを所有している奴からも、国際電話で同じことを言われた。銃声つきでな。奴さん、かなり頭に血が上っているらしい」
もちろんウィンロードも、「ディザスターが実行犯」だとは本気で思っていない。
二時間前にアメリカのホテルで、シャンパンタワーを破壊した。それなら今、ここアイルランドにいるのは不可能だ。
あと、ディザスターのやり口とも違う。
この男なら、酒を粗末にはしない。ディザスターのギャング団はアメリカ禁酒法時代に、密造酒ビジネスで荒稼ぎをして、勢力を拡大した。そんな歴史を持つためか、酒には特段の敬意を払っている。他のギャング団に嫌がらせをするなら、違う方法を選ぶだろう。
「そういうわけでだ。あっちに車を止めている。少しつき合え。『黒仮面』がシャンパンタワーを破壊した映像がある」
まだマスコミには公開していない映像だという。被害にあったギャング団からの提供らしい。
「それを見て、意見を聞かせてくれ」
「その映像を、おまえは見たのか?」
「ああ。あんな芸当ができる奴は、そう多くはない。世界に十人といないだろう」
つまり、『黒仮面』はその内の誰か。
ディザスターが考えるに、今ここで直接、こうして顔を合わせている以上、
「俺は違うし、おまえも違う。『黒仮面』の正体は、残りの誰かだ」
ウィンロードも考える。
(しかも、ギャングが所有するホテルで、シャンパンタワーを破壊か)
普通は、思いついても実行しない。相手はギャングだ。命がけの火遊びになる。
にもかかわらず、それを実行した。そんな奴が、『黒仮面』の正体だ。
ウィンロードの脳裏に、世界的な『DCB』のプロ選手が何人か浮かぶ。
しかし、どうもしっくりこない。そこまで頭のねじが外れている奴は、いないような・・・・・・。
女性選手も容疑者に含めていいのなら、ギャングのシャンパンタワーを破壊してもおかしくないのが、一人だけ思いつく。が、『黒仮面』は男だ。
さらに考えてから、ウィンロードはつぶやく。
「未知の奴かもな。そいつは仮面を外して、世界大会に出てくるかもしれない」
あの『黒仮面』、『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』の実力はかなり高い。
そんな奴が、世界大会に興味を示さないだろうか。いや、その可能性は低い。
「すでにどこかの予選を勝ち上がっているか、もしくは、これから勝ち上がってくるかもしれない」
「いいな、それ。そっちの方が俺好みだ。世界大会での楽しみが増える。楽しいことは多い方がいい」
ディザスターはニヤリとして、
「『黒仮面』の正体が誰であろうと、奴は俺がつかまえる」




