特別推薦枠
高層ビルの最上階に、紋付き袴の老人がいた。
このビルを所有する会社の「会長」だ。
と同時に、別の肩書きもある。
この老人を抜きにして、『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』を語ることはできない。
あの競技の「考案者」だ。ボウリング好きが高じて、さらなる刺激を求めた結果、『DCB』を思いついたのだ。
並べられた大量のドミノを、ボウリングの玉で豪快に倒す。
盛大に吹っ飛んでいくドミノ。
その光景はインパクトがあり、『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』は世界中へと広まっていった。今では色んな国々で楽しまれていて、世界大会も開かれている。
そして、今度の開催地は「日本」だ。
それに先立って、『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』の考案者として、「新しいルール」を提案した。
求めたのは、これまで以上の刺激。
従来の『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』は、ドミノを倒すだけだった。
しかし、新ルールによる『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』では、そこで終わりにしない。
さらに先がある。現場からの「逃走」だ。
これを「新ルール」として追加した。
ドミノを倒した時点で、警備員たちが動き出す。
彼らから一定時間逃げきることができれば、「勝利」だ。
このルール改定によって、『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』のゲーム性は、大きく変わることになるだろう。
勝つために必要な要素が増えた。もはやボウリングの技術だけでは戦えない。急いで逃げなければ、警備員たちに捕まる。逃げ足の速さも重要だ。
日本代表の選考会議でも、その点が重視された。現場からの逃走を考えると、若いメンバーで世界に挑んだ方がいい。
日本は『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』の発祥国でありながら、近年の世界大会では苦戦が続いている。今や挑戦者の立場だ。
とはいえ、若手に有望株がいる。
島原ヒミコ。
昨年行われた若手の世界選手権で、準優勝している。
日本代表の一人目は彼女だ。
さらに二人目もあっさり決まる。忍者の一族だ。
ここまではいい。世間の予想通りだろう。
日本代表はあと一枠。
最後の一人について、選考会議は難航した。はっきり言って、どの候補者も「帯に短し、たすきに長し」だ。
で、結論はこうなった。
最後の一人については、『日本DCB協会』の「会長」に一任する。
その会長というのが、この老人だ。『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』の「考案者」であると同時に、『日本DCB協会』の「会長」でもある。
面倒を押しつけられてしまったが、そもそも新ルールを言い出したのは会長自身。こうなったのは仕方がないだろう。
それでここ数日、考え続けてきた。
日本代表最後の一人を誰にするのか。
老人の中で、候補は二人にしぼられている。そのどちらが、日本代表にふさわしいのか。
しかし、そこから先が決まらない。時間ばかりが消えていく。
(考えなければいけないことが、他にもあるのだが・・・・・・)
こうなったら、二枚の紙に候補者の名前を書いて、船の形に折り、
(その二つを川に流して、速かった方にするか?)
無茶苦茶な決め方だが、そもそも『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』自体が無茶苦茶な競技だ。こういう決め方は、逆に「あり」かもしれない。
そんなことを考えていると、
「会長、お客さまがご到着されました」
そう言って、秘書が客人を連れてくる。
外国人だ。黒い髪で、褐色の肌をしている。古代エジプト風の装身具を、体のあちこちにつけていた。あと、銀色のアタッシュケースを持っている。
この人物は、『世界DCB協会』の「副会長」だ。
で、この老人が「会長」。『日本DCB協会』だけでなく、『世界DCB協会』の「会長」も兼任している。
「よく来てくれた。ラーディ」
老人が破顔すると、
「ムラサメ会長、あいかわらずお忙しいようですね」
相手も笑った。
「そうだとも。やるべきことが、たくさんある。君の方も同じではないかね?」
「なので、たまにサボるようにしています」
「なるほど。わしも見習うとしよう」
ムラサメは秘書を下がらせた。
これから秘密の話し合いをする。世界大会の予選が間もなく始まるので、先に決めておきたいことがあった。
まだ世間には公表していないが、今度の世界大会には『特別推薦枠』が存在する。この枠に選ばれた者たちは、各地の予選に参加することなく、本大会に出場できるのだ。
それを今から決める。
ここにいる「会長」と「副会長」の二人で。
そうして決めた者たちには、こっそり連絡する。世間に公表されるのは、もう少しあとになってだ。
これは世界大会を盛り上げるための「サプライズ」。事前に情報が漏れないように、会長と副会長だけで決めるのだ。それぞれが「候補者」を五人ずつ選んできて、その中から決める。
ムラサメは日本代表の件を頭の片隅に追いやると、大きなテーブルの上から、タブレット端末を取った。
「わしの候補者は、この五人だ」
端末の画面には、五人の顔写真が表示されている。
その中の一人は、あの『黒仮面』だ。話題の人物。世界大会の盛り上げ役には、うってつけだろう。
ただし、その正体が不明なので、連絡先はわからない。
もしも『黒仮面』が『特別推薦枠』に決まれば、例外的な措置をとる。すぐさま世界中に告知して、相手からの連絡を待つのだ。
「私の方は、この五人です」
今度はラーディが、アタッシュケースの中から、五枚の写真を取り出した。五人の候補者たち、その顔写真だ。
それを一通り見てから、ムラサメは感想を告げる。
「楽しそうな人選だな」
「会長の方こそ、大会を盛り上げてくれそうな顔ぶれですね」
こうして、『特別推薦枠』の候補者たちが出そろった。
それぞれが選んだ五人の内、
「共通するのは、一人だけだな」
ムラサメが言う。ラーディもうなずいた。もっと共通する候補者がいると思っていた。
とはいえ、この一人に関しては、選ばない方がおかしい。
単純な実力だけで評価するなら、現在の『ドミノ・クラッシュ・ボウリング』界において、最強の人物だ。新ルールにも、あっさり適応してくるだろう。
なので、『特別推薦枠』の一人目は、
「『石版の王』で決まりですね。それで問題ないと思います」




