其之陸 12月31日 オレのかたち、ソウのかたち 期間限定。
大晦日の寺の夜は、訪れる参拝客の靴音と喧騒で落ち着かない。
そんな浮き足立つ心を、親父が突く除夜の鐘の音が鎮めてくれる。
でもそれすら掻き消すように、部屋の中で二種類の銃撃音が響き渡る。
カシャッ。カシャッ。
パパパパパァン。
カシャッ。
「ソウ。お前、あと何日ある?」
「……なにが?」
パパパパパァン。
オレはコタツに足を入れたままだから、ソウの声は背中越しに聞こえる。
カシャッ。
「決まってるだろ、冬休みだよ。
学校違うんだから、念のため聞いておこうと思ってよ」
オレの視界と両手は、ゲーム画面の照準器に吸い付いたままだ。
オレがやっているのはFPS。
プレイヤーの視点そのもので戦場を駆け回る、シビアなシューティングゲームだな。
「なんだ、そのことか。ヤスの学校と同じ、だよ」
シュピッ。シュピッ。
ペチャッ。ペチャッ。
ソウも振り向く余裕はない。
ソウがやっているのはTPSだ。
プレイヤー視点じゃなくキャラクターの背後にカメラがあって、それを自在に動かすんだ。
FPSより操作性が複雑で、こっちの方がオレはゲームセンスが必要な気がしてる。
「そうか。じゃあ十日までだな」
カシャッ。カシャッ。
パパパパパァン。
「うん、十日までだね」
パシュッ。パシュッ。
チャポンッ。パチャッ。
オレがやってるエペは、撃たれ続ければ死ぬ。
回避するには遮蔽物に隠れて震えながら回復を待つしかない。
ソウのスプラも基本的には同じだけど、決定的に違う点がある。
あっちは自分のインクに潜りさえすれば、全回復して戦線に戻れる。
死ななくて済むんだぜ。
面白いよな。
ゴーン。ゴーン。
寺にいつからあるのか定かでない、柱時計が鳴った。
「明けたな。オメデトウ」「明けたね。おめでとう」
カッチ。カッチ。
振り子が揺れて、静止しようとしていた。
「「……すべてのチルドレンに」」
おめでとう。
ポコッ。ポコッ。
「はあ。ちっとも、めでたくねえな! あと十日しか。ねえのかよ」
「そうだね。ちょっと不謹慎だけど。大雪でも降ってくれたら。
冬休み、伸びたりしないかな」
パパパパァン!
パパパパァン!
あ、しんだ。
クソ、味方も全滅してるし今日はもうやめにするか。
オレは雑にコントローラーを放って、伝家の宝刀を手に取った。
最近はコイツが手のひらにないと、逆に落ち着かねえぜ。
何でだろうな。
「なあ、ソウ。今日は一緒に寝るか?」
ソウの画面を覗くと試合はまだ続いていて、花火の上がる夜空を駆け回っている。
マヨネーズ色のインクの海に、ケチャップが飛んでくる。
何かを叩くような乾いた音が、ソウの手元から聞こえてくる。
「変なもんに触るから嫌だって、言ってなかった?」
ベチャッ。ベチャッ。
「触らねえから大丈夫だよ、今日は。もう、溶けてるんだからな」
ドクンドクン。
「ははは、上手いこと言うね。それじゃあ今日は、そうしてみる?」
……パチャッ。
「連チャンでFPSは目にくるぜ。寝よ寝よ」
「へへっ。やったあ」
ピーッ。
試合終了のホイッスルが鳴る。
画面の中のキャラクターは、ガックリと肩を落として悔しがっているのに、ソウは嬉しそうだ。
「そんなに、喜ぶようなことか?」
オレは、勝てない試合なんてキライだ。
でも、見ているなら死なない試合の方が好きだ。
なあ。アンタもそう思わねえか?
スイッチの電源を落とすと、ソウはオレよりも先に頭から天国に突っ込んで行った。
オレも続けて空いてる隙間に両足を差し入れて、潜り込む。
大福みたいな布団に包まれると、中身の餡に自分がなったかのようだった。
「おやすみ、ヤス」
「おお、オヤスミ」
「やっぱり人肌は、あったかいね」
「黙って寝ろ、バカ」
ポコッ。ポコッ。
オレは面白くなくて、ソウの頭をぐしゃぐしゃにしてやった。
ソウはもう寝ちまったのか、ちっとも痛がらねえ。
たまには、オレが圧倒させてやりてえな。
耳に息を吹きかけようとして、途中で止めた。
なんだ、コレ。
確かめるみたいに、今度は息を吸い込む。
……いや何やってんだ、オレは。
アホらし、寝よ。
終わりと始まりの夜が、静かに沈んでいく。
しんしんと降る、雪とともに。




