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【完結】俺の幼馴染♂の距離感がバグりすぎているーコタツと蜜柑と、 ――と。 終わりがちょっとズレた冬休み  作者: 新堂凪×TAU


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8/19

其之漆  1月1日 Past/ゴミを、お前に 真剣勝負。

 沈み込む夜の底で、オレを何度も呼ぶ声がした。

 溶けた体が、徐々に重さを取り戻していく。

 雪のかまくらが揺さぶられて、オレは目を覚ました。


「安成。すまんな、起こして。

お前が言うように三日までは、手伝ってくれるか」

「……親父。だいじょうぶ、やれるよ。着替えてすぐ行く」

「頼むな」


 ソウを起こさないようにそっと布団を抜け出す。

 くたびれたスウェットを脱いで、あったかインナーを着込んでから作務衣に着替えた。

 ん、着慣れているように見えるって?

 家の手伝いの時に着るようにしてたらラクでよ。

 学校でもこれで行ってるんだぜ。

 ウチの学校は完全私服だからよ、組み合わせ考えるのもめんどくせえからさ。

 まあ冬の間はさすがに、スウェット一択だけどな。


 本当は、寺は大晦日から忙しい。

 除夜の鐘。新年の祈祷。火焚き供養。

 初詣に訪れる参拝客への対応など、やることは山ほどある。

 それをムリ言って、大晦日だけは免除してもらった。

 フトンダイバーは、あの瞬間にしか出来ないからだ。

 でもプラグスーツもD型装備も、オレは持ってない。

 だからオレが出来る、たったひとつの冴えたやり方はこれしかない。

 

 せめてオレがオレらしく、あるために。

 そして、あの時間があるから。


 オレは今もまだ。立って、いられる。


 スーッ。パタン。




 ヤスが静かに部屋を出て行ったのを、俺は布団の隙間から見ていた。

 あと十日。

 ヤスにはそう言ったけれ、あの様子だと三日間はお寺の手伝いにかかりきりだ。

 つまりは、あと七日。実質、六日。

 それまでに、出来ることをしたかった。

 俺に時間が少しでも、許されているのなら。


 布団はヤスがいたところだけ温かくて名残惜しい。

 でも今しかない。

 そう思って俺は布団をすり抜けた。

 それからテレビのモニター横の左のスピーカーを覗く。

 やっぱりまだあった。

 一年前の冬休み。

 ヤスがお寺の煤払いという大掃除に駆り出されている時、俺は見つけちゃったんだ。

 綺麗に包装された、プレゼントを。

 確かゲームしてたら急に音が聞こえなくなって。

 故障かなって触っちゃったんだ。

 中身は開けなくても予想はついてたよ。

 ヤスは何度もその財布いつまで使ってるんだって、愚痴をこぼしていたからさ。

 受験の合格祝いなんだろうなって、そのまま戻したんだ。


 でもあの時やっぱり、見つけたことを言っておけばよかった。

 なのに俺は、あんな言い方でヤスの進路を歪めて。

 もっと別の言い方なら、きっと。

 同じ結果でも、ヤスに罪悪感を背負わせずに済んだのに。

 もしあの時に戻れるなら。

 俺はきっと、こう言うよ。


 川内社と連坊館、どっちも部活動が盛んなんだって。

 ヤスはどっちがいいと思う、って。


 そうすればきっと、ヤスがどっちを選んでも俺はもっと頑張れた気がする。

 ヤスはどっちを、選んだかな。

 まあ今更こんなこと考えても、遅いんだけどね。

 開けてみると、財布は二個あった。

 長財布と、折り財布。色は同じ黒だった。

 でもどっちが自分のかは、すぐにわかったよ。

 どうしてかって?

 Sの刻印で、だよ。




 勤労奉仕は疲れる。

 でも、労働や搾取よりずっといい。

 ソウのイスを奪ったオレの手にも、残るものがある気がするから。


「ソウ、ただいま。わるいな、相手してやれなくて」

「おかえり。ヒマだったから掃除してたんだけどさ。

ねえ、これ俺のだよね? 貰っていい?」

「……ッ! なに勝手に開けてんだ、バカ! それはゴミだ! 返せ!!」


 ソウが二つ折りの財布をパカパカさせて、涼しい顔で笑っている。

 アレは受験の前に、小遣いの前々々借りとお年玉を含む相当の背伸びをして買ったやつだ。

 親父には財布くらい買ってやると言われたが、自分で買わないと意味がない。


 ソウと同じ高校へ行く。


 そんな未来を、カネで買ったと思えば安いもんだろ。

 でも合格祝いには渡せなくなって。

 それとなく今年の誕生日にでも、渡してやるつもりだった。

 そのはず、だった。


「ゴミなら、俺が貰ってもいいんじゃない? ずいぶんと綺麗なゴミだけど」

「う、うるせえ! バリバリの財布使ってるお前には、勿体ないゴミだろ!」


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


「そんなことないよ。どっちも、大事さ」

「ああ、そうかよ。だったら、くれてやるよ。ただし、長い方のはオレのだからな。

同じゴミ捨てブランドでも、文句言うなよ」


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


「ははは! ゴミ捨てブランドって、なにそれ。いいじゃん、新しいね」

「ゴミに新しいも何もないだろ、バカか!」


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


 ソウは上機嫌で、財布の中身を詰め替えていく。

 オレのムカつきは収まらない。

 だから心の経典は放り出して、オレは伝家の宝刀に持ち替えた。


 柄の一番下を、左手の薬指と小指で締める。

 親指の付け根で抑えると、ブレない。

 右手は添えるだけだ。

 親指と人差し指の間が、上に来るように。

 卵を握るみたいにそっと。

 力は、その瞬間だけ。


 中段の構え・夢十夜(あととおか)ーー!


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


「あはは。ヤス、それ全然痛くないぞ」

「うるせえ! カカシは黙ってろ!」


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


 オレは何度も、伝家の宝刀を振り下ろした。

 親父、コイツはちっとも効かねえぞ!

 一体どうなってるんだ。


 漱石の「月が綺麗ですね」の意味が「I love you」だってのは有名だろ。

 だからオレは、『夢十夜』はいい話だと思ってたんだ。

 ところがどっこい。

 百年待ってろなんて、ふざけた約束をする男女の話だったんだぜ。

 寿命が足りねえだろ、バカか。


「ヤスがカカシの方がいいなら。俺、黙っていようか?」

「うるせえ! 屁理屈なんかどうでもいい! 黙って殴らせろ!」


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


 まあでも、気持ちがわからないでもねえけどよ。

 だからキライじゃねえよ、漱石はな。

 オレは腕が痺れるまで、ソウに夢十夜を叩きつけた。

 二日と三日の勤労奉仕でオレの腕が使いものにならなかったのは、言うまでもねえな。


 もうこれで、さすがのアンタもわかったろ。

 オレは昔も今も、剣道部だぜ。

 ま、どうでもいいことだけどよ。

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