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【完結】俺の幼馴染♂の距離感がバグりすぎているーコタツと蜜柑と、 ――と。 終わりがちょっとズレた冬休み  作者: 新堂凪×TAU


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其之拾 1月5日 体温計と寒天と ー会者定離ー

 その日俺は、ヤスと遊ぶ約束をしてたのに家で寝ていたんだ。

 確かインフルエンザだって言われて。

 頭の中が熱くて、息苦しくて。

 背中から噴き出した汗が、身体の熱を急速に冷ましていく感覚だけを覚えてる。

 その後気がついたら、ヤスの家のコタツで寝ていたんだ。


 ピピピッ。ピピピッ。


「三十八度六分。まだ寝ていないとダメね」

「クソが! 寝正月なんて面白くもねえ」

「アンタ細いんだから。もっと食っちゃ寝して、筋肉つけた方が強くなれるわよ」


 夜になって、おばさんはまたヤスの様子を覗きに来た。

 でも息子にまだ熱があるにも関わらず、何故か嬉しそうに笑って部屋を後にした。

 俺の仕事はまだある。

 そういうこと、なのかな。


「ソウ、なんか話してくれねえか。ヒマで仕方ねえわ」

「いいよ。ヤスは、ばあちゃんが作ってくれたおやつ。何が好きだった?」

「そうだな。揚げパンみたいなやつなかったか?

あれは食べ応えがあってうまかったな。

でも代わりに夕飯入らなくなって。

作ってくれたばあちゃんが、じいちゃんに叱られてたけど」


 ヤスは食い意地が結構張ってるからなあ。

 腹八分目って言葉を知らないんだよね。

 じいちゃんもばあちゃんもそんなタイプじゃないのに、誰に似たんだろう。

 やっぱり、本物の康成かな。

 彼はね、文豪の中でも指折りのグルメと呼ばれていたんだ。

 自画像のイメージだと、そんなふうには見えないよね。

 特にシュークリームが大好物でね。

 他にも牛すき焼きやうな重が好きだったみたい。

 聞いてるだけで、幽霊の俺でも飯テロに遭った気分になるよね。


「あはは、あったね、そんなことも。

俺はね、牛乳寒天も好きだったな」

「あー、オレはあんまりだったな。でもばあちゃんよく作ってくれたよな。

作るの簡単だし、ソウが好きだったからか?」

「近いけど、ちょっと違うね。牛乳寒天はね、じいちゃんの好物だったんだよ。

昔はこういうものしか、甘味はなかったからって」


 ヤスが熱を出したその日、ばあちゃんから聞いた話だ。

 じいちゃんが亡くなって、ばあちゃんも寂しかったんだと思う。

 昔は見合い結婚が当たり前の時代だったし、ばあちゃん達もそうだったと言っていた。

 でもそれだけじゃない何かが。

 ばあちゃんの作るおやつには宿ってたと、俺は思ってる。


「じいちゃんが寒天好きだったなんて、知らなかったな。

オレには優しかったけど、ソウには口うるさいジイさんだったろ?」


 俺は風邪とか引きやすくて、ヤスより家にいる時間が長かったから。

 じいちゃんには物足りなかったみたい。

 外でもっと遊ばないから風邪をひくんだって、治りきっていないのに外に連れ出されたこともあったんだよ。

 さすがにヤスが、止めに入ってくれたけどね。

 でも、俺は遊べるならなんでもよかったから。

 全然気にしてなかったけどね。


「あはは、そうだね。お寺の境内で木登りして、枝を折ったりしたから。げんこつ食らったりね」

「思い返せば、アレはじいちゃんじゃなくても怒るか。

まあガキはガキのうちに、バカやっておかないとな」


 ヤスが牛乳寒天をあんまり好きじゃないことは、知ってたんだ。

 俺も初めは、そこまで好きじゃなかったからさ。

 でも残したら、ばあちゃんに悪いと思ってね。

 ヤスの残した分も食べてたら、話してくれたんだ。

 横光利一が亡くなった時に、康成が読んだっていう弔辞の話をね。


 君というあたたかい支えさえ奪われて、

 寒天に砕けるようである


 康成にとって、寒天は親友の象徴だったんだって。

 そんなことを知ってしまったら。

 好きになるしかない、でしょ。


「話してたら急に食いたくなってきたな。母さんに頼んで作ってもらうか。

ソウ、お前も食べるか?」

「俺はいいよ。もう充分、食べたからね」

「そうか? じゃあちょっと行ってくる」


 スーッ。パタン。


 俺が熱を出したその日は、十一月二十三日。

 勤労感謝の日だった。

 お勤めご苦労さん、ってことだったのかな。

 まあそんなしょうもない語呂合わせは、どうでもいいんだ。


 問題なのは、俺の冬休み。

 勤労感謝の日から、四十九日。


 一月十日まであと、何日だ?


 もう、数えたくない。


 ヤス、たすけて。


 オレまだ、ここに。


 ヤスと一緒に、いたいよ。

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