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ポケモンGOの謎 ——境界のピクセル——  作者: せんちゃん


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第5話:境界線の理不尽、あるいは「選ばれし場所」

「……また、ダメだった」


画面に表示された冷徹な「申請却下」の文字。その通知を見つめる友人の指先が、わずかに震えている。私たちは、家のすぐ近くにポケストップがないという、このゲームにおける最大のハンディキャップを背負っている。だからこそ、近所の町の掲示板を見つけ、夜な夜なそこへ通い、AIに説明文や補足説明を何度も練り直させては「完璧な申請」を繰り返してきたのだ。


今回こそは、と確信していた。ネット上の情報を読み漁り、私たちはついに「勝利の法則」を掴んだはずだった。ポケストップが一定数そのエリア(S2セル)に集まれば、そのうちの一つが「ジム」へと昇格する。ジムになれば、レイドバトルが開催され、私たちの生活圏に劇的な変化が訪れるはずだ。あの日、路地裏で警察官に職務質問された時の苦い記憶が蘇る。もしこの近くにジムがあれば、遠くのジムまで遠征して声を荒らげる必要もなく、もっと静かに、正当な「管理者」としてゲームを楽しめたはずなのに。その期待を胸に、私たちは掲示板の写真を撮り、誇り高く申請ボタンを押した。


しかし、その夢は、申請からわずか数日で無残に打ち砕かれた。


「嘘だろ……なんで?」


私は首を傾げた。申請の却下理由は曖昧だったが、納得がいかなかった。友人は血眼になってネット掲示板や解析情報を追い始めた。スマホの光が、焦燥に駆られた彼の顔を青白く照らす。やがて、彼は震える声で言った。


「……セルを見落としてた。ここ、もうポケストップが配置できないセルだったのかもしれない。しかも、このすぐそばにジムが三つもある」


頭の中が真っ白になった。私たちは、地図上の空白を埋めることに躍起になっていたが、見えていなかったのだ。この界隈は、システムが定めたセルの配置ルールの限界に達していた。これ以上、どれだけWayspotとしてふさわしい場所を見つけようが、どれだけ熱心に申請文を書き上げようが、システムがそれをゲーム内に反映することはない。


私たちは、その掲示板の前で立ち尽くした。風が吹き抜け、掲示板の紙がカサカサと音を立てる。ここには確かに町の情報がある。防災のポスター、回覧板の告知、地域の繋がり。それらすべてが、ゲームというフィルターを通した瞬間、存在しないものとして扱われる。


「ジムが三つ。この狭いエリアは、もうセルの配置ルールの限界なんだってことか」


友人は街灯の下で天を仰いだ。数百メートル歩けば、そこにはすでに過剰なほどの「聖域」が存在する。トレーナーたちは大量のアイテムを捨て、溢れるアイテムを贅沢に使い捨てている。一方で、私たちが住むこの一角は、たったの数メートルの差で、ゲーム体験の「限界」を突きつけられ、切り捨てられている。


「格差だよ。これはもう、明確な住環境の格差だ」


友人が毒づく。同じ町に住みながら、ゲームが提供する恩恵には絶対的な隔たりがある。開発者が決めた地図の論理一つで、私たちの住む路地裏は、ゲームの世界から見捨てられた「不毛の地」と化す。私たちがどれだけ情熱を込めて写真を撮り、説得力のある説明文をAIに書き上げさせても、その申請はすべて、システムが持つ「数」の暴力の前に飲み込まれる。


「……もうやめようか。結局、俺たちはシステムの外側にいるんだ」


私は、虚しく輝くスマホをポケットにしまった。画面の中の地図には、何のアイコンも表示されていない。私たちの努力は、ただの「データのノイズ」として処理された。この町で、この場所で、私たちはこれからも何も得られないまま、ただ地図の中の広大な「空白」を歩き続ける。


理不尽な境界線は、今日も冷淡にそこにある。システムは公平を謳いながら、実際には「場所」という物理的な制約を、最も残酷な形で格差として固定している。私たちは、選ばれなかった町の住人として、また暗い夜道を帰る。手の中にあるスマホを見つめても、この場所に新たなポケストップも、ジムも生まれることはない。


ただのピクセルでさえも、この場所には寄り付かないという、静かな拒絶。それが、今の私たちの現実だった。私たちは、すでに飽和したジムを三つも抱える幸運なエリアの影で、自分たちの場所がいかに無意味な努力の上に成り立っていたかを噛み締める。夜の静寂だけが、私たちの申請を拒んだこの町の掲示板を、今日もひっそりと守り続けている。

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