第6話:空間を裂く、届かない希望
「……もう、どうにでもなれ」
私は、スマホの画面を投げ出すように膝の上へ置いた。画面の中には、私たちの生活圏を示す地図が広がっている。そこには、あとわずか、本当に数ミリの距離で、私の円状の操作範囲から外れている「ポケストップ」が映っていた。もしこれが、あと数歩だけ近ければ。もしあの日、ポケストップ申請が通っていれば、こんな惨めな思いをしなくて済んだのに。画面の中のそれは、手の届かない場所で無情にもキラキラと輝き、私を嘲笑っているかのように見えた。
そんな折、友人が興奮した様子でスマホを突き出してきた。
「おい、これだ! パルキアの『あくうせつだん』だ!」
彼は鼻息荒く、ある攻略サイトの画面を見せた。オリジンフォルムのパルキアでしか入手できない特別な技。彼は興奮のあまり、その技のフィールド効果なら、ポケモンと出会える範囲だけでなく、ポケストップまで届く範囲も広げてくれるのではないかと思い込んでいたのだ。
「これさえあれば、家の中からでも、あの憎い境界線の外側にあるポケストップに届くかもしれない。あるいは、歩き回らなくても遠くのポケモンを……!」
私たちは救世主を見つけたような気分になった。これなら今の不毛な環境を打破できる。私は急いで手持ちのパルキアを確認した。しかし、そこに表示されている技は、どれも平凡なものばかりだった。あくうせつだんを覚えていない。
「……嘘だろ。どうやれば覚えるんだ?」
調べていくうちに、私たちは絶望した。それは過去のイベントで入手するなど、ごく限られた機会しか手に入らないものだった。今すぐ手に入れる方法はほとんどない。フレンドとの交換に頼ろうにも、そう簡単に見つかるものではなかった。
「二度と、手に入らないのかよ……」
あれほど期待した希望は、瞬く間に霧散した。私たちはまた、あの「届かない」という残酷な現実に引き戻される。この数ミリの境界線のために、私たちはどれだけの時間を費やし、どれだけの感情をすり減らしてきたのだろうか。
しかし、さらなる事実は私たちをどん底へと叩き落とした。
「……待て。あれ? 効果……違うぞ」
友人が改めて攻略サイトを読み返し、顔を青くした。あくうせつだんには確かにフィールド効果があった。しかし、それはポケモンと出会える範囲を広げるだけで、地図上のポケストップやジムに届くような効果ではなかったのだ。
「……ただの勘違い、かよ」
友人はスマホを放り投げ、ソファに深く沈み込んだ。私たちは、自分たちが思い描いていた救済措置にすがり、勝手に期待し、勝手に落胆しただけだった。あまりの滑稽さに、笑いさえ出てこない。この数ミリの境界線を越える術など、最初からどこにもなかったのだ。
「なあ。こんな……特別なものなんてなくてもいいんだ」
私は、何のアイコンも表示されない画面を見つめ、力なく呟いた。
「ただ、画面の中に見えているそのポケストップやジムに、普通にアクセスできればいいだけなのに」
私たちは、ただ歩くことが好きで、この景色の中でポケモンを捕まえたかっただけだ。それなのに、システムは「場所」という物理的な制約を盾に、私たちをゲームの枠外へと押しやる。境界線の内側は楽園で、外側は無価値。そのあまりに単純で、あまりに残酷な仕分けが、今日も私たちを「不審者」という名の影へと追いやっていく。
画面の外には、夏の夜の湿った空気が漂っている。スマホの画面の中だけが、世界から切り離されたように無機質に輝いている。私たちはただ、その小さなガラス板の中で光る小さな点に、明日こそは何かが変わるのではないかという、根拠のない期待を抱き続けることしかできない。それが、この理不尽な世界で、私たちが生きる唯一の手段なのだ。




